ハズレスキル「落下ダメージ減少」と世界のシステム「飛び降り自殺」を組み合わせると人類初の人間メテオが使えました。追放された俺は取り敢えず最強になって楽しく暮らしたい

黒飛清兎

第1話


あぁ。世界とはなんて理不尽なんだろう。

そう俺は思った。


「リエルよ。お前は今日からリン家を追放する!!」


実の父親から告げられた無慈悲なる通告。


「はっ、何故偉大なるリン家の者にこんなにも惨めな人がいるんだ?こいつと長年同じ釜の飯を食っていたと思うと吐き気がする!!」

「おっ、兄上!!そっ、そんなに言わなくても......。」

「ふんっ。お前などもはや俺の家族ではない!!お兄様などと言うな!!」


実の兄から罵倒を浴びせられる。

少し前までは中のいい兄弟だったのに......。


「......。」

「母上!!何とか言ってください!!」

「あぁ、まだここにいたの?早く出ていきなさい。」


くっ、母上まで!!


「我がリン家にお前のようなハズレスキルを持った人間は要らん!!これからはただのリエルと名乗れ!!」

「っ!!」


まさか。なんでこんなことになったんだ!?

あんなことさえ起こらなければ......。




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俺は今日、判断の間という所にいる。

ここでは15才になると神の判断と言われるものが行われる。

その内容は、まずは判断の間で自分の出来ることをやる。そうすれば、神が自分が上手く出来た事のスキルをニ三個ほど授けてくれるのだ。

そこで剣技を上手くすれば剣系のスキル、魔法を上手くすれば魔法系のスキル、錬金術やモノづくりなどのことをすれば生産系のスキルが貰える。


この神の判断で人生が決まると言っても過言ではない。

俺はリン家に代々伝わる風魔法のスキルを強化すべく神の判断ではストームという魔法を使う予定だ。


「ふんふふーん♪」


俺は鼻歌交じりにスキップをしながら判断の間へと向かっていた。

気分は最高潮だ。

スキルを手に入れるということはすなわち家に認められるということなのだ。兄は「風魔法強化」というスキルを手に入れていて、風魔法を強化することが出来る素晴らしいスキルを手に入れた。

俺もいいスキルを取るぞ!!


「ふふっ、いつも以上にテンションが高いね。今日は神の判断だもんね。」


幼馴染みのサエルだ。

サエルは僕が6才くらいの時からの友達で、親友と言ってもいいだろう。

小さな頃からバカやって、よく大人に怒られていた。


「だけどちょっと不安だな。ちゃんと出きるかどうか......。」

「はは。リエルなら大丈夫じゃないかな?俺は少しミスっちゃって「魔力回復」になっちゃったからな......。」


魔力回復は決して悪いスキルじゃないのだが、やはり魔法強化には負ける。

魔力回復では継続して戦い続けられるが、あまり強い敵には勝てない。しかし、魔法強化系は継続は出来ないが、強い敵を倒せるため、後者の方が楽なのだ。


「まぁ、努力あるのみだ!!どんまい!!」

「......あぁ。そうだな。」


俺が励ますとサエルはニヤリと笑った。

元気を取り戻せたかな?

