第186話 ブチギレ結納配信。お祝いに神様のこと〇ってみた その三
「──ハハハハッ!! やってくれたな、愛し子よ!!」
「おーおー。元気なこって。知ってたけど」
丁巨己テレビの残骸ごと吹っ飛ぶ勢いで投げたんだけどなぁ……。それで返ってきたのが、空気が揺れんばかりの大哄笑なんだから、気が抜けるというかなんというか。
てか、ガチで笑い声とともに大気が震えとる。立ち込める砂煙も、大量に散乱する瓦礫も、大国主が放つ覇気によって吹き飛んでいく。
漫画みたいな表現……いや現象なんだけども。ともかく、そういうのを現実でやらんでほしいよなぁ。探索者としては特に文句はねぇけど、配信者としてはちょっと勘弁してほしい。絵面で負ける。
「まったく。起死回生を狙うならまだしも、あの程度の戯れで捨て身の一手を指してくるとは思わなんだぞ。思い切りが良いのは美点だが、もう少し自らの身体を労わるべきだぞ?」
「すぐ生えてくるもんを囮にして何が悪いんだよ」
「我らの中でも、愛し子ほど割り切りの良いものは滅多にいないのだがな」
︰そうだよ山主! もっと自分の身体を大切にしなきゃ!
︰片腕なくなるって普通に死ねる大怪我だからな!?
︰大国主様にも言われとるやんけ!
︰やっぱりこの人おかしいよ……
︰神様基準でも異常って言われてるやん
︰本当に見てて怖いからやめてほしい
︰ぼかぁ心配だよ
︰あと、神様からもドン引きされてない……?
︰てか、さっきのが戯れってマ?
︰ドラマとかじゃなきゃ許されない量の出血だったぞ
︰こんなん配信でやるな!
︰VTuberはVTuberらしく机の前で配信してほしいです、はい
やかましわ。なーにが神の中にも滅多にいねぇだ。嘘つけボケ。ただたんに、できるけどやらないだけだろうが。俺程度にできることが、お前らみたいな化け物どもにできないはずがねぇんだからよ。
「まあ、だからこそか。その大胆不敵な胆力と、不撓不屈の闘志こそがすべての根幹。絶望を笑い、諦めを噛み砕き、恐怖を踏みにじり死線を越える。ただ貪欲に勝利を求め突き進み、その果てに我らの領域へと足を踏み入れた。そんな者に道理を説いたところで、素直に聞き入れるわけもなし、か」
「人をおかしい奴みたいに言わんでほしいんだが? たんに人間がか弱いだけだよ。それぐらいしなきゃ、お前らみたいなデタラメに一矢報いることもできない。だから嫌々やってんのさ」
「ふっ。それだけで我らに届くというのだから、末恐ろしいものよな。故にこそ、我らが目を掛けるだけの価値があるというものよ」
相変わらずの上から目線だ。まったくもって腹立たしい……が、この慢心がなきゃ勝負にすらならないわけで。それだけの差が『神』と『人』の間にはある。
試練を越えた俺ですら、神々から見れば赤子も同然。どんなに大きく見積もっても、奇声を上げながら走り回る幼児ぐらいだろうさ。
だがしかし、だがしかしだ。俺は素直ないい子ちゃんではない。生憎なことに、ガキはガキでもクソガキなのだ。
そしてクソガキとは、往々にして大人の想像を超えるもの。予想外の挙動で余裕を剥ぎ取り、驚き慌てさせるからこそ『クソガキ』なのだ。
「目を掛けるのは構わんが、それで足を掬われても知らねぇぞ?」
「ハハハハ。是非ともやってみせてくれ。それこそが我らの楽しみなのだから。……とはいえ、再び斬り合いというのも芸がない」
「あん?」
「少しばかり趣向を変えよう。我らの目的は、人の子の中に眠る可能性を知らしめること。無知故にその片割れを捨て去り、忘れてしまった自らの輝きを思い出させること」
そんなことを語りつつ、大国主が両の指を合わせる。──それと同時に違和感。
「あ?」
感覚に従い、視線を頭上に向ける。その先には大量の黒い影。遥上空で金属製のナニカが生み出され、この場所に向けて落下していた。
「ありゃ……何だ?」
「核爆弾、というやつだ。我は国造りの神なれば。それが文明によって産み落とされしものならば、それを司る我が自在に生み出せてもおかしくあるまい?」
「は?」
「アレがいまの人の子、その大半が考える最強の破壊兵器なのだろう? 故に、とりあえず百ほど用意してみた。──さあ、どう防ぐ?」
︰核!?
︰うっそだろオイ!?
︰山主!!
︰核百発とかさすがに……!?
︰アカンて!
︰逃げて山主さん!
