第184話 ブチギレ結納配信。お祝いに神様のこと〇ってみた その一

「──あー、テステス。これ大丈夫? ちゃんと映ってる? いつもと勝手が違うから若干不安なんだけど」


:映ってますねぇ……

:ねぇコレ本当にダンジョンなの!?

:ガチでライブ配信始まって笑うんだけど

:問題ないです。そして問題ないことが大問題です

:アカンてこれ

:またもや歴史の転換点に立ち会ってしまったか……

:世界中で大騒ぎになってるんですが……

:世界中の探索者がスマホ持ってダンジョン突撃してんぞオイ

:ヤバいってこれガチでさぁ

:行動の早い人たちはもうSNSで検証とかしてた

:これマジだダンジョン関係のいろんな法律が変わる


 うん。コメント欄を見る限りだと、特に問題はないっぽい。ちゃんと配信できてるようでなによりだ。


「大丈夫そうだね。んじゃ、挨拶といきましょう。──はい、どうもー。デンジラスのスーパー猟師、山主ボタンです。今日は私の結納配信にお越しいただき、誠にありがとうございます」


 まあ、こんな結納報告なんてあって堪るかって話なのだが。実際に嘘だし。嘘にしたって血腥いし。


「いやー、まさか俺もねー。VTuberやってて、事務所の先輩と結婚する羽目になるとは思わなかったよ。人生って本当に分からんよね。そんで世の中ってマジでクソ。……ああいや、天目先輩に対しては文句はないのよ? 普段からお世話になってるし、シンプルに素敵な人だし。あの人と夫婦になれるってんなら、それは男冥利に尽きるってやつなんじゃねぇかなと」


 ただこの嘘を表に出すと話がさらに拗れるので、『婚約した』という体で話を進めなければならない。

 いや、天目先輩に対する評価とかは本心ではあるのだが。ただウタちゃんさんがいる身で、こういうことを言うのは申し訳なく思うのよね。……でも、話の流れ的に言わなきゃならんのがツライところである。


「でもやっぱ、巻き込んじゃった天目先輩には、本当に申し訳ないことをした。俺みたいなロクデナシと、結婚することになっちまったんだから。しかも本来は慶事として報告するべきことを、未来の犯罪者たちに対する警告にしなきゃいけないとか……ねぇ?」


 なんというか、くっだらねぇよなって。極小数の馬鹿のために、こうして無駄に労力を掛けなきゃならないんだからさ。

 いまからでも、すべてを無視して暴れてしまいたいよ。こんなまどろっこしいシミュレーションを見せるんじゃなくて、分かりやすく痛みでもって刻み込んでしまいたい。

 ま、天目先輩がここまで身体を張って止めに来たのだし、そんなことはしないけど。もちろん、ウタちゃんさんも同様だ、

 玉木さんは二人の判断を『愛』と言った。事実、これは愛なのだろう。恋愛云々は正直ピンとこないが、こうした愛なら俺も理解できる。

 自分の立場、心よりも、俺の社会的な立場を慮ることを優先したその献身には応えなければならない。たとえそれが間違った判断なのだとしても、その身を犠牲にしてなお動こうとした意思には価値があるのだから。


「さて、あえてネタ混じりに話していたけど、ここからは真面目に言おうか。──これは警告だ。今回はたまたまストッパーになる人がいた。だから俺は怒りを抑えられたし、人的被害も出なかった。……でもな、俺だって感情はあるんだよ。それに我慢強くもねぇ。同年代と比べれば、ずっとクソガキだ。衝動的に癇癪起こしたって、なんら不思議じゃねぇんだぞ。二度はないとかそういう話じゃなくてさ」


:知ってる

:本当にそれな

:丁巨己の人間は命拾いしたよ

:マジで山主さんが暴れたら誰も止めらんねぇし

:正直俺なら襲撃しに行ってたと思う

:いまはいまで衝動的に癇癪起こしてると思うの

:こればっかりは山主さんが正しい

:日本人は仇討ち文化のある民族ゾ

:メディアの人間は本気で反省するべき

:さすがに逆恨みでテロは擁護できんのよなぁ

:むしろ山主さん我慢強い方だろこれ

:そ れ な

:人は怒りで我を忘れる


 だから釘を刺さなければならない。大衆には純粋な武力でもって脅しを付け、世界の国々にはダンジョンのルールを盾に協力させる。

 それでも馬鹿には通用しないだろうけれど。馬鹿の周りにいる人間には理解させるために。

 天目先輩とウタちゃんさん、二人の献身を無駄にしないためにも、世界に示すのである。神を殺し、神に連なる立場になった人間がどういうものであるかを。


「瓦礫の山の上で知れ。所詮は分霊と言えど、神の力を凌駕するということの意味を。この神が作ったジオラマの国で、平和というものの儚さを理解しろ」


 さあ、伝えるべきことはこれで伝えた。あとは結果でもって示すのみ。


「──そろそろ構わぬかな? 我らの愛し子よ」


 それを肯定するかのように、涼しげな声が聞こえてくる。

 声の主は、一人の青年。男にしては長く、黒曜石のように艶のある髪をみずらにし、古臭くも仕立ての良い衣を纏った美丈夫。一度目にすれば、決して視線を逸らせない。尋常ならざる引力を持った貴人。

