17話 師匠と呼ばせてください!

 というわけで蘭子らんこが所有している別荘に併設された修練場にやってきた。

 蘭子の執事兼、運転手兼、これから俺の師匠になる國井くにいさんはてっきり胴着でも着こんでいるものかと思っていた。しかしそこには俺の家に迎えに来た時と同様、執事服姿の老紳士が立っていた。

 一応付き添いとして蘭子と妹の桜夜さくやも同行している。


「國井さん伝えてた通り神威しんいくんのことを鍛えてあげて」

「かしこまりました。お嬢様」

 修行について事前に話はついているらしい。


「では早速始めましょうか」


「あの……武術の指南をしていただけるという事で、てっきり胴着に着替えるものかと?」

「では神宮寺様……いえ神威しんい殿に一つ問いましょう。戦いになる際に敵が服を着替えるのを待ってくれるでしょうか?」


「それは……待ってくれないと思いますけど……」

「であるならば胴着など必要ないという事です」

 いつ戦闘になってもいいような心構えが重要なのだろうか。


「なるほど……ちなみに教わる武術って何って言う武術ですか?」


「特に大した名前などはございません。強いて古武道が近いでしょうが教えるのはあくまでも無手での戦い方です。必要であれば自ら名付けそれを名乗るといいでしょう」


「え!?いいんですか?」


「えぇ勿論です。会得出来ればの話ですが」

 そう言うと柔和な表情が一瞬、殺気立ったものへ変わる。

 特に目だ。視線だけで殺せる……そう言っても過言ではないほどに全身で恐怖を感じた。


「……っはぁ~」

 ほんのわずかの殺気。それが消えるといつの間にか息を止めていたことに気付き、大きく息をつく。


「今の感覚……忘れてはいけませんよ。勇気と無謀を履き違えたものから死んでいく」

「目が覚めました……これは遊びじゃないって」

 俺は勘違いしてた。『邪鬼やイルとの戦い、神の子の力や邪鬼を吸収できる力』で憧れてた世界が見れるって……浮かれてた。何のために強くなる必要があるのか。

 俺の為だけじゃない。


「準備は出来たようですね。始めましょうか」

 老紳士……いや師匠である國井くにいさんはそう言いながら、手を使い”かかって来い”と挑発する。


「あ”ぁ”あ”あ”あ”!!!」

 気合いで自分を奮い立たせる。恐怖を乗り越えて一歩を踏み込む!


「―――っがぁ!」

 振り上げた拳はかすりすらもせず、全身で地球を愛していた。

 つまり何が起きたか把握することもできずに地面に叩きつけられたのだ。


(い、痛ぇえええええええええ!!!!!)

 

(くっそ……マジで気付いたら死んでたって感じだ。一瞬転生してもおかしくないと思ったけど幸いにも全身が痛いから生きてる……生きてるってサイコー……)


「神威殿?もう終わりですかな?」


「まだまだぁ!」

 妹だって見てるんだ。一回で根を上げるようなカッコ悪い姿を見せられるかよぉ!




 日が沈むまで修行???は続いた。

 ……これで少しは強くなれたのだろうか?

 ただただにされてた気がするけど・・・


「お疲れ様。本当に一日乗り切るとは案外やるじゃない」


 俺は口の中も切れてるし、声を上げる体力も惜しかったのでガッツポーズ(のつもり)で拳を上げて返事をした。


「お兄ちゃん本当に頑張ったんだね~凄いよ!」

 妹にギブアップしてる所を見せたくない一心で頑張ったからな。この一言で本当に報われた気分だ。


「本当はもう少し早めに切り上げて神威しんいくんの能力ちからについて調べたかったのだけど。お疲れみたいだし明日にして今日は休みましょう!」


 ……絶対わざと黙ってただろ。怒りで拳がわなわなと震える。その提案があればここまでボロボロにならずに済んだだろ!


「もっほはやふいぇよ……」

 (もっと早く言えよ)


「ん?お兄ちゃん何か言った?」

「あら(笑)何か聞こえたかしらね?」


ちくしょおぉおおおお!プライドなんか捨ててぶん殴っとくんだった!!!

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