第29話
2人は自分達の家へ。こじんまりとした2ldkの平家であり、築数も20年くらいの中古物件である。
荷物はほとんどコウのものであるが中には新しく2人の生活のためにと買ったものもあり、荷解きもしなくてはいけない。由貴の言う通り現実が待ち構えていた。
「やっぱ今日もらった仕事が終わったら片付けるか」
「……あのエアベッド置けるスペースは確保して最低限のものだけ出したら? コウは荷物多いし」
「由貴だって。あの機材らへんは自分でやれよ。調子乗りすぎだぞ」
と山積みの由貴の好きなパソコンや周辺機器。コウが由貴に頼まれて注文したのだが予想以上に多い。
「それよしかコウ、いつものお前の親衛隊の幽霊達に手伝ってもらわないのか」
コウはとぼけた顔をした。
「いや、頼まなかったし
「うわー、簡単に捨てた。こきつかって捨てた。最悪だー、この男」
「捨ててない……って……」
しかしコウは何か異変に気づいた。それは由貴もだった。
「まさか……」
2人はネット内見でしか見たことがなかった台所に向かった。何か異様な気配と、同時に匂いがした。
『よっす』
台所には時代はずれのギャルファッションをしたあの女が料理を作っていた。東京のあのアパートにもいた中華料理と卵料理が得意な美佳子だ。
「ついてきたのか」
『うん、そうだね。だって好きな男のためならどこでも飛んでいくわよ。……あ、今から引っ越し祝いのチャーハンと餃子とワカメスープこしらえるから待っててね』
ほとんど押し切る形で美佳子は料理を作っていく。15年前に死んだ幽霊だが成仏はせず、彼女の除霊依頼を受け持ったコウに一目惚れしてしまったのだ。
「ここに越したとか言っとらんかったのにようわかったな……」
『幽霊界のネットワークをなめるなよ』
由貴はあの時のビルにいた幽霊の女の子も言っていた「こっちの巷では」のネットワークなのだろうか。
『はい、おまち!!!』
と、あっという間にチャーハン、餃子、卵スープが用意される。
『前みたいに道具と材料さえ置いてくれたら作っておくから。あなた達は除霊作業に集中集中!』
「それは助かるけど……」
『由貴くんはアレルギーとかない? 好きなのは? 嫌いなのは?』
「特にないけど、アレルギー。強いて言うなら山芋でかぶれるくらいかな」
『それも重要! 違う方法で精をつけないとね!』
「精……」
と由貴が、狼狽えている横でコウは食べ始めている。
「さっさと食べろ、由貴」
「まさか彼女もここにいさせるつもりか?」
「ご飯用意してあげるから除霊だけはしないでーって前言ってたから……そうしてあげよう」
由貴は冷めた目で見てる。多分他の幽霊達にもそう懇願されていいように使っているんだな、と。
「にしてもめっちゃうまいし」
『中華料理屋の娘だから。あ、今は実家は養鶏場だけど。和、洋もできるけどリクエストしてね』
美佳子はニコニコと2人を見ている。由貴の頭の中では中華料理しか思い浮かばなくなってしまった。
「……ありがとう、また考えておきます」
『じゃあまた呼んでね』
と美佳子は消えていった。台所に行くと調理したあと片付けされていない。前と同じ。
「前と同じで片付けはセルフ、一応冷蔵庫に食べたいものの材料を入れておく。あと彼女の実家の養鶏場の卵も仕入れて置くのも必須」
「あっ」
「なんや、おっきな声出して」
由貴は卵のパッケージを指差した。
「この卵、めっちゃネットで有名で……美味いって。でもかなり高いやつやん。これ必ず仕入れておくの?」
「それは彼女の実家から送られてくるやつ。美佳子ちゃんのこと話してなかったもんな、しっかり」
「聞いてない」
「話長くなるけどいいか?」
「まぁ聞くわ」
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