第106話 浜辺に打ち上げられたクラゲをツンツンするコラボ その七

 何故、か。これはまた、随分と踏み込んだ質問が飛んできたものだ。

 こちらとしては答えることも容易いが、逆に訊く側はかなりの度胸がいる内容だろうに。


「ははは。中々どうして、ぶっ込んできましたねぇ。いや、全然構いやしませんけどね?」

「そこはまあ、そうですね。自覚はあります。実際、炎上することも覚悟してますし」

「いやいやいや。炎上するようなことでも……あるか。こういうのって、当事者間で問題にしてなくても勝手に燃えるし」


 炎上は大抵、外野のお気持ちで起きるからなぁ。そう考えると、この質問は確かに危ない。……いやガッツリ可燃物だな。

 なにせ俺自身も『ぶっ込んだなぁ』と苦笑したぐらいなのだ。俺がいくら許そうが、眉を顰める人間は出てくるだろう。

 とは言え、それはあくまで外野の判断である。当事者である俺としては、今回のクラゲさんの勇気と覚悟には万雷の拍手を送りたい。


「もし炎上とかしたら連絡くださいね。鎮火させるの手伝いますんで。ライン越えた馬鹿とかいたら、社会的に息の根止めて見せしめにしましょ」

「流れるように物騒なこと言った!?」

「そりゃそうでしょ。俺にまつわる内容で、理不尽な炎上を起こそうとしてる奴は〆る。これまでの活動で散々それを示してきたんですから。学ばない馬鹿に遠慮なんかするとでも?」

「いやまあ、言いたいことは分かりますけど……」

「ちなみに現在、開示請求を掛けたアカウントの多くから、示談の申し込みが送られてきてたりするのですが。一切合切却下しておりますので悪しからず。絶対に逃がさないので。しっかり弁護士雇って、法廷で最期まで戦いましょう。──お互い赤字覚悟でね?」

「人のチャンネルで重要そうなこと報告しないでくれません?」


:怖い

:草

:コラボ先で言うな

:草

:草

:それは自分のチャンネルで報告しろ

:ヒエッ

:赤字覚悟って言っても、ダメージ受けるの相手だけですよねそれ

:覚悟完了してる金持ちを敵に回すとこうなる

:草

:やったれ!

:示談する気ゼロかぁ。良いぞもっとやれ

:絶対に逃がさないという強い意志を感じる

:ちょっと相手に同情したくなるな……


 HAHAHA。ここまで念押しすれば、湧いてくる馬鹿の数も抑えられるだろう。……これでもゼロにならないあたり、人間って本当に愚かだなと思うけど。

 ま、普通の馬鹿は言わなきゃ分からないし、弩級の馬鹿は言っても分からないから仕方ないね。こういうのは、公の場で釘を刺したってことが大事だし。自分のチャンネルでやれと言われたら、それはそう。


「で、話を戻しましょう。何でこんなキャラにしたか、でしたか。んー、そうですねぇ……」

「やっぱり答えにくいですか?」

「いや、そうじゃないんですけどね? ただ、せっかくクラゲさんが危ない橋を渡ってくれたわけですし……」

「そこは気にしなくて大丈夫です。振り回されっぱなしじゃいられるかって個人的な反骨心と、この配信で少しでも爪痕を残したいっていうライバーとしてのプライドが故の行動なので。……まあ、山主さんなら笑って許してくれるって前提がありますけど」

「全然良いと思いますよー」


 許す許す。超許す。いやマジでさ、俺としてはこういうのを求めてたのよ。特にコンプラが緩めの個人勢とのコラボはさ。

 ちゃんと一線を守った上での、ノーガードの殴り合いって言うの? つまりはプロレスよプロレス。チャンネル登録者とかの余分な情報を削ぎ落として、配信内のみの関係で完結している対談。

 個性と個性のぶつかり合い。お互いがお互いを振り回してこそ、コラボってのは面白いわけで。

 だからクラゲさんを選んだんだ。事前に絡みがあったってのはもちろんある。天運に愛され、話題に困らなさそうだからという理由もある。

 だがそれ以上に、この人ならここぞって場面で突っ走れるであろうって期待があったから声を掛けたのだ。

 だってそうだろう? そういう度胸がなきゃ、メスガキキャラなんてやれはしない。リスナーとプロレスなんかできやしない。少数のファンに囲われ、チヤホヤされるだけの『姫』になっていない。

