第198話 いえぇぇえいっ その二

「ではまず、一戸建てから。一戸建てのメリットは、なにより手軽であることです」

「手軽?」

「……手軽ではないんじゃないですか?」

「いや、手軽ですよ。資金さえ用意できれば、特に苦労せず手に入るんですか。……まあ、これはマンション一室にも当てはまりますが」


 いくつかの不動産屋、サイトを巡って、希望する条件に合う物件を探す手間こそあるが、それだけ。誰もがやっていることでもあるし、手軽と言ってしまって差し支えはあるまい。


「デメリットは、同棲バレの危険性が高いこと。あとは、人を招くことが難しくなることでしょうか? 特にウタちゃんさんとか、ライブラメンバーでお泊まり配信みたいなことやってますし」

「ああ、それは確かに。まあ、引越し先の都合って説明すれば大丈夫ですけど……」


 大問題というわけではないが、若干の不都合があるのは間違いない。同棲バレの危険性って時点で結構なマイナスなので、ダメ押しの+‪αと考えると……うーんって感じ。


「解決策としては、近くに配信用のセカンドハウスをそれぞれ用意しておく方法があります。それこそ、いま借りてる部屋をそのまま残しておくとか」

「まあ、なくはないかな?」

「配信環境をそのまま残せますし、良いと思います」

「ただその場合、移動する手間が発生するんですよねぇ……。配信するために出勤するようなもんですし、VTuberっていう在宅ワークのメリットがないような気も」

「私はそんな気にしませんよ? ……いまでも結構忙しいですし」

「あー。ライブラはね。忙しいって聞くよね」

「……うん。本当に忙しい。いや、好きでやってることではあるんだけど」


 ウタちゃんさんが若干煤けてる。人気VTuberの悲哀というものを見た気がする。


「というか、そっちはそんな忙しくないの? 双葉だって、チャンネル登録者は私と同じぐらいになったじゃん。山主さんは言わずもがなですし」

「んー、デンジラスはそこまでじゃないかな? 前とあんまり変わんない」

「俺のせいでスタッフさんたちはクソ忙しくなってますけどね。……むしろ、その関係でライバー側に仕事を振れなくなっているというか」

「あー……」


 しかもコンスタントにトラブルが湧いたせいか、冗談抜きで終わらぬデスマーチみたいになってた模様。……マジで気合いを入れて差し入れしてなかったら、スタッフさんたちに恨まれて大変なことになってたと思う。

 その結果として、俺たちライバー側は平常運転でのびのび活動できていたのは皮肉である。いや、スタッフとしての仕事は活動のサポートではあるのだが。

 それにしたって限度というものがあるし、原因がライバーの俺だしな……。社会の皮肉を凄く感じる。何処かが楽してると、必ず何処かが割を食って苦労しているというか。


「話を戻しますけど。ただでさえ忙しいのに、無駄な移動時間を発生させるのもアレでしょう?」

「うーん。そう、なんですかねぇ……?」

「そうですよ。まあ、セカンドハウスじゃなくて、敷地内に専用の離れを建てる手もありますが。……ただ、都心でそんな広い土地があるかなと」

「なくはないんじゃない?」

「それでも、家が売りに出てるかは謎でしょう? ゼロから建てるにしても、規模にもよりますが一年ぐらいは掛かるでしょうし」

「一年かぁ」

「なにより、これが一番問題なんですけど。近くにセカンドハウスを借りるにしろ、離れを造るにしろ、家を買うと近所付き合いがネックなんですよ。女性二人に男一人ですから。間違いなく注目されるでしょう」

「それは……そうだね」

「姉弟で誤魔化すのは……無理ですよね」


 うん。無理。顔つきはそんな似てないし、姉弟だけで家を買うシチュエーションも意味不明すぎる。せめて親に見える人物を置かなければ誤魔化せないだろう。

 似た理由でルームシェアと誤魔化すのも難しい。男がもう一人いないと、結局同じ邪推をされるだけだ。


「……これだけ挙げられると、一戸建てを選ぶメリットはあんまりなさそう、かな?」

「まだなんとも。次はマンション、分譲住宅ですね」


 なお、一部屋だけだと戸建てを買うのと大差ないので、複数買うことを前提とする。


「こっちのメリットは、セカンドハウス関係が簡単に片付くことでしょうか? それこそ、同じマンションで三部屋買えばそれで終わりです」

「確かに。配信する時は部屋を移動すれば良いだけだもんね」

「……というか、それで十分では? マンション一棟買いとかも必要なくないですか?」

「それはアレです。さっきのご近所付き合いの延長です。一棟でもフロアでも良いですけど、周辺丸々買い取ってしまえば人目も気にならないでしょう?」

「また大胆な……」


 そうかな? プライバシー対策としてはこの上ないと思うけど。一棟丸々なら無関係な人間の立ち入りを制限できる。フロアなら怪しい人間かどうかを一目で判断できる。


「でも、空き部屋とかはどうするんですか? 買って放置は勿体なくないです?」

「好きに使えば良いのでは? 各々の趣味部屋にするも良し。信頼できるライバー仲間に格安で貸し出すも良し。……まあ、最悪俺の関係者が埋めに来ますよ」

「山主君の関係者って?」

「警察とか自衛隊でしょうか? ほら、警備関係で」

「「あー……」」


 ある意味、それが一番無難かつ安全ではあるんだよな。向こうとしても警備やらなんやらは必須だろうし、それだったら直接周りを固めて貰った方が気が楽。

 俺の警備に回される人員は、絶対に弁えてる人間だろうし。そういう意味でも安心はできるだろう。


「そう言われると、確かに一括でマンションを買ってしまうべきって気持ちになりますね……」

「セキュリティは確かに大切だよね。……前の件を考えると特に」

「そうなんですよねぇ」


 天目先輩の言葉が重いぜ。俺の巻き添えでテロられただけはある。


「ただデメリットとして、そもそもそんなことが可能かどうか不明。できるとしても、どれぐらい掛かるか分かんないという」


 一棟買いにしろフロア買いにしろ、俺には縁がなかった世界だ。何がどうなるかも全然分からん。

 まず高級マンションであることは必須。これはマンションそのもののセキュリティとか、地域の民度を考えると譲れない。あとはアクセスか。

 で、都心の高級マンションが売りに出ているかって話である。そりゃまあ、一部屋なら余裕だろう。三部屋でもなんとかなるかもしれない。……だがフロア一つ、マンション丸ごとなると一気に難しくなるはずだ。

 まあ、政府の力を借りればワンチャンぐらいはありそうだが……それでも時間がなぁ。どんぐらい掛かるか全然分からん。


「似たような理由で、ゼロからマンションを建てるとかもナシです。それこそ、戸建てを新造するより時間が掛かるでしょうし」

「……なるほどねぇ」

「うーん。やっぱり世の中、お金だけじゃ解決できない問題も多いんですね」

「そうなんですよ。法律とか人目とかを無視して良いなら、やりようもいくらでもあるんですが……」

「やりようって?」

「大国主のドロップです。アレ、現実に反映される都市開発シミュレーションソフトだったんで」

「「待って?」」













ーーー

あとがき


前回のコメントありがとうございます。知見を得ました。

それはそうと、もうちょっとだけ続くんじゃよ。



そして宣伝二つ。


①原作小説、コミカライズ一巻をよろしくお願いします。まだまだ買ってー。


②明日、カドコミとニコニコ漫画でコミカライズ版更新です。お読みになって。

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