第21話 前向けよ、授業中だぞ
「このxに3を代入して――」
席替えをしてから初めての授業。
いつもとは違った慣れない席の位置での授業なためそわそわしながらも、ボーッと黒板に並ぶ暗号のような文字を見つめる。
「何を言ってんだよ、あの先生……。さっぱり理解できない」
元々勉強ができないこともあってか、先生が言っていることは一語一句理解できない。
右斜め前の席に座っている
俺も寝ようかな。聞いてても何も分からないし。
「
さて、寝るか。と思って机に突っ伏そうとした瞬間、目の前に座っている
「……なんだよ、前向けよ。授業中だぞ」
「どうして寝ようとしてるの? そっちこそ授業中だよ」
「うぅ……先生が暗号のようなこと言ってるからだ」
「暗号? なにそれ」
俺の言っていることが理解できなかったのか、必死に笑い声を抑えながらもクスクス笑っている実莉。
だって仕方ないだろう。本当に暗号にしか聞こえないんだから。
「お前って勉強できる方なのか?」
「うん、それなりにはね。隣にいるおバカな幼馴染をテスト期間中は面倒見なきゃいけないし」
「あー、確かに……」
俺たちは揃って右の方を向いた。
視線の先には、とても気持ち良さそうに眠っているおバカさんがいる。
「苦労してんだなぁ……」
「本当に苦労してるよ。あ、今度は飛鳥馬くんも一緒に教えてあげよっか?」
「お前の負担が増えるだけだけど、いいのか?」
「飛鳥馬くんなら大歓迎。あと、お前じゃないよ」
「……み、実莉」
「よろしい」
実莉と呼んでほしいと言われたが、さすがに恥ずかしくてあれ以降名前を一度も呼べていなかった。
女子を名前で呼ぶなんて、こっちは初めてなんだよ。男友達は明沙陽のように気軽に名前で呼べるけど、女子となると話は別なんだよな……。
「飛鳥馬くん、いつもテストの順位どれくらいなの?」
「聞くな。テストの順位だけは聞かないでくれ」
「へぇ〜? 相当低いんだ〜?」
「うるせ。勉強なんてやってられないんだよ」
「じゃあ、300位くらい?」
二年生全体で360人だが、俺ってそんなにバカに見えるのか?
「さすがにそれはない。これでも明沙陽よりは上なんだ」
「明沙陽で前回280位だからねー。私が教えてるのに、なんであんな低いんだろ」
「あいつも超がつくほどの勉強嫌いだからな。仕方ないよ」
「ということは飛鳥馬くんは、280位よりは上で250位よりは下かな」
「……どうしてそうなる」
見事に当たっている、なんて口を裂けても言えない。
俺も明沙陽と同じようにバカだが、実莉にバカにされるのは嫌だからな。
「否定しないね。じゃあ正解か」
「……これ以上は何も言わない」
「まあ、大体の順位が分かってよかったよ」
「逆に実莉はどれくらいなんだよ?」
「ふふっ、よく聞いてくれたね。私は、46位だったよ!」
46位、だと……!?
「ふふふっ……私、頭いいからね」
「別に威張れるほどの順位ではないけど、すごいな」
「最初の一言余計! すごいだけでいいじゃん!」
「うるさいって。授業中なんだから静かにしろ。明沙陽も起きちゃうぞ」
「うぅ……あ、もしかして私との時間邪魔されたくないんだ?」
「ち、ちげぇよ」
実莉は「ふぅん?」と言って、ニヤニヤしながらこちらを見つめてくる。すごく腹立つな。
すると突然、こちらを向いていた実莉は前を向き真剣にノートを取り始めた。
やっと終わったか、と思い一息つくが、前から四つ折りにされている紙が差し出される。
「なんだよ」
声をかけてみるが、無反応。
とりあえず四つ折りにされた紙を受け取って開いてみる。
『授業中なのに私のこと意識して顔赤くなってる飛鳥馬くん可愛い♡』
と、可愛らしい丸文字で書かれてあった。
さすがに授業中にクラスのみんながいる状態で、この言葉は口には出せなかったらしい。
これからは紙でやり取りをするらしく、俺は実莉の丸文字の下に返事を書き始める。
『うるせ、意識してねぇよ。俺は授業中真面目に勉強してるからな』
『さっきまで私と喋ってたのにそれ言う?』
『確かに喋ってたけど、意識は授業の方に向けてるんだ』
『うわ、ひどーい。私なんてどうでもいいんだ』
『別にそうは言ってないだろ……』
『それよりこの手紙回し、好きな人とやるの初めてだからすごく楽しい』
『……』
『照れてる?』
『照れてない!』
『大好きだよ♡
『……』
『照れてる?』
『照れてない!』
それからも紙を受け取っては返事を書いて渡すを繰り返し、あっという間に授業を終わってしまった。
今の授業、実莉のせいで本当に何も聞いてなかったけど大丈夫だろうか。
今後もこのような状況が続くのであれば、間違いなく成績はどんどん下がっていくだろう。
そんな俺の心配など知る由もなく、授業中ずっと寝ていた明沙陽が目を覚まし、手を上にぐんと伸ばした。
「あー! よく寝たー!」
「明沙陽、俺はお前の将来が心配だよ」
「急になんでそんなこと言うんだよ!?」
「だってお前、授業全く聞いてないじゃん。イケメンだからって授業聞かなくても許されると思うなよ」
「いや、どうゆうこと!?」
「明沙陽ずっと寝てて次のテスト余裕そうだし、もう私が教える必要はないかもねー」
「実莉まで!? どうしてそんな俺に冷たいんだよ!?」
近くの席に実莉と明沙陽がいる。
最初はうるさくなって面倒なことが増えると思ったが、案外いつもより学校が楽しく感じているかもしれない。
そんな気がした。
「あ、そういえば今日のロングホームルーム、来週の校外学習の班決めるんだって」
「もう校外学習か! 実莉、一緒の班になろうぜ」
「いいよ。飛鳥馬くんも一緒だよね?」
「
二人は一斉にこちらに視線を向けてくる。
実莉なんて目を輝かせながら見てきてるし。
「もちろんだよ」
実莉と一緒の班になれば、何かしらアクションを起こされて大変なことになるかもしれない。
少し嫌な予感がしつつも、俺は二人の誘いに快諾したのだった。
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