■コンビニ _試着室11/12/07:45■

 試着室のドアは万引き防止の観点から足元が見える使用になっている。黒色の足先が見えているドアの前に立ち声を掛ける。おそらくヤタだろう。


「何か問題ありました?」


 口調がまた何だか怪しい、知らないうちに緊張しているのかもしれない。


「ちょっと確認して欲しい」


 これは漫画やアニメのデートイベントで良く見るやつじゃないか?こういうシチュエーションを自分が体験する事になるとは…。

 

 俺が馬鹿な期待でドキドキと夢を膨らませていると試着室のドアが開いた。


「これでどうかな?」

「いやぁ…これは…」


 そこにはホワイトブリムを付けて黒のワンピースの上からフリル付きの白エプロンを付けたヤタが立っていた。それに黒の、確かレギンスだったか?タイツとは今は言わないんだったか?女物は良くわからないが、とにかくメイドさん姿をしている。


「メイドさんですか?そんなのありましたっけ…」

「冥土服という戦闘服みたい、ステータスも、なかなか上がる」

「あ、ああ…?え。メイド服ですよね?」

「冥土服だよ?」


 何だかイントネーションが違うような…それにステータスが上がる?こんな薄い服で?


 いや、ステータスはさておき、こういうイベントの時はとにかく褒めないといけないと俺の魂が叫んでいる。今はこのイベントをクリアすることに集中しよう。


「そ、その…か、か、か、可愛い…ですよ」

「うん、知ってる」


 か、関西のノリ…キタヮ…。


 高校時代、関西からきた転校生に勇気を振り絞って話かけ、何事もなかったように返された返事のひとつだ。


 以前体験した時は数日トラウマになったが、今はもう大人…。


「それって寒くないですか?」


 雰囲気ぶち壊しの言葉を繋げた。


「大丈夫、これにナイナイのパーカーを合わせる」


 ウッ!?


 な、なんでだろう、目から汗が。


「し、しかし、パーカーでは風を通しますからコートもあわせましょう」


 俺は目をあわててこすると付近にあった金の刺繍が入った黒のポンチョコートを差し出す、フリーサイズのものだ。


「分かった。――どうかな?」

「良いと思います」


 なんだか流行りの映画に出てきそうな魔法使い姿になった。


 ポンチョを脱いだらメイドさんなんだけど。


「チューッス!」


 その時、来店のチャイムと共に独特の挨拶が聞こえた。


 この挨拶は例の筋肉系店員が出勤した声だ。

 確かゴンさんと入れ代わりのシフトだったはず。

 ちなみにうちは田舎なので基本的にワンオペだったりする。


 それにしても…もう8時なのか…。

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