第9話

「俺ら三人同郷なんて……そんな偶然なことが……」

「自分から岐阜って言う人僕の近くにはいなかった、てかあまり人に会っていなかったから」

「まぁ俺はすっかり都会の人間になっちまったからなぁー」

「……へっ」


 由貴はハァ、とため息をついてキミヤスをみると彼は苦笑いしてた。だが心から笑ってないのは見てもわかる。


「まぁそれはさておき。コウはここを事故物件でありルームロンダリング目的で住んだ。でもすぐキミヤス、そして浴室のお母さんとおじいさんの存在は知っていた……」

 由貴がそう言うと

「まぁ、そうだけどな」

 あっさり認めるコウ。

「浴室は怖くなかったのか?」

「俺の時はあの2人は暴れなかったから塩を撒いておけば平気だった。てか俺はお前みたいにビビリじゃないんだぞ……怖くねぇ」

 由貴は、んーと考える。

「コウの時は暴れず、僕の時になぜ? 僕がビビりであるだけでない……なんでだ。僕とコウの時との違い」

 するとキミヤスは

『お父さんが由貴さんと体格が一緒なんです』

 と。熊のような体格な由貴。

「僕とコウの違いは背丈の違い。……お父さんは187センチくらいか」


 キミヤスは頷いた。だが少し彼の顔が不安になるのを由貴は見逃さなかった。


「……背丈が同じである由貴が風呂場に入った……だからあの2人は反応した」


『……祖父は父から日常的に暴力を受けていました』


 由貴とコウは絶句する。だが他の2人の目立つところにも、キミヤスの身体には日常的な暴力と思われるような痕はなかったことに気づく。


「……キミヤスくんもか?」


『毎日のように怒鳴られていました。おじいちゃんも粗相をするたびに……、母は特に……。東京に来てから父が変わったんです』


 キミヤスは泣き出した。


「目に見えない暴力か。三人は心を捻り取られたんだ。だからお父さんと同じ体格のお前を見た瞬間におじいちゃんとお母さんたちは悲鳴を上げた。……また罵られる、怒られると」


 部屋の中がさらに雰囲気が暗くなるが由貴は立ち上がってキョロキョロしだす。


「お前も気づいたか」


 浴室とこの和室にはそれぞれ幽霊は残っていたが確かに父親と思われる男の幽霊だけ見当たらないのである。


「ああ、俺が住んだ当初っからこの部屋にはお父さんの幽霊はいなかった」

「……でもキミヤスくんはお母さんがお父さんも殺したと言ってたけどどこで殺されたんだ?」


 由貴はキミヤスに聞くが特に何も答えようとしない。


「俺もおかしいと思って調べたんだが、お父さんはそのベランダから落ちて転落死。あくまでも転落死とされている」


 とコウが言うとベランダの窓がいきなり開いた。2人は何かしらの殺気に気付いて立ち上がる。


「さっきキミヤスくんはお母さんが殺した……と言ったがベランダから突き落としたと、そう言うわけだな……」


 由貴がキミヤスを見ると彼も立ち上がった。表情は変わらないがベランダから風が吹き荒れどよめいた霊気が渦巻いている。


「お母さんはいくら介護してたからと言って高さのあるベランダから僕くらいの大きなお父さんを落とすことができるか?」

 と由貴?

「……できるわけないだろ、なぁ、キミヤス!」


 とコウが声をかけた途端にキミヤスは目を大きく開けて叫び始めた。

『ああああああああああ』


 ベランダの外からは彼の父親のけたたましい怨念がここまで上がってきた。


『僕がお父さんを落とした……人生狂ったのはあいつのせいなんだ』


 コウは手を組んだ。何度も組み替え呪文を唱える。除霊の準備はできている。


『もうこれ以上僕を苦しめるなああああああああ』


 ベランダの外からは

『うああああああああああああ』

 低く唸るような声というか地響きと風。


「なんだっ! 外からも中からもっ……うっ!」

「由貴、お前が下に落ちて死んだお父さんの霊をここまで吸い上げたんだよ!」

「しまった、僕の能力忘れてた!!!」

「んなことあるかっ!! あああっ、俺の服が! 布団がっ!!!」


 部屋の中で二種類の霊気がグワングワンと入り乱れる。室内も荒れに荒れ、由貴は大切な機材と貴重品はとっさに移動させようとしても間に合わない。設置していたカメラも飛ばされる。

「撮影データがっ!!!」

「諦めろ! 今は!」


 父親と子の憎悪と憎悪のぶつかり合い。

 ベランダから落とされた恨みと人生を大人たちの都合で壊された恨み。

 そこにもう一つの恨みが生まれる。


「部屋の中荒らしやがってぇええええええっ!!!」

 現住人のコウだ。いくらルームロンダリングであれどここまで荒らされたら元もこうもない。


「親子喧嘩は他所よそでしろーーーー!」


 そのコウの一喝で怨念の渦は外に出ていった。



 すると夜は一気に開け、朝に。




 2人は力尽きて昼過ぎまで眠りにつくのであった……。

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