準備、着々と
「では、今後のことについてお伺いしたいのですが……」
商人ギルドの奥にある個室にて、ギルド長からそう尋ねられる。
俺は口を開いた。
「はい。薬屋を開くことを考えています。
これまではかなり安い額でしか自分のつくった解毒ポーションを買っていただけなかったので、自分の店でそれらを売りたいと考えたんです」
ギルド長が声を張り上げる。
「あー、そうだったのですね!! こちらも数ある薬屋の中から、マルサス様の希望に合うような薬屋を紹介できず申し訳ありません」
「いえ。ただ少し気になっていたので、確認させてもらってもよろしいですか?」
「はい、何でしょうか?」
ギルド長がかしこまっていう。お金のあるなしでこんなにも対応が変わる人たちなら、今さら改めて問いただしても仕方ないかもしれないが……。
「さっきのラードさんという職員の方には、他の薬屋も紹介していただけませんかと相談したことがあるのです。
ですが『他の店に移っても同じことだから』と最初の店しか紹介していただけませんでした。
こちらのギルドでは、そういった応対は普通のことなのでしょうか」
ギルド長の顔が瞬時に一変した。
「それは大変失礼いたしましたぁぁ!!
この後すぐに、あの者に事実を確かめさせていただきます。もし本当であれば、それは私たちの方針から外れております。
仕事を探されている方の側に立つのが当ギルドのモットーなのです。一つの契約先しか提示しないなんて、うちのやり方ではございません」
「そうだったんですね。じゃあ、申し訳ないですけど対応をお願いします。僕以外にも、あの職員の方に相談して無下にされた方がおられるかもしれないので」
「大変失礼いたしました……!! すぐに改善させていただきます」
「よろしくお願いします」
まぁさすがにここまで言うのであれば、それなりの対応はとってくれるんじゃないだろうか。
今後、このギルドに足を運ぶことが何度もあるだろうから、その時にそれとなく話を聞いてみよう。
それでだめなら、他のギルドに移るまでだ。
「マルサス様、長い間、うちの職員が不十分な対応しかできず申し訳ありませんでした。
それに気づいていなかった私にも、もちろん監督責任がございます。本当に申し訳ありません。
せめてもの償いではありませんが、迷惑をおかけした分、今後の話合いの中では色々と頑張らせて頂きます。
ですからどうか、今後とも当ギルドと末永い付き合いをしていただければと思うのですがいかがでしょうか……?」
どうやら考えることは同じようだ。こっちとしては、嫌なら他へ移ればいい。向こうとしては、大口の取引相手を他のギルドに取られたくない。
大金を武器にしてずるい感じもするけれど、今まで取り合ってもらえなかった分くらいは強気に出ても問題ないだろう。
「今までこちらのギルドで働かせていただいていたので、まずはここで相談させていただきます。しかし一応、他のギルドへ移ることも視野に入れながら相談させていただきたいです。
それでもよければ、よろしくお願いします」
俺はそう言って、手を差し出した。
ギルド長は汗をかいていたらしく両手を拭い、その手をとった。
「はい、それで構いません!こちらこそどうぞよろしくお願いします!」
それから毎日ギルドに通って、自分の薬屋を開店するための準備をすすめた。
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