まぁ、ともかく俺は判断の間へと向かわなくては。


「なぁ、俺も見に行ってもいいか?」

「あぁ、いいぞ。お前に応援して貰えたら百人力だからな!!」

「ありがとう。」


サエルは俺の横に並んで歩きだした。

そうして俺達は判断の間へと向かうのだった。



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ドキドキ


俺は少し緊張してきた。何せこれでこれからの人生の全てが決まるんだ。緊張しない方がおかしいだろう。


「そんなに緊張するなって。お前はベストを尽くせばいい。」

「そうだよな。頑張るよ。」


サエルが励ましてくれる。

やっぱりサエルが俺の親友で良かった。


ぱちぃぃん


俺は頬を叩いて気合いを入れた。


「よしっ!!行くぞ!!」


俺はその雰囲気のまま判断の間へと入っていった。


テクテク


俺は重厚のある廊下を歩いていく。

この先に未来があると信じて。

絶妙な緊張感、神聖な雰囲気。夢のある未来。

ここにはそれが揃っている。

非常に楽しみだ。


カツゥン


審判の間の中に俺の足音が反響する。


「あぁ、あなたはリエルさんですか?」


神官が出迎える。


「はい。そうです。神の判断を受けに来ました。」

「そうですが。ではこちらへ。」


俺は審判の間の真ん中にある結界の張られた吹き抜けの空間に連れてこられた。


「今から一分間貴方には出来ることをやって貰います。ふざけてやったら悪い結果。真面目にやったらいい結果が出ると思っていてください。全て神が見ています。」

「はい!!がんばります!!」


俺はピリッとした空気を纏わせながらも大きな声でそう言った。


「リエルー。頑張れよー。」


客席でサエルが応援してくれる。

勇気が着いた。


「始め!!」


神官が合図をする。

俺は魔法の構築を始めた。

出来るだけ濃密に、細かく、丁寧に。


パァァァァ


魔方陣が過去最高の輝きを放つ。

大成功だ!!

俺は歓喜した。


ブォォォォ


魔法が放たれ、暴風が吹き荒れる。


「くっ!!」


俺はかつてない程の制御のしにくさに一瞬制御を手放しそうになるが、慌ててしっかりと制御する。

暴風を一点に集めて制御する。

コンマ一秒のレベルの世界だ。

ふぅ、安定してきた。これで出来たかな?

そんなことを思っていたそのとき、いきなり制御が崩れて暴風がこちらへと向かって来た。

なんだって!?

今制御が崩れる要因なんてひとつもなかったはずだ。

まさか......誰がが介入した?


「くっ!!」


まぁ、そんなことは今はいい。早く制御を戻さなくては!!俺はかつてない程に集中した。

しかし、暴風の勢いが止まることはなく、俺にぶつかった。


ビュゥゥゥ


物凄い勢いで上へと飛ばされる。

俺は咄嗟に防御を取った。ストームの風を防ぐためだ。

腕に無数の傷がついていく。


フワァァァ


暴風が消えた。

しかし、今俺は高いところにいる。

俺は重力によって地面へと叩き付けられた。


「ぐふぁ!!」


身体全体に激痛が走る。だが、そんなことが気にならないくらいの絶望に俺は包まれていた。


「早く治療を!!」


神官が叫ぶ。奥から数人の神官が出てきた。

そして、俺に治癒魔法をかけた。

そのお陰で俺は命だけは助かったみたいだ。

俺はとぼとぼとした足取りで結果を聞きに行く。

サエルも一緒だ。


女性の神官が現れ、結果発表をするらしい。


「結果を発表します。貴方のスキルは......ぶふっ......。」

「は?」


どう言うことだ?


「失礼しました。貴方のスキルはらっ、落下ダメージ減少です。」


彼女は笑いを堪えるようにそう言った。


「は?」


意味がわからない。なんなんだ? そのスキルは。

俺は混乱した頭のまま。審判の間から出た。俺はそのまま放心したように家までの道を戻っていた。


ドンッ


「いたっ。」


俺の肩に誰かがぶつかってきた。


「おやおや、君は落下ダメージ減少のリエル君じゃあないか。」

「サエル.....今はそういう気分じゃないんだ。止めてくれ。」

「ははっ。やっぱり気付いていなかったか。君が今日失敗したのは僕のせいなんだぜ?」

「は?」


な、なにを言って......。

俺はそこでピンと来た。

俺の制御は完璧だったはずなのになぜか崩れたのだ。まさか、あいつがやったのか?