 ここは誰もいるはずのない、偽りの日本。されど美しき青年は、当然のような微笑みを浮かべ、いつの間にかそこに立っていた。


「ああ。随分と待たせたな、大国主」

「良い。この程度、愛し子の成長を確かめる楽しみに比べれば些事である」

「そうか。では重ねて礼を。今回は随分と無理を言った。要求を叶えてくれたこと、感謝する」

「それもまた良し。愛し子の願いだ。できる限り叶えるのは道理である。……なにより、此度の改変は我らの思惑にも合うものだ。人の可能性を知らしめるためには、インターネットはなかなか都合が良い」

「ネットがどんなものか知ってるのな」

「当然。我らは人の歩みを眺め、嘆いてきたのだぞ? いまの文明を理解せずに否定するなど、そんな恥知らずな真似ができるものか。ましてこの身は国造りの神なれば。文明の礎たる国を司る我が、いまの世の象徴となる技術を知らぬわけがあるまいよ」

「なるほど」


 随分と素晴らしいポリシーをお持ちで。スタンピードなんて災害機能をダンジョンに実装していなければ、もっと手放しに賞賛できたんだがな。

 とはいえ、いまの時代の固有名詞などが通じるのはありがたい。言語の壁は互いに無視できるとしても、根本となる概念がなければ苦労するだろうからな。

 ある程度の説明で、こちらのやりたいことが通じるのは素直にありがたい。


「んじゃ、理解ある神様に追加でおねだりだ」

「ほう?」

「このパソコン、そっちで保護してくれねぇか? さすがにコレを構えながら戦うなんてのはな。あまりに間抜けだ。だが配信は続けたいんでね。ダンジョンに電波を通したように、上手い具合にやってくれると助かるんだが」

「委細承知。こちらで預からせてもらおう」


 大国主の言葉とともに、フッと手の中のパソコンが消える。恐らく、ダンジョンの仕組みと似た亜空間にでも仕舞ったのだろう。

 ただ手元からは消えたが、配信自体は恐らく継続していると思われる。


「これであの機材が壊れることはなかろう。……が、それだけでは片手落ち故な。さらに追加で手を加えさせてもらう」


 一瞬、猪マスクに違和感。……これは、何かされたな?


「いまのは?」

「その猪の被り物を、諸々の機能と紐付けられるよう改造した。その瞳の穴はカメラの、耳はマイクの役割を果たす。ついでに、質は愛し子の肉体の能力を反映させてある」

「……つまり?」

「脆弱なる人の子たちも、愛し子と同じ目線でこの戦いを楽しめるということだ。あの機材だけでは、我らの戦いを捉えることは不可能故な。詳しい使い方は、自らで確認せよ。愛し子なら、容易に読み取れよう」

「マジか」


 言われて阿頼耶識で確認。……うわっ、ガチじゃん。ビニール製の猪マスクが、クッソ高性能でワイヤレスなスーパーカメラになっとる。しかもパソコンを選ばねぇ。念じるだけでペアリングできるやんけ。

 あとこれ、地味に永続バフだな? 今後も使えるし、クソ強な自動修復機能も付いてるから一生使えるやつだな?

 配信者としては垂涎のご都合アイテムじゃねぇか。個人的には、並の霊薬なんかよりよっぽど嬉しいぞ。


「……このコメント読み上げ機能ってのは?」

「風情があるだろう? まあ、我の威に当てられて、いまは誰も文字を打ち込めていないようだが。……愛し子の名に泥を塗らぬよう、動きを止めぬ程度に抑えてはいるのだがな」

「こちらの事情に理解がありすぎる」

「当然であろう? ──人の子らよ、意見を述べることを許す。存分に騒ぐが良い」


:うっわ、何いまのっ!?

:これが、神様……?

:すっごいゾワッてきた! 凄いゾワッてきた!?

:無理無理無理無理無理!!

:直視できねぇ……

:なんか自然と跪いてたんだけど……

:なんて神々しい

:なんで山主さんは平気なんだよ!?

:こんなのアカンやん……

:やっべぇ……

:ひぇー……


 うわー。本当にコメント読み上げてんじゃん。しかもこれ、合成音声とかじゃねぇ。多分だけど、コメント主の肉声だ。

 一応、配信には載ってないようだけど、念じればそれも切り替えられるっぽいな。なんなら合成音声ソフトも対応可能っぽい。パソコンに入れてれば反映できるそうなので、あとで試してみよう。


「……にしても、至れり尽くせりがすぎるなコレ。あと、ちょっと機能盛りすぎじゃねぇの? 国造りや技術の権能じゃ、ちょっとカバーしきれんだろうに」

「うむ。確かに我だけでは手に余る。が、何度も言うておるだろう? と。この大国主以外にも、愛し子に構えることを楽しみにしている神は大勢おるのだ。我には叶えられぬ願いは、他の神が嬉々として叶えるだけよ」

「それはそれは。溺愛してくれてるようでなによりだよ」

「当然よな。なにせ、それに見合った愛を示してくれるのであろう? なら可愛がりもするというもの」

「……『愛』ねぇ。天上に御座す神様にとっちゃ、殺されることも愛と呼ぶか」

「子が親の期待に応えることを、愛と呼ばずしてなんとする? ──さぁ、愛し子よ。我と存分に戯れようぞ!!」

「上等だ。これを『愛』と呼ぶのなら、気が済むまで殺してやるよ!!」


──愛されてばかりの俺には、応えることしかできねぇからなぁ!!









ーーー


あとがき


皆様、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。


てことで、次回から本格的なバトル回。ご都合主義のスーパーカメラ越しに繰り広げられる、盛大な『殺し愛』のはじまりはじまり。


あ、あと明日はコミカライズのWeb版が更新です。みんな見てね。

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