第31話 「虫を食卓に出しますよ?」

「虹ちゃんは、何が食べたいですか?」

「翠の作る料理なら何でも」

 特に食べたいものもなかったし、無難な答えを返しておく。

「虫を食卓に出しますよ?」

「すんません、真面目に考えます」

 俺の提案は、2秒で却下された。


「何でもいいが1番困るんですよ。虹ちゃんも料理を作っているんですからわかりますよね?」

「誠に申し訳ございませんでした」

 有無を言わせぬ圧に屈服した俺は、ひたすら平謝りしておく。今回の件に関しては、俺が100%悪いので、変に反論はしない。

 とはいっても、食べたいものもあんまり思い浮かばないんだよなぁ。

「だったら逆に、食べたくないものはありますか?そちらの方が考えやすいと思いますよ」

 なるほど、それなら考えやすいかもしれない。


「そうだなー‥‥魚って気分ではないかな。パスタとかが良いかも」

「お、パスタですか。わかりました。本場の味を再現してみせましょう!」

 俺が希望を言った途端、急にテンションが上がる翠。翠はイタリアン料理が好きだから、俺がパスタを希望して嬉しいのかもしれない。パスタと言えばイタリアンって感じがするし。


「楽しみにしててくださいね。蒼の料理の記憶を上書きするくらい美味しいものを作って、私の料理のとりこにさせてあげますから!」

 体の前でこぶしを握り、普段の様子からは想像できないほど張り切っている翠の姿は、どれだけ翠が本気なのかを物語っていた。


「さて、虹ちゃんの期待に応えるためにも、腕によりをかけてパスタを作っていきますよ!」

 エプロンを身に着け、台所に仁王立ちするその姿は、まさに主婦だ。ちなみに俺は、翠を手伝おうとしたら、

「虹ちゃんが手伝ったら意味ないじゃないですか!大人しく座っておいてください!」

 と言われ、台所から追い出されてしまった。いつもの翠らしからぬ圧力があり、大人しく引き下がるしかなかったのだ。こうなってしまった以上、俺ができることはないし、何かしようとしても翠が許してくれなさそうなので、料理ができるまで大人しく待っておくのが正しいだろう。



「虹ちゃん、できましたよ!」

 15分くらい経っただろうか。キッチンの方から、翠が俺を呼ぶ声が聞こえてくる。

「わかった。食器並べくらいは手伝うよ」

 リビングでキッチンに背を向けるようにしてソファに座っていた俺は、立ち上がりながら返事をする。

「ありがとうございます。盛り付けは私の方でやるので、フォークを用意しておいてください。食卓に並べるまでは見てはダメですよ?」

 いたずらっぽく微笑みながら釘を刺される。翠の作ったパスタなんて楽しみに決まっているので、どんなものなのか早く見てみたい気持ちはあるのだが‥‥。こう釘を刺されてしまっては仕方ない。


「翠、こっちはできたよ」

 食卓に2人分のフォークを並べ、ついでに気分でランチョンマットも敷いてみる。今回は、たまたま敷いただけで普段はランチョンマットなって敷かない。なんとなくパスタにランチョンマットって相性よさそうだなって思ったからであって本当に気分でしかない。


「わかりました。こちらも準備ができましたので持っていきますね」

 そう言ってエプロンを状態のまま翠は両手にお皿を持って歩いてくる。

 ‥‥少しだけ魔が差して「新妻みたいだ」と思ったことは心に秘めておこう。後々俺が困るような気がする。


「どうぞ。スープパスタです。少し珍しいかもですね」

 少しはにかみながらそう言った翠は、丁寧に2人分のお皿を並べていく。

 確かにスープパスタはあんまり食べたことがない気がする。自分で作る機会もあんまりなかったし。


「美味しそうだな。でもスープパスタって手間がかかるんじゃないのか?」

 お皿の中身を覗きながら、疑問に思ったことを翠に聞いてみる。なんとなくだけどスープパスタって手間がかかりそうなんだよな。

「そんなことはありませんよ。スープとパスタを作るのは同時進行で行いますし、割と時短できています」

 どうやら俺の心配は杞憂だったようで、当の翠はあっけらかんとしている。


「ささ、食べますよ」

「あ、あぁ」

 翠に急かされ、慌ててフォークを手に取る。

「いただきます」

「どうぞ、召し上がってください」

 さっそくフォークにパスタを巻き付け、口へと運びゆっくりと咀嚼する。

「美味い‥‥」

「ふふ、それはよかったです」

 思わずそう口にすると、向かいの席でこちらを見ていた翠はふんわりとした笑みを浮かべる。スープの味はコンソメだろうか。意外とさっぱりとしている。


「‥‥本当に美味しそうに食べてくれますね」

「そうか?」

「えぇ。すごくわかりやすくお顔に出ていますよ」

 そうだったのか。自分では気づかないうちに表情に出ていたようだ。

 ただ、翠の作った料理が美味しいのは本当で、初めて食べたスープパスタだがこれはかなり美味しい部類に入るのではないだろうか。

 今度、翠にレシピ教えてもらおうかな。

「あ、レシピはお教えすることはできませんよ?虹ちゃんがこれを自分で作れるようになったら、私の出番がなくなっちゃうじゃないですか」

 こちらの心を見透かしたかのように言ってくる翠。残念だけど、レシピを教えてもらうのは諦めるしかなさそうだ。今度自分で調べてみよう。


 心の中でそう決めつつ、俺は翠の作ってくれたスープパスタに舌鼓を打った。












 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 まずは皆さんに謝罪を。

 2週間も更新期間を空けてしまい大変申し訳ありませんでした!自分の怠惰さに責任があります。本当にすみません。

 これからは最低でも1週間に1回は更新できるように精進してまいります。(できるだけ早く更新できるようにします。はい。


 加えて1つご報告を。

 この度新作を書きだしてしまいました。全く持って意味が分かりません。

 まだ、この作品も完結していないのに、自分の中の創作意欲を抑えることができませんでした。

 もし、それでも私のことを応援してくれる方がいらっしゃれば、ば読んでいただけると嬉しいです。よろしくお願いします!


「隣の席で一匹狼の転校生がひょんなことから俺にだけ懐きだした」

 https://kakuyomu.jp/works/16817330651747882993

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