 VTuberに必要な才能を、クラゲさんは持っている。ラインを見極め、その上で自分のキャラなら許される範囲を攻める度胸がある。

 化けたな、と。この瞬間、クラゲさんは一皮剥けた。……いやこの表現はちょっと違うか。上から目線すぎるし。

 そうだな。俺好みのライバーであることを、今この場で示してみせた。こっちの表現の方が正しいか。


「まあでも、せっかくの良い質問ですしねぇ。……あ、劇的な答えとカスみたいな答え、どっちが良いですか?」

「カスみたいな方で」

「草」

「……はっ!? つ、つい反射的にライバーとしての芸人魂が。失礼。どっちもでお願いします」

「草」


:草

:草

:ノータイムでカスな方を選ぶな

:草

:何故そっちを選んだ

:草

:しかも最終的に両方選んでるし

:欲張りで草

:山主さんも草生やしとるやん

:これは草

:山主は山主でカスみたいな答えを用意すんな

:草ですわよ


 やっぱりクラゲさん面白いわ。推しと呼ぶにはまだアレだけど、十分注目するのに値するキャラをしてる。


「じゃあまず、劇的な方からにしましょうか」

「そこは普通、カスみたいな方が先では……?」

「カスみたいな答えは、ある意味で本質を指してるんで。先に言うとネタバレみたいになるんですよね」


 あとはまあ、カスみたいな答えの方がオチとして強いからね。芸人魂的に仕方ないね。


「で、このキャラにした理由なんですが。答えはシンプル。俺はVTuberをやりたいんであって、民衆の英雄をやりたいわけじゃないからですね」

「あ、本当に劇的な内容だ。てか真面目だ」

「HAHAHA。これだけ騒ぎとか起こしておいて、不真面目な理由だったりするわけないじゃないですか」

「それはそう」

「てか、劇的な答えはアレですよ。言ってしまえば建前ですよ。だから真面目なんです」

「それを言っちゃお終いでは?」


 大丈夫大丈夫。建前とは言いつつも、こっちもまた本心からの言葉だから。常に人は言葉に含みを持たせるものなのよ。


「実際、誰もが讃える英雄……いやヒーローの方が分かりやすいか? ともかく、そんなの演じてどうしろってんですか。ああいうのは物語の中だからこそ成立するんですよ。現実にもってくるものじゃない」

「まあ、それは確かに」

「単純に窮屈ってのもありますけど、理想のヒーロームーブなんて社会的にもあまりよろしくないですし。あの手の行動は、個人が自主的に、見返りを求めず、責任を持てる範囲でやるから許されるわけで」

「でも、『やらない善よりやる偽善』とも言いますよ?」

「だからと言って、それで法律破ったらアウトでしょ。一般人ですら、善行やっても内容次第ではしょっぴかれるんですよ? 俺に求められるレベルとなると、まず間違いなく何らかの法律に抵触する。ウタちゃんさんの一件とか正にそうですよ。結果的にグレーゾーンだったから許されましたけど、あれのせいで法律が一部変わりましたからね」

「あー……」


 裏でやる分にはどうとでもなるが、表で堂々とああいうことをやると、流石に隠蔽もできない。

 となれば、騒ぎになることは明白。やらない善よりやる偽善と唱えるのは良いが、過程で法律破ったら意味がない。それは偽善者ではなく犯罪者なのである。


「これが普通の人なら、善人キャラで通していくこともできたんでしょうけど。俺はなまじできることが広いですから。どうしても期待の声も大きくなる。でも現実は法律の壁が立ち塞がる。板挟みになるのが目に見えてるでしょう?」

「なる、ほど。そう言われると、確かに納得しかないですね……」

「でしょ? だからこういうキャラでやってくことにしたんです。正確には、変にキャラ作りとかしないで自然体で活動する、ですが」


:凄い深い会話してる……

:まあ、その通りではあるよなぁ

:ヒーロームーブなんて、現実じゃまず無理だしな

:ちゃんと考えてんだな、山主さん

:正論なのは認める

:善人ムーブをしないのは分かるが、だからと言って破天荒キャラになって良いわけじゃないんだよなぁ

:実際、ウタちゃんの時とかもあったしな。他の奴も助けろって声

:法律は仕方ない

:山主さんがマトモだ……

:でも世界を振り回す必要はないですよね?

:さっきまでふざけた会話が嘘みたいだ

:でもこれ建前……


 やっぱり法律って強いよね。大抵の批判は封殺できるから。……なお一部のコメントは見えてないものとする。


「とまあ、理由としてはこんな感じですね。ご納得いただけましたか?」

「……まあ、はい。こうして改めて説明されると、そりゃそうだってなりました」

「なら良かったです。じゃあ、次はカスみたいな答えですねー」

「ここで終わったら良い話だったんだけどなぁー……」

「HAHAHA。こんなクソ真面目な雰囲気で終わらせられるわけないじゃないですかヤダー」

「言ってることが分かるのが悔しい」


 ライバーはエンターテイナーだからね。シリアスなまま終わるわけにはいかないのである。


「……で、カスみたいな答えって何でしょう?」

「俺の性格がカスだからですね。ヒーロームーブとかしたところで、直ぐに本性晒して破綻するのが目に見えてましたし」

「知 っ て た」


 自然体で活動する方針の結果が今なんだから、そもそもヒーロームーブなんてできるわけないんだよなぁ。






ーーー

あとがき


遅れました。昼に食べた辛〇魚のせいで、執筆どころじゃなかった……。


それはそうと、予告通りコラボはこれでお終い。次からこの章のハイライトいくぞー

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