第5話 ぴょんぴょん森の魔物たち


 相手はホーンミラージ、手足を伸ばせばラヴィたオレんと変わらないぐらいの大きさがある。

 いまは丸くなってこちらの様子を見ているようだが、注意すべき点はジャンプ能力が高いことぐらいか。っと、おっ! ぴょーーんと早速その場で高く跳んでみせてきやがった。


「あぁーん? 高さで勝負しようってか、上等だ!」


 膝を曲げて屈み、全身のちからを下半身のバネに溜めこむ。そして一気に気合いと共にちからを解放させ――、


「ジャンプだ、コノヤローッ!」


 ぴょーーっん! 体が宙に舞い上がる。「うおっ」予想外の高さに焦りと共に声が漏れた。が、着地、成功。どうだ? テメーの倍は跳んだだろーが、なめんなよ、コラ!


「わー、ラヴィたん、すごい、すごーい」


 なんだ? 真剣勝負の最中に気の抜けた声出しやがって。って、セシリアか。あ、でもあれ以上跳んだら、オレがセシリアの体に入るところだったわ、ヤベーな。

 体が軽いせいか、跳躍は予想以上だ。気をつけねーとな。


「さぁ、遊びはここまでだ。このオレ直々に退治してくれる!」


 本来の体ならば瞬殺だが、いまのオレは仮の姿、まさに産まれたてのラヴィたんだ! ここは慎重にいく。


 先ずは左右にステップを踏み、こちらの様子を窺っていたミラージの右に回り込む。やはり、ちょこちょこ歩く分には問題ないが、回り込むにも一歩で済むところが二歩かかる。右手のナイフをヤツの左から右へ薙ぐも、ピョンと、お尻を避けられ、触れた程度の傷を付けたのみだった。


「ぬー……王国トップレベルだったこのオレが、ラヴィたんの体だと思った以上に弱くなるな」


 しかし、オレのパワーや基本スピードが落ちたとはいえ、この程度の魔物に遅れをとるはずもなく――


 傷を付けられたホーンミラージが反撃に転した。

 角を突き出し正面から突っ込んでくる! ソイツをオレは左にピョンと低空ジャンプで跳び退く! そして、右足を地面に蹴り付けた反動で、再びピョーンと跳び、ホーンミラージへ一直線! 手に構えたナイフをそのまま、右横腹に突き刺す! 

 三角跳びの要領だ。


 ピギャーッ!!


 突き刺されたホーンミラージは、勢いそのまま横に転がる。オレは大きく飛び上がり、上から首へのひと突きでとどめを刺す! ミラージから瘴気が抜け、肉塊と化した。

 セシリアが座ったまま、笑顔でぴょんぴょん付いてきてくれている。ちっ、緊張感のねーヤツだ。

 まぁ、付いてきてくれたお陰もあるが、――うん、なんとかセシリアに戻されねー範囲で無事に戦闘終了できたな。


 パチパチパチー


「おー! すっごーい! ラヴィたん、おめでとーーっ!」


 うん、なーんか馬鹿にされてる気がしないでもないが、まぁいいだろう。それはそうと、


「オメー、なんでそんなニッコニコでこっち見てんだ?」


「えー、だって、チョコチョコ動くラヴィたん可愛くって、愛らしくって、もぉーっ、たまんないの! だ・か・ら、喋らないで……ね? お願い」


 セシリアは少し首を傾け片目を瞑り、オレの頭を撫でてくる。うむ、小娘からこの扱い、屈辱でしかない……。


「あたま撫でんのはやめぇー! まぁ、オメーと離れ過ぎずに終わらせたのはなによりだ、流石に戦闘中にオメーの体に戻されるとラヴィたんが致命的だからな」


「うん、任せといて! 次も近くで見ててあげるから。――よっし! ラヴィたん、つぎいってみよーーっ!」


 セシリアはニコニコ笑顔のまま、元気よく右手を目一杯上げた。


 やれやれ、呑気なもんだぜ。騎士団副団長としての威厳とかねーのかよ。

 ――まぁ、今日はこの体での戦闘のカンを掴むのと、セシリアの気分転換が主な目的だし、これで良いのか。と、奥に進むうちにもニ体のホーンミラージが同時に現れ、今度は即、肉塊に変えた。

 ――手応えがねー。セシリアはキャッキャと両手を頭に耳の形にして、ピョンピョン跳ねて喜んでいたが。

 ちなみに、ホーンミラージの肉はオレがバラした後、セシリアが袋に詰めて持ってくれている。結構、美味いんだぜ、これが。


「あ、ラヴィたん、あそこ! ちょっと厄介なのきたよ、手伝おっか?」


 ガサガサっ!! ザザザザザーーッ! 

 猪っぽい魔獣が猛然と突っ込んできた!


「ぅおわぉーーっ! でっけーーっ! 回避ーーっ!」


 ジャンプじゃ無理! 右にツーステップしてギリ回避。真横を魔物が通った風圧が凄い。オレの耳が風に流される。


「ちょー待て! グレイボアって、こんなでかかったか?」


「グレイボアにしては大きい個体だけど、ラヴィたんのからだの倍以上あるから、余計に大きくそう感じるんだろーね」


 コイツは口元に大きな牙を持つ猪型の魔物グレイボア。

 んー、元の体ならワンステップ回避だが、この体だとツーステップいるからな、めんどくせー。だが、コイツの動き直線的だし、突進前のモーションに合わせてやれば、


「突進タイミングに合わせてからのーーっ! 右目っ! の位置に右手のナイフ!」


 ヒュンッ!! 


 可哀想だが右目にナイフを撫でつけ、ナイフに当たった勢いを利用して、独楽こまの要領で体幹軸に横回転、そしてプリプリおちりにナイフを、


「ブッ突き刺ーーっす!」


 ギャキャギャーーッ!!


 右目をやられ、右側に死角が出来たグレイボアは、見えない位置を補わんと、その場で、ナイフを深く刺したオレごと、右回転を始めた。

 もちろん、魔物からオレの姿は見えねー。……回転されながらも背中に乗り、急所の首筋を斬り捌く!

 グレイボアは瘴気を発して、――肉塊と、化した。


 拍手が聞こえねー?

 振り返ると、セシリアは目を大きく見開き。両手を口に充ててオレの方を見ていた。


「ん? アホづらさらしてどーした?」


「――っ! レ、レディに向かってなによ、その言い方っ!」


 どっか飛んでいっていたセシリアの思考、それがお帰りなさいして、


「あ、そうじゃなくって……なに? いまの? 自分の倍以上ある相手をあんな簡単に。――えーっと、うん。とにかくっ、すっごいわ! びっくりよ! ラヴィたん」


 オメーの語彙力な? 本を読め、本を……。


「オメーもグレイボアぐらい余裕で倒せるだろうが。体が小さくなってもこれぐらい出来るわ」


「そりゃぁ、倒せるとは思うけど、わたしもなんか体動かしたくてウズウズしてき、――っ!」


 バキバキッ メキメキメキッ!

 少し離れた樹々が押し倒される音が聴こえてきた!


「倒した瘴気に誘われたにしても、思ったより早くヤバそうなのが来やがったな、着いてこい! セシリアッ!」


 オレは後ろを振り向くが――


「居ねーっ! あ、先に前行きやがった。 オメーのが一歩大きいんだから先に行くな! おいっ、オレを連れてかねーか、バカ小娘!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る