第3話 コレクションは誰の物?
図書館からの帰り道、皆で駅に向かっている時に考える。今日の勉強会は多分、上手くいったと思う。若干名を除いてだが……。
「由美、あとは自分でちゃんとするんだぞ。奈美でもいいから分からないところはちゃんと質問してな」
「ぶ~分からないもんは分からないもん。ねえ、もう一回やってよ。ね、いいでしょ?」
「イヤだよ、面倒くさい。お前だけなら、奈美に言えよ」
由美にそう言ってると太が言う。
「なら、俺も一緒ならいいだろ。な、もう一回! もう一回だけでいいから、な?」
「中山はどうする?」
由美と太が頼むのなら、どっちかを面倒見て欲しくて中山に確認すると、中山が少しだけくすりと笑い「私はいいわよ」と快諾する。
「まあ、中山がいいならいいか。なら、場所は図書館でいいよな。なら、いつにするかだけど……」
歩きながら、いつにするかと考えていたら奈美と話していた亜美がそ~っと手を上げているのに気付く。
「まさか、土田も?」
「うん。ダメ?」
「いや、ダメじゃないけど……奈美もか?」
土田に答えていると土田の隣で、奈美もそっと手を上げていたのでハァとため息を吐く。
「なら、明日でいいか?」
「「「「うん! ありがと!」」」」
「中山はよかったのか?」
「私はいつでもいいわよ。それに太君さえ良ければいつでも個人授業するわよ」
中山が意味深に太を見ながら、そんなことを言うが言われた太は顔が赤くなる。
「太? 何か妙なこと考えていないか? 多分、お前のコレクションみたいなことはないと思うぞ」
「ブル! お、お前、ここでそんなこと言うのは卑怯だぞ!」
「何が卑怯だ! 俺はこの前のお前の発言で……」
「わ、悪かったよ。でも、もういいだろ。勘弁してくれよ」
太が大きい体を屈めて俺に手を合わせて拝んでくるので、足を止め太に向き直る。
「太、分かったよ」
「ブル! 本当か!」
太が体を起こし、俺の手を握り嬉しそうにしているのを見て爆弾を落とす。
「じゃ、これから俺の家に置いてあるお前のコレクションを持ち帰ってくれな」
「な、何をいってるのかな~」
音が鳴らない口笛を吹いて誤魔化す太に更に追い討ちを掛ける。
「なら、着払いでお前の家に送りつけるからな。そうだな、品物の欄には……」
「俺が悪かった。だから、それだけは止めてくれ。頼む、そんなことされたら俺は……」
太が大きな体をガクガクと震わせている。
そう言えば、未だに太が敵わないお姉さんがいたなと思い出し、シャレにならないかと太に謝る。
「太、ごめんな。しばらく会ってなかったから朋姉ちゃんの存在忘れてたわ」
「忘れてた?」
太の体の震えがピタッと止み、何故か勝ち誇った顔で俺を見る。
「今、姉ちゃんの存在を忘れていたと言ったよな?」
「ん? ああ、確かに言ったけど、それが?」
「ふふふ。いいのか? 俺にそんな態度で?」
「なんだよ。気持ち悪いな~言いたいことがあるなら言えよ」
「お前、姉ちゃんを忘れてたんだぞ。俺がそれを姉ちゃんに言ったら、どうなると思う?」
「さあな。それより送るのがダメなら、いつ取りに来てくれるんだ?」
「ふふふ、どうしようかな~」
「分かったよ。取りに来ないのなら俺が届けるよ。でも、多いから一人じゃ無理だな。どうしよっかな~ここは朋姉ちゃんに頼もうかな~」
そう言って、チラリと太を見ると、またガクガクと震え出す。
「太、分かったな。主導権はどっちにあるか?」
『コクコク』と頷く太を見て、満足そうに頷いていると、皆の視線に気が付く。
「どうしたんだ? なんでそんな目で俺を見る?」
「まー君、意外と黒いんだね」
「まー君のコレクションは太のだったんだ」
「……まー君、黒すぎるわ。引くわ~」
「ねえ、太君のコレクションってまだあるんでしょ? 見に行っていい?」
奈美、由美、亜美にさんざんに言われる。だが、中山のはちょっと違うな。
太が「姉ちゃんが怖い」と呟いているが構わずに再び駅まで歩く。
「ねえ、まー君。あそこまで怖がるお姉さんってどういう人なの?」
「なんだ興味があるのか?」
「そりゃあね。あんだけ怖がるんだもの。興味を持つなってのが無理よ」
「そんなもんかな~」
亜美が太の様子から朋姉ちゃんに興味を持つが、正直あまり会わせたくはないかな。その証拠にあれだけ人の話に入ってくる由美がさっきから大人しいし、奈美に至っては回りを気にしているが気になってしまう。
「奈美、どうした?」
「だって、『噂をすれば影』って言うでしょ。だから、そのフラグが折られるまでは気になっちゃって」
「それこそ、フラグだろ。ぶっ!」
「何がフラグだって?」
急に後ろから抱き着かれてしまい倒れそうになるが、この感触ってやっぱりアレだよな。
「姉ちゃん……」
「「え? この人が?」」
「「お久しぶりです」」
「あら、奈美に由美じゃない。ホント、久しぶりね。で、今日はどうしたの?」
「朋姉ちゃん、重いから……」
「まーちゃん、女性にそういうこと言っちゃダメって教えたよね?」
「イタイ……」
俺におぶさったまま、右手で俺の右頬をギュッと抓ってくる。
「まあ、いいわよ。降りてあげるわよ。あら? 見たことない女の子がいるじゃない。どっちが太でどっちがまーちゃんの彼女なの?」
俺の背中から降りたパンツスーツ姿の茶髪のセミロングで、身長百五十センチメートル弱の小柄な女性は通称『朋姉ちゃん』で太の姉だ。その朋姉ちゃんが中山と亜美にそんなことを言うものだから女性陣が慌てる。
「「彼女!」」
「「彼女だなんて……」」
いきなりなんて事を言うんだと思わず朋姉ちゃんを睨み付けてしまう。
「って、そんなことないのは分かっているわよ。だから、そんなに睨むことないじゃないまーちゃん。でも、奈美と由美は慌てているけど、二人は満更でもないみたいよ? よかったわね。太!」
そう言って、朋姉ちゃんは思いっきり背伸びをして、太の背中を叩く。
「いろいろ、イタイよ姉ちゃん……」
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