17
半開きのカーテンから朝日が細く差し込んできた。
ニシは壁に持たれたまま/寝ようにも寝るべき布団はサナが穏やかな寝息を立てて眠っている=サナの部屋の運ぼうにも、寝ぼけたサナに噛みつかれたのでそのまま放置。
ニシも眠りにつこうと目を閉じてみた/睡眠を邪魔するとめどない思考=魔導士誕生の秘密&異なる世界線の常磐の野望/レンゴーとは寺社連合のことだろうか。
違う世界線とはあくまで
まだ子どもたちが起きてくるまでに1時間はある=朝食と、ついでに夕食の準備も軽く済ませておこう/洗濯物も干しておかなくちゃいけない=保護者として子どもたちのお手伝いに頼るわけにも行かず。
ニシはブルーベリージャムを塗った薄い食パンを齧りながら魔導を発動=塩鮭の切り身が宙を舞い魚焼きグリルに収まる/鍋の中に水が召喚されグツグツと沸騰を始めた。
「世界線を超える旅はどうだったか?」
まさに天の声──姿は見えなくてもそこに存在は感じた/慣れた日常。
「サナの記憶を見ただけだろう。世界線を移動するのはマナを大量に消費する」
「肉体が伴えば、そうであろう。だが自我や意識だけであればゆらぎあう量子が別世界を見せてくれる」
空気が揺らぐ/白黒の点が集まり色彩を帯びる/アロハシャツを着た湘南風の大男=自称・神。金髪の先が天井に当っている。
「サナと同じ言葉だそれ。多少は理解できるがやっぱりよくわからない。記憶を見たのでないなら、あれか、タイムスリップしたってことか」
「世界線とは無限に“現在”が存在する。様々な現在も大過去もあれば大未来だってありうる。サナが見たという過去もその現在の何処かに存在する」
「つまり、タイムスリップしてない? 世界線を横に移動しただけ?」
「うむ。我は理解はしているが。うむ、ヒトの言葉では形容しづらい。ニシ、お前も修練を積めばいずれ
「エロ神、
「はて、我はそういうつもりで言ったわけじゃないんだが」
カグツチは困ったように金髪を揺らした/天井に積もったホコリが舞う。
「お兄さん、おはようございます。あ、カグツチおじさんも」
ひどい寝ぼけ
「サナ、肩。服がずり落ちてる」
サナはガラガラとダイニングテーブルの椅子を引いて座った/ダラダラと肩口に襟を寄せた。
「お兄さん、昨日はありがとうございました」
「あのぐらいどうってことはない」
「でもわたしの記憶のことは内緒にしてください。わたしにとって今、この世界線が現実なのです。これからも記憶喪失で
記憶が戻ったせいかずいぶんとひょうきんな事を言うようになってしまった。
「で実際は何歳なんだ? 少女って歳に思えないんだけど」
「もう、お兄さん! 女の子に年齢を聞くのはマナー違反なんでよ」
「気にする歳なんだな」
サナ=はっと口をつぐむ。「まあ、いいです。もう一度ちゃんと学校に行って友達と遊べるんですから。若返ることはいいことです」
「好きなお酒は?」
「アングブリー種のワイン」=サナの即答
「ガハハハ 仲睦まじくてなにより」=カグツチの遠慮ない笑い声。
「あまりうるさくするなよ。子どもたちが起きるだろ」
「して、時空の魔導士、ニシとはまぐわえたのか」
ニタニタ顔の大男/サナはハッとなって口を抑えた。
「こらカグツチ、あまりからかうんじゃない。サナ、俺は寝ていた間、何もしていない。誓って本当だ」
「えっ何もしなかったんですか」
どういう意味だ/信用されていない?
カグツチはふたたび首を傾げた。
「ふむ、どうやら勘違いがあるようだ。まぐわいは
さらりと=自称・神の口から告げられる魔導の神秘。
「ということは」サナがぽかんとカグツチを見上げた。「ジジィ師匠さんは心を覗くからお兄さんやわたしの天賦がつかえる」
「うむ。完全ではないだろうが、
「じゃあ、わたしもお兄さんみたいに召喚ができるの?」
「うむ、できるであろうな」
神の首肯。
「ウムムムムム」
眉間にしわを寄せるサナ/それを見つめるニタニタ顔の神。
ニシはふたりのやり取りを見ながら=時間と空間を操る魔導/使えるようになるなら試してみたい/記憶の中のサナが行使した完全な防御=これは魅力的だ。世界線の移動=これは止めておこう。未来予知=ジェダイみたいに洞察力が鋭くなれば五感感覚を魔導で強化して戦わなくて済む=
「なあ、サナ───」
「神よ、いざ降臨!」
大仰な呪文/大仰な身振り手振り=魔導の発動キーを考えていたらしい。
大げさ/しかしカグツチの姿が消える=マナを供給し続ける負担がプツリと無くなった。
0.5秒後=サナの傍らに大男が出現/ニタニタ顔で腕を組んでいる。
「できました! じゃあじゃあ、お兄さんみたいな召喚もできるんですかね」
「ああ、サナ? 朝からいきなりマナを使いすぎるのは良くないと思うんだが」
「こーみえてもわたし、17号クローラーが完成して300年で史上最高の魔導士と言われてたんですよへへん! このくらいなんてことはないです」
何も持っていないはずの右手=召喚/サナは魔法の杖を握っていた。
マナの
「コナン・ザ・グレート? 筋肉が好きなのか」
「もちろん。全女子の憧れですから」
「そんなものなのか」
「そんなものです」
全女子憧れの着せ替え人形の神を虚空へ
「で、サナ。時間と空間を操るってことは、あの防御魔導も?」
「ええ、お兄さんならできると思います。わたしの二つ名は盾の魔導士ですから」
「んー便利だが魔導障壁は今のままで十分効力があるし、そうだ未来予知とか?」
「あーそっちはおすすめしません。宇宙とは、無限たる並行宇宙の総称。それはすなわちシュレディンガー的宇宙なのです」
「今のは、説明?」
「ええ、説明です。首座の先生に教わりました」
「もう少しこう、日本語で説明するなら……」
「未来予知はあてにならない、という意味です」サナ=あっさりと「予知した未来というのは“誰も予見せずに至った結果”ということです。わたしが未来を見た瞬間、その未来は別方向の世界線を紡いでしまって意味が無いんです。ある程度は予見できますが不確実な未来にたどり着き予想外の悲劇を生む可能性も」
「
「へへへっ、すごいでしょ」
サナ=満足気にピースサインで応えた。
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