第48話

 コウたちは一緒に真津喫茶店へ向かう。コウが口裂け女の件をボツにしたのも元々依頼のものではなかったし、でしゃばりな口裂け女のこともあったし、一番は美守もみえる人間であったことが確定したことだ。



 喫茶店に行くと渚が待っていた。

「今さっき……美守くんのお父さんから電話きて美守くんが社会科見学中に寝ちゃったそうでこっちに向かうとのことです」

「お父さんってマスターもお父さんだから喫茶店だけで十分じゃなかったのか?」

「いえいえ、もう喫茶店のことはレポート済みで。市役所のことを書くとさらに成績上げてもらえるかもーって美守くんが」

 小4にしてはあざとさが見えていた。が、多分それは自分だけの意思ではなかったのだろう。口裂け女を市役所に連れて行こうという口実でもあったかもしれない。しかしなぜそんなことを美守がしたのだろうか。コウと由貴はわからなかった。

「美帆子さんは?」

 由貴が聞くと

「美帆子さんは県庁の方に出張に行ってて。たぶんあと一、二時間で帰るかと」

 というのを渚から聞かされてコウは本来なぜ市役所に2人で行ったのかを思い出した。

「そうだった、もともと槻山さんに会うために行っただけであんな目にあったからなー。上乗せして給料もらえないかな……」

 とコウがぼやくと渚は首を傾げる。


「なんのこと?」

「いや、なんでもない……」


 カランコロン……


 そこに槻山が美守を抱えてやってきた。どうやら誰かに車に乗せてってもらって来たようだ。渚は慌てて奥の部屋に案内する。

 コウと由貴もついていく。本当に何もなかったかのように美守は眠っている。



 喫茶店から自宅兼事務所につながる階段へ案内されて美守をベッドの上に寝させる槻山。そして頭を撫でている。

 コウと由貴は美守の部屋を見渡す。そして部屋の外に渚を呼び寄せたコウ。急なことで渚はドキッとする。


「なぁ、渚ちゃん」

「はい……」

「美守くんは何か変なところはあったか?」

「変なところ? うーん……まぁちょっと変わったところもあるし、血は繋がってないけどおとなしくて物分かりのいい弟よ」

「そうか……」

「どうして?」

「いや、美帆子さんから何も聞かされてないのか?」

 渚はよくわからない、という顔をしている。コウはポケットから小包を出した。

「今夜美守くんが風呂入る前にお湯の中にこの中の塩を混ぜてやってくれ。また明日持っていくからしばらく一週間、続けてくれ」

「は、はい……あ、これ」

「サンプルが届いたから一番先に渚ちゃんにと思ったけど……美守くんに使ってやってくれ」

「は、はいっ!」

 またもや渚を喜ばせるような言い方をするコウ。


 手渡されたのはコウのオリジナルお清め塩。まだサンプルだがデザインは由貴で人気にあやかってよく使っているキッチンソルトメーカーとコラボして作ったものらしい。

「……でもこれお料理には使えないもんね」

 といいつつも、さきに自分は渡したかったと言われて少し嬉しくなった渚は階下に降りた。

 コウは部屋に戻った。由貴がまだ部屋にいたからだ。出ればよかったものの……。

「美守……」

 槻山は寝ている美守のおでこに手を当てた。確かに離婚はして別々になったのだが市役所で見せた公務員の顔でなく、父親の顔をしているなぁと由貴は思った。


 そこへ階段を駆け上がる音が聞こえた。美帆子だった。

「美守……今帰ってるって聞いたんだけど、って」

「……美帆子さん」

 元夫婦同士顔を合わせる形になり、二人はびっくりしている。すごくバツの悪そうな顔をしていた。

 その空気感にコウと由貴は場違いかと思ったがまた出るタイミングを失った。


「美守疲れちゃったのかしら?」

「そうみたいなんだ。気づいたら僕の課の近くの事務所で寝ていて……」


 コウたちも、うなずく。


「ありがとう……もうあとはいいわ」

「ああ」

 美帆子は槻山に代わって寝てる美守の頭を撫でる。そしてすやすや寝てるのを見て安堵の表情だ。


「じゃあ僕はもう帰るね」

 寝ている美守に向かってそう声をかけコウと由貴に頭を下げて帰っていった。



「美帆子さん、俺らに何隠してた」


 コウがそういうと彼女はハッとした。


「……美守くん、実は口裂け女に乗っ取られて市役所で倒れたんです」

 と由貴。


「彼は俺らみたいにみえる、のか?」

「……」

「理由はよくわからんけど少し前にあった市役所のトイレの花子さんも美守くんが市役所に花子さん連れてきたから、のようですよ」

「……そう」

 美帆子は美守が寝ているのを確認して話し始めた。


「実はね、私の家系は代々子供の頃に霊能力を授かって生まれるの。でもそれは子供の頃に消えてしまうの。現にもう私は何もみえない……」

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