第100話 浜辺に打ち上げられたクラゲをツンツンするコラボ その一

「──ネットの深海、電子の海からこんばんは! 海月の妖精、海月ジェリーだよ! 皆、見てますかー?」


:ようクラゲ

:ようクラゲ

:どしたクラゲ

:ようクラゲ

:何か今日礼儀正しくない?

:いつものクソガキムーブはどうした?

:ようクラゲ


 チャンネル主の挨拶と同時に、配信が始まる。コメント欄の流れは穏やかだ。内容はかなり辛辣と言うか、穏やかなものではないが。

 彼女は海月ジェリー。以前に俺が偶然見つけた個人勢のVTuber。チャンネル登録者は約四万人。個人勢の中では大きい方だろう。……まあ、同接を見る限りアクティブユーザーは少なそうだが。

 とは言え、それも仕方あるまい。このチャンネルの登録者が増えた原因、俺がコメントしたからだし。十倍ぐらい増えたとしても、その殆どがライトユーザー未満。

 そこからライブ配信に参加するまで定着するかは、また別の話になってくる。本人の腕の見せどころとも言う。


「ちょっとリスナー。あんまり失礼なこと言わないでよー。ボクはいつもこんな感じでしょー?」


:は?

:んなわけ

:違うが?

:山主さん効果でチャンネル登録者増えたからって猫被んな

:はーつっかえ。新規に媚びて古参を蔑ろにするとか恥ずかしくないの?

:そもそも一過性の奴らはわざわざライブになんか来ないゾ

:チャンネル登録者がどんなに増えようが、お前の配信は場末のスナックなんだよ

:そもそもこのチャンネルに居着いてる奴らは、全員クラゲの本性知ってんだが?


 で、この見事なコメント欄とのプロレスを披露してくれているところを見るに、腕も間違いなくあると思う。少なくとも俺は面白い。


「お、お前ら本当にさぁ!? ここぞとばかりにディスコメ投げないでよ!? 今日コラボだって言ってんじゃん! 初コラボでボクが誤解されたらどうすんの!?」


:誤解も何もクソガキなのは事実じゃーん

:コラボ相手もクラゲのことクソガキだって思ってるよ

:全部分かった上でコラボしてるだろうからモーマンタイでしょ

:そもそもコラボ相手誰よ

:クラゲが超特別ゲストなんて言ってぼかしてるせいで、相手に気を遣うことすらできねぇんだわ

:おら早くコラボ相手紹介しろよ

:あくしろよ

:てかインパクト重視でまともに告知しないとか、普通にお相手に失礼では?


 いや本当、この独特の空気感って良いよね。個人勢とか、数字の少ないチャンネルあるある。リスナーとの距離がめっちゃ近い感じ。

 内輪ノリではあるのだが、これはちゃんと見世物として成立しているタイプの内輪ノリだ。初見でもちゃんと楽しめるだろう。

 そして配信者目線でも、この空気とノリは懐かしくある。コメントがゆっくり流れて、個々に返せる余裕があるこの感じ。俺が人気になる前の配信とそっくりだ。

 実際、やってる側的には昔の雰囲気の方が気楽なんだわ。今はコメントの流れが早すぎるし、外国語も多いしで読み上げも難しいからなぁ。

 企業勢としてはやっぱり人気が正義だし、そもそも贅沢な悩みではあるんだが。


「告知云々は皆が気にしなくて大丈夫ですぅ! ちゃんと打ち合わせして承諾を得てますぅ! てか、本当に失礼なコメントするなよ!? 今回はガチで特別なゲストだかんな!?」


:めっちゃハードル上げるじゃん

:お前はリスナーのこと何だと思ってるんだ

:クラゲ以外に失礼なこと言うわけないだろ! いい加減にしろ!

:自分のリスナー信じてないとか最低か?

:ファンを疑うとか辞めたらこの仕事

:名誉毀損だろこんなの

:めっちゃ念押しするな。クラゲの推し?

:例のあの人でも呼んだか?

:掃き溜めのルールを他所様に押し付けるわけなかろう


 リスナーもリスナーで癖が強いなぁ。流れるように暴言を打ち込んでる辺り、妙なセンスを感じる。

 ただその割には弁えてると言うか、民度の良さを感じるのがまた興味深い。なんとなくだけど、古の住人多いだろここのリスナー。


「本当だな!? 信じるかんな!? 失礼働いたら冗談抜きでボクの首が飛ぶんだからね!?」


 それはそれとして、この人は俺のことを何だと思ってるんだろうか。客観的に見て、現状クラゲさんのが失礼働いてるんだが。いや別に怒ってないし、なんなら腹抱えて笑ってるけど。


「それじゃあ、本日の特別ゲスト。──デンジラス所属、山主ボタンさんです!」

「はいどうもー。デンジラスのスーパー猟師、山主ボタンです。海の民の皆さん、こんばんはー」

「本日はよろしくお願いします!! ほら全員早く歓声!!」


:アイエエエ!? 山主さん!? 山主さんナンデ!?

:冗談で言ったのに本当に山主さん来た!?

:コメント欄やSNSに飽き足らず、ついに配信にまで!?

:山主さん貴方なんばしよっと!?

:SNSの方では何も告知してなかったですよね!?

:特別ゲストなんてレベルじゃねぇぞクラゲ!!

:だからこんな場末のVの配信に来て良い人じゃないからアンタ!

:どうやったら登録者四万のチャンネルに、世界トップクラスの配信者がやって来ることになるわけ……?

:クラゲさん流石に身の程知らずすぎでは?

:速攻でTweeterのトレンド載ってんだけど

:うわエグい勢いで同接増えてる……


 え、トレンドいった? 早くない? せっかくクラゲさんの要望で、俺の方からの告知とか控えてたのに。

 ちなみに要望の理由としては、注目されすぎると緊張で死ぬからだとか。あんまりな理由に笑ったのは内緒である。


「うわ本当だ数字エグいことになってるお腹痛いお腹痛い……」

「草」


:いや草じゃないが?

:クラゲ瀕死になっとるやん

:そら(世界規模での重要人物とコラボする羽目になれば)そうよ

:やっぱり山主さん愉悦部の民だな?

:今回ばかりはガチでクラゲに同情する

:凄い悲痛な声上げてる……

:そりゃ頑張って猫被ろうとするわ

:マジで災害みたいな人やん

:もうちょっとこう、手心とか

:人の心とかないんか……?


 開幕から凄い愉しい。







ーーー

あとがき


これが百話目ってマ?



それはそうと、本作とは関係のないのですが、ちょっとこの場を借りて告知をば。


活動報告でも既に発表したのですが、私が書いているラブコメ作品、


【家で知らない娘が家事をしてるっぽい。でも可愛かったから様子を見てる】


が、スニーカー文庫様から書籍化することに相成りました。

イラスト担当は あゆま紗由 様。発売日は五月一日予定となっております。

既に予約も始まっておりますので、ご興味がある方は是非ともよろしくお願いいたします。

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