「ふふっ、その顔は心当たりがあるようだね。そうさ!!君の制御を崩したのは僕さ!!」

「なんで、なんでそんなことを......親友だったじゃないか......。」

「親友?そんなこと僕は一度も思ったことはないよ。僕はただ君に不幸になって貰いたいんだ。だっておかしいだろう?俺みたいな高貴な者がお前のような奴よりも魔法が下手だなんて......。」

「そんなことで......。」

「はっ、まぁ、君はもうゴミ同然だ。僕の視界から消えてくれ。」

「くっ。」


俺はそのとき、神の判断で精神にダメージを負っていたためか、なにも言い返せずに家に帰ってしまった。

家族なら俺を慰めてくれる。

そう信じて。



ーーーー


ーーーーーーー


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ーーーー



「はぁ、もう嫌だ......。」


家を追い出された俺はそう呟いた。

もう、いっそのこと死のう。

この世界は自殺に寛容だ。

何故か誰でも「飛び降り自殺」が出来る。

これは、自分の体力が尽きるちょっきりの場所から上のに転移して、落下死させるというものだ。この場所とは体力が尽きる場所なら自由に指定できる。

これは世界のシステムといって、ステータスやスキルなどと同類のものだ。


俺はシステムを起動させた。

怖いのは嫌だから、ちょっきり死ぬ場所に転移することにした。

これで俺の人生は終わりを向かえる。


ひゅゅゅぅ


風の音が気持ちいい。

怖いという感覚は殆どなかった。

俺は落ちていく。

落ちて、落ちて、落ちていく。

俺は地面に着いた。



ーーーーーーーーーーー


ーーーーーーー


ーーー



「おい!!大丈夫か!?」


俺は男の声で目が覚めた。


「うっ。」


体が痛い。全身が悲鳴をあげている。


「お前さん大丈夫か? 何があったんだ? 誰か呼んだ方がいいか?」

「いえ、大丈夫です。」


体は全然大丈夫じゃないが、誰かを呼ぶほどじゃない。

しかしなんでこんなことに......。


そこで俺は思い出した。


「本当に大丈夫なんだな?」

「えぇ。ありがとうございました。」


俺はフラフラとした足取りで男から離れていった。

気分は最悪だ。

自殺したかったのに出来なかった。

怖いからと思ってずいぶんと下の方から落ちたせいだ。

次こそはちゃんとしたところから落ちてちゃんと死のう。

しかし、またさっきみたいに他のひとに迷惑をかけるわけにはいかない。

死体が出てもいいようにモンスターの出るところでやるか。

モンスターとは主に人間に害を与える知能の低い生物の事だ。

モンスターは人間を食べたりするから、死体処理にはぴったりだろう。

俺は気分をよくするために有り金を全て使って回復薬を買った。死ぬときくらいいい思いをしたい。どうせ死んだら今回使ったお金は無駄になるんだからいいだろう。

俺は回復薬をゴクゴクと飲んだ。

うむ、まずい。

まぁ、薬なんだから仕方がないか。

俺は体がポカポカするのを感じた。

体力が全回復したようだ。


「さて、行くか。」


俺は自殺志願者とは思えぬような明るい声でそう言った。そして、そのままモンスターのいる草原へと歩きだした。



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ようやくついたようだ。

少しつかれたから休もう。

俺はその場に座り込んだ。


あぁ、こうしていると今まであった嫌なことが少し忘れられる気がする。

裏切られ、追放され、自殺に失敗する。

こんな経験してる人って殆どいないんじゃないか?


「ははっ!!」


もう何もかもが笑えてくる。

今何が起こっても笑えそうだ。


ワオオオォン!!


後ろからそんな声が聞こえた。

俺は慌てて後ろを振り返る。

そこには白い毛皮の狼がいた。


「ウルフ!?」


ウルフとは狼型のモンスターで、ここら辺ではかなり強い部類に入るモンスターだ。


(くっ、こんなところでウルフにあうなんて......ちっとも笑えない!!)


