転生したらウマだった ーー異世界競馬奇譚ーー

中岡潤一郎

ウマなの? ねえ、俺、ウマなの?

第1話  ウマなの? ねえ、俺、ウマなの? #1


 ああ、ったくもう。どうして、こんなことになるんだよ?


 信じられねえ。


 あのな、異世界に転生したら、チートな能力を手にできるものだろう。


 それで、後はやりたい放題。


 黒髪ロングのツンデレヒロインと、巨乳茶髪のクールビューティーに挟まれて、ぎゃぎゃあ言いながら旅をする。ちょいとばかりエロい思いをしながら、迫り来る魔物と戦い、最後は魔王を倒す。


 最近は変化球も増えているが、基本は同じで、ちやほやされるのが当り前のはずなのに。


 どうして、こんな変な目にあわにゃならんのだ?


 おかしいだろ!


 俺はカッカしながら、ぐりんと目玉を動かした。


 右側に見えるのは、ウマだ。


 黒鹿毛で、多分、体重は五〇〇キロぐらい。


 筋肉が隆々で、いかにも走りそうな体つきをしていやがる。尻の肉の厚さから見て、後ろ足で押し出すようにして走るタイプだ。


 目は血走っていて、前しか見ていない。


 俺が横にいるのに気にすることなく、どかんと割って来やがった。


 勢いが強かったので、たまらず左に跳ぶと、今度は白い毛のウマが並びかけてきた。


 芦毛、いや、白毛だな。

 さっきのやつと同じように、目を血走らせて突っ走る。そりゃあ、もうものすごい勢いで。

 気がつけば、俺は、5、6頭のウマに囲まれていた。


 思わぬ展開だが、まあ、こうして囲まれることそのものは、これといって珍しいことじゃない。


 牧場に行った時には、10頭以上の小馬に囲まれて、さんざんに小突き回されたことがある。

 ほら、俺、ウマに好かれるから。モテる男はつらい。


 競争中にウマに取り囲まれたことだって、何度もある。


 だが、しかし、今の状況はなんだ。こいつはおかしい。

 そう。今もって信じられないが、俺は見知らぬ世界に転生して、レースに参加していた。

 それも、乗る側ではなく、乗られる側で。


 言っても信じてもらえねえかもしれないが……。


 今の俺はウマなのよ。さながらゲームみたいに、ウマとなって走っている。


 なんていうか、やっぱり……信じられねえ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る