第14話

 2人が出向いたのは近くの図書館であった。ネットだと情報が錯綜しており、虚偽の場合もあるため気分転換でコウは過去の新聞に頼ることが多いようだ。


「あった、真新しいと言っても5年前か」


 コウが見つけた新聞の小さい記事。あのアパートで起きた殺傷事件。

 住人の女性2人死亡、その他男1人が重症と軽傷を負った事件。エレベーター内で、と書いてある。


「……住人であるA子さんが浮気をした彼氏を浮気相手B子さんと共にアパートに呼び出して話し合いをした帰りに2人にA子さんがナイフで襲撃、B子さんは即死、彼氏も刺されるが抵抗して最後の力を絞ってA子さんを蹴り飛ばしたら彼女は打ちどころが悪くのちに死亡」

「正当防衛、とも言えるな……浮気した男が悪い」

「こんな事件が小さい見出しか。確かに他の大きな一面の事故の方はよく連日テレビで取り上げられた居眠り運転による暴走事故による歩行者死傷事故だったからな……」


 と読み上げるコウをじーっと見る由貴。その視線に気づく。


「なんだ?」

「こんな事件、管理人さんが黙っていたのか。あの部屋の事件も事件だけども」

「かなりの事故物件じゃないか……あのアパート。もしかしたらA子さんの住んでた部屋も何かしら残ってるかもしれない……」


 まだ由貴はコウを見る。


「なんだよ、ジロジロと……何を見てる」

「こんな怨念の残りそうな事件、見逃すってお前はたまに鈍感なことあるからなぁ……」

「し、知るかよ。確かにエレベーターは不審に思った。でも感じ取れなかったのは事実や。俺はあの部屋だけ依頼された。他のことは依頼されなかったら無駄や。お金にならない」

「お金に執着しすぎだろ」

「こっちは生きるためにはそうしかないの」

「なんだよ! 実家今はなんだかんだでお金持ちのくせして」

「俺は俺の力で生きるって決めたんだよ! 母さんだって自分の力でのしあがってたし!」

「そう決めたくせにしょっちゅう実家に通って、その交通費も親持ち、どこが自分の力で生き……る……」


 2人はハッとした。周りの視線。そう、ここは図書館。2人は声を荒げていつものように喧嘩をしていたのだ。


「とりあえず……管理人さんのとこ行くか」

「そうだな」


 2人は周りにへこへこしながら図書館をあとにした。


「にしても由貴、顔がイキイキしとるなぁ」

 コウは驚く。久しぶりの再会の時、由貴は死のうとしていた。絶望していた。だが今は違う。


「そうか?」

「それは俺に助けられたからって言うところだろ! ほんとお前は」

「うるっさいわ! お前のその大声が図書館の人に迷惑かけたんだよ」

「は?」

「だーかーらっ!!」


 二人が図書館からでたのは正解であった。


 そして管理人の部屋へ。


「こんなのわざわざくれなくてもよろしいのに、こっちは依頼した方ですから」


 と管理人が目を細めて喜びながらコウと由貴が持ってきた菓子折りを奥の部屋に持っていく。


「お仏壇があるのですね」


 コウは覗こうとするがすぐ管理人は部屋から出て襖を閉めた。


「ええ、まあ」

 とまた座る。


「急ですまんの、解体の件は前からも出ててな。例の事件が起きてから退去される方々がおってな」


 管理人は2人にお茶を注ぎながら話し始めた。やかんから何茶かわからないが並々と注がれる。他には家族はいないようだ。


「……その件ですが、例の事件の前にもう一つ事件が起きてますよね」

「……!」

「隠さなくてもいいですよ」


 コウが由貴に目配せし、由貴がタブレットに図書館で許可を得て撮影してきた5年前の事件の記事を出した。管理人の目が泳ぐ。


「もう5年前から退去者が多かったはずですよね……俺も何人かしかすれ違わなかったし、夜8時頃帰った時は明かりも少ない。もうかなりどの部屋も家賃を下げないと入居者は増えない。だから家賃安くしてお金のない子連れのシングルマザーや若者、日雇い労働者など……。しかしそれでさえ家賃も滞納する人が多い、交流もなくゴミ捨て場は荒れ放題。治安の不安さから女性の住人は立ち退き、それが故に経営が回らない、はい取り壊し! 別にあの部屋、ルームロンダリングさせなくてもよかった気もするけどなぁ……一応俺雇うのにもお金かかっていますしね」


 コウが流れるように話し出すと管理人がぶるぶる震えてお茶はほぼ飲まずに溢れている。由貴は近くにあったタオルで拭こうとするがもう濡れていて、由貴は顔を歪める。


「失礼ですか奥様や他の家族の方は」

「……いません、ごらんのとおりですよ」


 よく見ると今見える部屋から見える他の部屋もあまり掃除がされていないのだ。


「いない、のではなくて殺されたんじゃないんですか……5年前に」

「ぶひっ!!!」


 管理人は変な声が出た。


「ここはもともと奥さんの亡くなったお父様が所有していたアパート。その当時は家族連れも多かったでしょう……しかしあなたは不貞をし、家を追い出されて別居。あの時、不倫相手の女性と共に妻のところに呼び出されたんでしょう……」


 コウがそう話してる横でいつのまにか由貴もビデオを構える。管理人はガクガク震える。


「エレベーターは血まみれ、不倫相手と奥様は死亡、あなたは重症……事件が起きてから一気に退去者は増え、赤字なのになぜ新しくエレベーターを変えたのか……」


 管理人はもう空になった湯呑みをぶるぶると震えながら握る。


「記事では奥さんが殺したことになっていますが、あなたが奥さんと不倫相手を殺した……それの証拠を隠すために……あとその後ろめたさにエレベーターを取り替えた……」

「ち、ちちちちちちち違うっ!!!」

「何が違うんですか?」


 管理人はもうパニック状態である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る