第54話 決戦と未来 #8
風に吹かれながら、俺たちはコースを歩いた。観衆がざわめきながら見ていたが、二人ともまるで気にせず、ゆっくりと一コーナーに向かい、話をした。
厩舎のこと、王宮のこと。ネマトンプでの出来事、タンデートの風景。いろいろとあった。
チコが昔、いっしょに遊んだ娘が結婚して、もう子供もいると聞かされて、王様は驚いていた。
男爵様の伝手で、町の広場が手直してされて、広くなったと聞かされた時にはひどく感心していた。
一方で、王様は王宮の政治闘争について愚痴った。自分たちが勝手し放題にやって収集がつかない。面倒でたまらないと。
チコはだったら好きにやればいいんだよと言い、王様を驚かせた。回りが好きにやっているんなら、自分も好きにやればいい。どうせ面倒を抱えこむなら、自分のやりたいようにやってからがいいんじゃないと。
王様は呆れつつも、その正しさを認めた。表情は晴れやかだった。
「あたし、牧場を作るんだ」
チコは堂々と言い放った。
「そこで、競走馬を作る。そして、今日みたいに、この競馬場で走らせる。そして勝つ」
「すごいな」
「あなたのウマも預かるよ、トーク」
チコは王様を見おろした。
「強い競走馬を作るよ。だから、見に来て。奥さんや子供を連れて。これが自分のウマだよって自慢しに来て。ずっと待っているから」
「そうか」
「これは約束。新しいあたしの願いだよ」
チコは手を差し出した。
「叶えるよ。絶対に。だから忘れないで」
「ああ、約束だ」
王様はチコの手を握った。
傾きかけた日射しが二人を照らす。
緑の絨毯の上にたたずむ二人は、さながら巨匠によって描かれた絵画のように美しく輝いていて見えた。
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