第35話
ミツオは頷く。一年も経ってない事件まではいかないが事故。当時人妻とネットで知り合った男が心中をしたのではないかと大騒動になった事件。それを失楽園事件とネットでは騒がれていた。
ブレーキ痕はなかったが、のちに車が調べられブレーキの不具合があり、ナナのものと思われる『これからは一からやり直し自由に生きていきたい』というネット掲示板での書き込みと、新天地である県外の施設の住所があったことで、心中でなくミツオがナナの新しい生活をする場所までの後押しとして車を出した矢先の事故と警察はそう見解を示した。だがしばらくはあらゆる噂が錯綜した。
『……ナナをはやく遠くに逃がしたかった。〇〇県の山奥に同じ思いで苦しんで逃げてきた女性をかくまう施設があることをネットの仲間から聞いて……』
コウはううむ、と口元を触る。ミツオは手が震えている。
「ミツオ君はナナさんを逃した後どうするつもりだった? 自分自身……」
『……普通の生活に戻るつもりでした』
「でも戻れんかったな、死んだから」
『……』
「それにナナさんをその場所に連れて行ってもナナさんは大変な思いをしただけでしたよ」
『なんで? そこは絶対ナナさんを救ってくれるって』
「誰から聞いた」
コウはミツオに詰め寄った。ミツオはおろおろする。
『ネットで……』
ナナも頷く。
「ネットでか。鵜呑みにしたんか……」
『鵜呑みというか……』
「藁にもすがる気持ちやったのはわかるが、事故で死んだ方がまだマシだったな」
『なんで!!!』
コウはカバンの中から革手袋を出してつけた。服はスエットのままだがこの方が気合が入るようだ。
「なぁコウ、なんで死んだ方がまだマシだったってどういうこと?」
由貴はカメラをコウに向ける。
「アホか。〇〇県の山奥、施設でピンとこないか」
「……ええと……」
由貴はうーんと考え、ハッとした。思い出したのだ。そこには巨大な村ができており、そこは言葉巧みに弱い人間を匿うと言ってのちに酷い労働や洗脳をさせる場所があったのだ。だがいまだに法律上取り締まることはできないのだ。
「……でも……苦しいところから逃れたかったんだな。ナナさん、辛かったな。それとミツオ、優しい。だが自分を犠牲にしてしまった。お前の勇気には頭が下がる。でもここにはいてはいけない。2人、……成仏しろっ!」
コウはミツオの額に指を当てた。
「え」
ミツオとナナは消えた。
「……ふぅ」
コウはサングラスを外した。
「あらー、もっと話聞いたほうがよかったんじゃ。なんなら僕が聞いてたのに」
由貴は録画ボタンを止めた。コウはサングラスを外した。
「ナナさんの辛さや悲しみは全部ネットで吐き出したろ、それをみた心の優しい若者が行動に出た……それが裏目に出て2人して死んでしまった。誰かのおかげで事実は明るみになったがまだネットでも何処かでも言われて傷ついてる人はたくさんいる。あの2人がまだこの世にうろうろしてたのもそのせいかもしれないな……」
「……だからこそ僕が聞いて……」
コウは由貴を見た。
「あほ、あまり一つ一つ情を持つな、体がもたない。それにあの2人は彼らにとってメリットはない」
「メリットって……」
「これからこの能力と共に生きてそれを仕事にしてお金もらって生きてくなら割り切れ! おまえは昔からそういうところがある!」
コウは機械のスイッチを入れベッドを膨らませて掛け布団をかけて寝た。
「おやすみ、一応さっきのも報告書で出してみような……」
あっという間に寝てしまったコウを見て由貴は少し複雑な気持ちだった。
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