最果ての詩

忌川遊

レイカ

陽が沈む時、闇と微かな光が交じり合う時間、灯りの付いていない音楽室でほんの少しの空の明るさを頼りに練習の片付けをする。五秒も掛からずに終わる作業をするのにわざわざ電気を付けるのは面倒くさい。


置いてある楽器の陰から現れた二つの人影。

「ああ、今日もやっぱりね。誰なの?」

二人は無言で近づいてくる。まあ誰でもいい。一人がレイカを押し倒し、もう一人が上から重なってくる。四本の手が彼女の体を這い回る。


こんなことがもうずっと続いている。最初は抵抗していたのに、いつの間にか受け入れていた。


私にだって人並みには異性に対する感情もあるし性欲もある。

ちょっと前に友達の一人、サヤがこんなことを言った。

「レイカってどこか雰囲気あるよね。神聖っていうか、近寄りがたいっていうか…」


半年前、そんな「神話」を壊したのは誰だかも分からない二人組。初めての体験に私は「なるほどな」と思った。正面から向き合うことが出来ない男達は、私に後ろから近づいてくるのだ。神聖で近寄りがたいと言われた私は簡単にオカされた。


私は抵抗する、ただし表面的に。いやというほど伝わる「男」の感覚。半年前まで欲しくても得られなかった感覚に私は一筋の快楽を感じる。それを受け入れて、私はその三十分を楽しむのだ。


噂が広がったのだろうか?

今日でもう十何回目?

今日の相手は誰なんだろう?


でも、回数も相手もあんまり関係ない。男友達がほとんどいない私はそもそも相手が誰だか分からないから。でも学級委員長が来たときは少し驚いたな。今となっては、そういう人ほどこんなこと求めているのかな、なんて思うけど。



あ、「誰とでもいい」というのは間違ってはいないけど、私にも一人だけ想いを寄せている人がいる。私と同じ電車の時間に私の十メートル横に佇む男の子。名前はトオル。その子と私が音楽室で会うことは無かった。運動神経が良いのに部活には入っていない、国語が得意なトオル。いつかは話し掛けようと思っていたけど、今学校でこんなことをしている自分自身がどこかでどうしても恥ずかしくて、とてもそんなことは出来ない。


そんなことを考えていたら、あっという間に三十分経った。今日はあんまりだったな。



こうして、本当の恋愛が出来ない私は一回きりの交わりを何度も何度も楽しむのだ。


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