見事なるフラグ回収をしたのち、俺は立ち上がり逃走を始めた。

俺はこんな死にかたはしたくない!!

モンスターなんかに食われて死ぬなんて駄目だ!!

こうなったら!!

俺は「飛び降り自殺」を使った。


「じゃあな。ワンコ!!」


俺はそう吐き捨てるようにそう言い、上空に転移した。


はぁ、これで二回目か。

前回は全然怖くなかったが、今回は少し怖いな。

死んだら人知れずにモンスターに食われてこの世から忘れ去られるんだ。

俺は少しだけ生きたいと思った。

その思いは増幅していき、俺の心はその感情で埋まったしまった。


生きたい!!


だが、その思いとは裏腹に体は地面へと近づいていく。


「!?」


その時、ちょうど真下にあのウルフがいた。

俺はどんどんウルフに近づいていき......。


グシャッ!!


ーレベルアップしましたー


ウルフは俺の下敷きとなって死んだ。


「は?」


俺はただただ呆然とするしかなかった。


............。


「はぁぁぁぁ!?」


え?どう言うことだ?ちょっと何言ってるかわかんない。

よし、冷静になれ。整理しよう。

まず、俺はウルフに襲われて、逃げるために飛び降り自殺を使ったんだ。

そうしたら、落ちた先にウルフがいて、俺がウルフを押し潰して殺したってことだろう。


「......。」


意味わからん!!

しかもレベルアップしたって......たぶん今俺はレベル3だろう。小さい頃に一回だけしたことがある。

一応ステータスを見てみるか。

俺は懐の中に入っている物の中に鑑定のスクロールがないか探した。

......ない。


「はぁ、買うか。」


俺は街に向けて歩きだした。


テクテク


あぁ。なんだかつかれたな。一日に色んなことがありすぎて頭がパンクしそうだ。

街についた頃にはもうへとへとだった。

だが、最後の力を振り絞って冒険者組合ギルドへと向かった。

ギルドでは素材などをことや、武器やスクロール等をことが出来る。それ以外に三段階の階級のあるギルド証というものが発行され、それによって色々なところでの待遇がよくなったりする。俺は最低ランクの銅ランクだが、いずれは銀ランクや金ランクになってみたいと思っている。

今回は偶然倒したウルフの素材を売る。

それだけあればスクロールの一枚くらいなら買えるだろう。


「すみません。これを売りたいのですが。」

「はい。では、鑑定しますね。」


受付嬢に素材とギルド証を渡し鑑定を頼んだ。


「あなたは......リエル?」

「ん?何ですか?」

「いえー。なんでもないですよー。」


ん?なんだ?いきなり態度が変わった気がする。

まぁいい。俺は無事に売ってスクロールだけ買えればいい。


俺は鑑定が終わるまで待った。


「リエルさん? これ、盗難品なんじゃないですか?」

「は? 何を言って......。」

「このウルフは押し潰されたような死に方をしています。貴方は風魔法の使い手ですし、しかもあんなスキルじゃウルフに勝てるわけないでしょう?」

「まっ、まさか!!そんなバカなことがあるはずがないだろ!!それになんで俺のスキルのことを知ってるんだ!!」

「まぁ、買い取りますよ?ウルフもいい素材なのでギルドには利益が出ますからね。スキルはサエルさんが言いふらしてましたよ。」

「あいつ!!」


なんでこんなことするんだ!! ちょっとの事で嫉妬したのか!?

ふぅ、落ち着け。

こんなことで起こっても仕方がない。


「はぁ、その売ったお金で鑑定のスクロールを買えますか?」

「ぶふっ。鑑定なんかしてもスキルは変わりませんよぉ?」

「......良いですから。」

「分かりましたよ。」


受付嬢は少しめんどくさそうにスクロールを渡してきた。


「返品は受け付けませんからね?」


つくづくイラつく奴だ。

だが、スクロールは手に入った。

俺は外に出て鑑定を使った。

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