第5話 私も行きますから!

 土田が手を挙げていることに困惑しているのは俺だけじゃなく太に奈美達も「どうして?」という顔をしている。


「えっと、確か土田さんだったわね。こんな言い方も変だけど、ホントにいいの?」

「ええ、確かにそうですね。初対面のお姉さんが運転する車に乗りたいなんて変に思われてもしょうがないですよね」

「そうね。でも、ホントどうしてなの?」

「言わないとダメですか?」

「出来れば言って欲しいかな……ね、どうしてなの?」

「えっと、ホントに申し訳ないんですけど……」

「うん、いいわよ言って」

「単に面白そうだなと思って……こんな理由じゃダメですか?」

「面白そう……それだけ?」

「はい、さっきのお姉さんとまー君達のやり取りとか見ていて楽しそうだなって思ったし、そんな三人と一緒なら多分面白いドライブになるのかなって思って」


 朋姉ちゃんは一緒に行きたいと言う土田の説明をジッと聞いた後に目を瞑り腕を組むと「ふむ」と小さく呟いた後にカッと目を開き土田を指差すといきなり大声を出す。


「いい! あんた、いいわ! うん、来なさい。是非、一緒に行きましょう! いいわね、太、まーちゃん」

「お、おう」

「いいけど、土田。ホントにいいの?」

「うん、やっぱり迷惑だった?」

「いや、そんなことはないけど……」

「そうよ。私がいいって言ってるんだから、誰も迷惑に思わないわよ。よし、そうと決まったら、図書館に……って、話が出来ないわね。よし、アソコに入ろう」

「「「え?」」」

「ほら、何しているの! メンバーが決まったのなら、具体的に何時何処に行くかを決めないとでしょ。ほら、行くわよ。早くしなさい」

「あ、ああ……じゃ、奈「待って! 私も行く!」美?」

「あ、ズルい! 私も行きたい!」

「あの……私もいいですか?」

「「「え?」」」


 朋姉ちゃんに打ち合わせとばかりに近くにあった喫茶店に入ろうと言われたので、奈美達にお別れの挨拶をと思っていたら、奈美だけでなく由美も一緒に行くと言い出し、気が付けば離れて見ていた中山も近くにいて、手を挙げていた。


「あら、結構大人数になったわね。でも、そうなるとウチの車には乗れないわよ」

「あの……私の兄に聞いてみてもいいですか?」

「お兄さん?」

「ええ、一応免許はありますし、ウチの車も使わせて貰えると思うんで」

「あら、いいわね。じゃあ、まずは土田さん……えっと「亜美です」……ん、亜美ちゃんね。じゃあ亜美ちゃんのお兄さんも参加予定で人数的には大丈夫ってことで、打ち合わせしましょう!」

「「「はい!」」」


 朋姉ちゃんを先頭に喫茶店へと入って行く様子を後ろから見ながら、奈美に小声で確認する。


「奈美、いいのか?」

「え? 何が?」

「何がって、お前は派手なアトラクションは苦手だっただろ」

「あら、まー君覚えててくれたんだ!」

「いや、そのくらいは覚えているって。で、ホントにいいのか?」

「まー君、心配しすぎだよ。私も最初は朋姉ちゃんの運転は大丈夫かなって思ったけど、考えてみたら免許取り立てでしょ。なら、絶対に慎重に運転するハズだよねって」

「いや、お前……その考えはフラグだろ」

「大丈夫だって……大丈夫だよね?」

「いや、俺に聞くなよ」

「はい、そこ! イチャイチャしてないで早く入る!」

「「はい!」」


 ちょっとだけ奈美に確認しているつもりだったが朋姉ちゃんは待ちきれなかったらしく、俺達を呼びに喫茶店の外に出て来て叫ぶのだった。


「はい、座って座って」

「分かったから、座るから、そんなに押さないで」

「……」


 喫茶店の中に入ると奧のL字型のコーナーソファの角に太が陣取り、その横に中山、由美、亜美と座り、反対側に奈美、俺、朋姉ちゃんが座る。


「もう、面倒だから、皆コーヒーでいいわね」

「姉ちゃん、選ばせないのかよ」

「奢りなんだから、文句は言わないの! すみませ~ん」


 その後、朋姉ちゃんが人数分のコーヒーを頼むと「少々お待ちください」とウェイトレスの女性が人数分のお冷やを置いて去って行く。


「じゃあ、早速だけどどこにする~?」

「どこって、もう姉ちゃんが決めているんじゃないの?」

「ん~それでもいいけど、折角だから、どうせなら皆の意見も聞いてみたいじゃない。ね?」


 朋姉ちゃんは皆の希望を聞いてから決めると言っているが、どうせならとさっき朋姉ちゃんが持っていた地図を見せてくれと頼むが、何故か拒否された。


「どうして見せてくれないの?」

「ど、どうしてもよ!」

「姉ちゃん、何を焦ってるんだ?」

「バカ太! 私が何を焦っているって言うのよ!」

「……朋姉ちゃん、もしかしてだけどデートスポット巡りとか?」

「ゆ、由美、な、何を言っているのかしら?」

「「「……」」」


 朋姉ちゃんのあからさまな反応に皆の視線が朋姉ちゃんに集中する。すると太が少し興奮気味に朋姉ちゃんに話しかける。


「姉ちゃん! そうか、姉ちゃんにもついに彼氏が出来たか!」

「バカ太! もし、そうならアンタ達を誘うワケないでしょ! 口に出す前にちょっとは考えなさいよ! このバカ!」

「バカバカ言い過ぎだよ、姉ちゃん……」


 朋姉ちゃんにバカと言われてシュンと小さくなる太を中山が楽しそうに見ているのが分かる。だが、太は別の方向を気にしているようだけど気のせいだよね。


「おやまあ、太ってば……」


 とりあえず朋姉ちゃんは恥ずかしそうに地図を見せてくれたのだが、大方の予想通りに付箋が貼ってあった場所は有名なデートスポットばかりだった。


「だかた、見せたくなかったのに……」

「まあまあ……あ、お兄ちゃんだ。うん、そう……そこの喫茶店にいるから、うん、待ってるね」


 亜美がスマホを離すと「もうすぐ兄が来ます」と言った。

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