リスナーたちが騒ぎ出すより早く、強烈な光が偽りの日本を包み込んだ。
これが核の光。熱と衝撃波であらゆるものを薙ぎ払い、放射能という科学の毒で広範囲を汚染する最強の現代兵器。
それが百。すべてが同時に炸裂した。その被害は如何ほどか……。少なくとも、現代の一般人である俺には想像がつかない。
「──アホくさ」
──だが、それが神の、大国主の戯れでしかないことだけは分かる。
「……ほう? 無傷か。一応は訊こう。どう防いだ?」
「次元を一歩跨いだ。どれほどの破壊力があろうとも、所詮は現代科学の産物だ。国は壊せたとしても、位相の、次元の壁は壊せない」
圧力だとか熱量だとか、電磁力だとか。物理の世界には大量の『力』が存在している。だが、それらの力で次元の壁は壊せない。……俺が知らないだけで、もしかしたら空間に作用する力は何かしらあるのかもしれないが。
が、『次元』とはもっと広義の枠組み。物理学とか、そういうもので語られる代物ではない。俺の語る次元と、科学者の語る次元は概念からして恐らく違う。
少なくとも、俺はそう定義してこの概念を活用している。
「では、さらに訊ねよう。この地はいま、先の攻撃によって汚染されている。脆弱な人の子なら、たちまち死に絶える猛毒の地よ。愛し子には効かずとも、その身にまとう衣服、道具には毒が伝染るやもしれぬ。……さて、どうする?」
「んなの、斬ればそれで終いだろうが」
大国主の澄まし顔に溜息を吐きつつ、ヒュッと天叢雲を一閃。
狙うは大気。そして汚染された大地……ではなく、もっと広範囲。もっと大雑把。この周辺に存在する放射性物質だとか、放射線だとか、ともかく現在進行形で有害なものをまとめて概念的にたたっ斬る。
概念そのものを両断された以上、それはどんなものであっても有害性を発揮することはない。発揮することができない。その機能そのものが破壊され、成立することがない故に。
「ハハハハッ! 随分と強引な方法だな。『害する』概念そのものを断って無毒化したか」
「強引だろうが、なんとかできんならそれで良いだろ。一番これが手っ取り早いんだし」
「もっともだな。しかしながら、言うが易し。それができるというのは素晴らしい。試練を与えたゴーダマも誇らしかろうよ。三千世界には未だに至らねど、小世界程度ならすでに掌の上と見た。是非ともそのまま成長してほしいものだ」
「ざけんな。んなもん特に目指してねぇわい」
そこまでイッたら、完全にお前らの仲間入りじゃねぇか。さすがに嫌だぞそんなの。こっちはまだまだライバー活動を満喫してぇんだ。いまの阿頼耶識で十分だっての。
「俺はただ、好きなことをしてるだけだよ。上昇志向なんぞ持ち合わせてねぇんだわ」
「ふっ。それで良いのだよ。それでこそ我らの愛し子。人という種の極北。そうあれかしと願ったことを、自らの意思で実現させる可能性の体現者よ!」
「あーもう! ごちゃごちゃうるせぇな!? あんなん癇癪玉だろうが! その程度でいちいち持ち上げんなや鬱陶しい!! 全肯定BOTかテメェ!?」
︰いやその理屈はおかしい
︰核爆弾のこと癇癪玉って言った?
︰えぇ……
︰うっそだろお前……
︰神様を全肯定BOTてあーた……
︰傲岸不遜すぎる
︰あとサラッと剣の一振りで広範囲を除染するな
︰好きなことしないで大人しくしててほしい
︰山主さん……
︰人類のバグすぎる
︰これ本当に現代日本人か?
︰ここまで振り切れてるとカッコイイな
︰やっぱり本質は結構暴君だよな山主
できて当たり前のことを褒められると腹立つんだよ! なにが核爆弾百発だゴラァ! そんなんよりウミフラシの質量攻撃のが全然やべぇわ!! ……多分。きっと。メイビー。
それなのにいちいち……!! ヨチヨチできて偉いでちゅねってか!? マジで吠え面かかせてやるから覚悟しろよテメェ!!
親みてぇな表情してんじゃねぇぞ! 俺にはちゃんと両親がいんだよ! 夜桜猪王としても、山主ボタンとしてもなぁ! ……『山主ボタン』は片親だけど!
テメェなんかお呼びじゃねぇんだ! パトロンみてぇにアレコレやってくれるだけなら大歓迎だが、その見守るような言動は気に食わねぇ!!
「起きろ天叢雲! 日輪を隠し、嵐を呼べ!!」
「おお!? ついにその神刀の力を解き放つか!?」
「応ともよ!! 趣向を変えるんだろ!? 神秘の戦いを人類に見せたいんだろ!? だったらここから本番だ!! 全力でテメェのことを殺してやんよ!! ──さあ、派手にいこうか!!」
「ッ、フハハハハハハッ!! 随分と苛烈な口説き文句だ! そこまで言われたら、我としても応えぬわけにはいかぬなぁ!? ならばこちらも全力だ!! やすやすと死んでくれるなよ、愛し子よ!!」
──第二ラウンドはこれにて終了! 結果は引き分け、否!! 互いにパフォーマンスに終始したため、ラウンド自体が不成立! ……だからこそ、ここからが本番だ!!
ーーー
あとがき
これで中。どうにか戦闘パートは予定通り三部構成で終われそう?
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