番外編 盗賊の受難

俺の名は佐山凍夜さやまとうや。普通の大学生だ。


最近変わったことと言えば彼女に振られたことと最新式のVRゲームを買ったぐらいだ。

彼女に振られ自暴自棄になって、なぜか趣味が貯金に変わった。

信じられるのはお金だけだ。

そう思って割のいいバイトを探していると、大学の先輩から仕事に誘われた。

それはVRゲームでPKをして、一人殺すごとに5000円という謎の仕事だった。

ちょうどゲーム機を持っていたので、俺が誘われたようだ。

割はいいので、罪悪感もあったが、承諾した。



仕組みは簡単だった。チュートリアルで出てくるプラダ―盗賊団を名乗り、始めたての初心者を殺す。チュートリアルで一度使われている名なので、初心者は実践だと思い、油断して戦う。そこを殲滅。ほかにも仲間がいるので、負けるわけもない。

ただそれだけのことだ。

最初のほうは怖かった。

VRであっても人を殺すのは楽しいことではない。

ただその人数が数えるのも億劫になるころ。俺は確かにPK、例え仮想空間であっても人を殺すのを楽しんでいた。

仲間の中でももっと多くプレイヤーを殺し、ボスになった。

いつしか金を稼ぐ手段が目的へと変わった。

そして次の獲物がいつ来るか首を長くして待つ日々だった。



■■■


そんなある日。

そいつは突然現れた。


「獲物が来たぞ!」


と、見張りの声が共有される。

俺たちはすぐに臨戦態勢を整え、獲物が来るのを待った。

そうすると10秒と待たずに相手は現れた…が様子がおかしい。

なぜか奴は全力疾走していた。体全体を血に塗れながら。

そうしてあっけにとられていると、奴は話しかけてきた。


「あなたたちは敵ですか?」


その奇妙な見た目にそぐわない丁寧口調。一瞬思考がフリーズしたが、仕事だと思い出し、名乗る。


「俺たちはプラダー盗賊団だ、お前を…」

「ああ。敵で間違いないですね。」


途中で俺のセリフとかぶせるようにでかい声で敵と断定してきた。

一瞬抗議の声を上げようと思ったが、こちらに非はあるのでやめた。

まあ今回も簡単な仕事だ。初心者かどうかは鑑定持ちの見張りが確認済みである。

そう思って奴にもう一度目を向けると……。


なぜか「ぞくっ」と鳥肌が立った。

形容しがたい恐怖。その一端。

奴は……笑っていた。血に濡れた目で。笑っていたのだ。

そのまま奴は突っ込んでくる。

なぜか膝が笑う。デバフ?いや、もっと別種のナニカだ。

そうしている間に仲間が何人も切られてゆく。


「ぐあっ」「ぎゃあああああ」


奴はそのスピードをそのままに、仲間の胴を横薙ぎにしてゆく。

だが、この中だと俺が一番強い。大丈夫だ。と自分を鼓舞し、奴を見る。

と、奴は「ツギハオマエダ」とでもいうかのようにこちらを睨んでいた。


今度こそ背筋が凍る。そうしてあっという間に距離を詰められ、気が付けば目の前には刃。

理解が出来ない。初心者のはずではないのか?

だったらなぜ、なぜこれほどまでに恐怖を感じるんだ?

その疑問をぶつけるように叫ぶ。


「なんなんだてめえはあああああ」


だが奴は何も答えない。そして奴は俺を切るときも変わらず、ただ顔に不気味な笑みを浮かべていた。

その顔を最後に、俺の意識は現実に戻った。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

どうも。ゆるとうかと申します。久々の連日投稿。人間やればできますね。

今回は盗賊視点で書いてみました。一回やってみたかった表現をたくさん使えて大満足の作者でございます。

次の話ではついに始まりの街につきます。遅くなり申し訳ない。

評価やフォロー、感想、誤字脱字のご指摘などがあると大変ありがたいです。

作者のモチベは確定で上がり、投稿頻度も上がるかもしれません。それではまた次の話または別の話でお会いできることを願っております。

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