第96話 禁断コラボ(裏) その一
「──それでは、無事にコラボを終了できたことを祝って、乾杯!」
「「かんぱーい!」」
スタジオ内に、グラスをぶつける音が響く。そして一瞬の沈黙の後。
「っ、ぁぁぁぁ!」
「くぅぅぅっ! やはり配信後の一杯は格別じゃの!」
「はふぅぅ。あー美味し」
三者三様。それぞれが満足そうに呟いた。ちなみ何をやっているのかと言うと、コラボをつつがなく終えられたことを祝しての打ち上げである。
「いやはや、感謝するぞ山主殿。コラボでもほとんど準備とかお任せしていたのに、こうして打ち上げにもお誘いしてくれるとは」
「いやいやいや。そんな大それたことでもないですよ。場所そのままで、メニューだってほぼ有り合わせですし。むしろ急な誘いを受けてくれたことに感謝してるぐらいですよ」
「そんなことないです! お誘いがなかったら逆に私たちの方から提案してましたよ! せっかくまた会えたのに、直ぐ解散しちゃったら寂しいじゃないですか!」
「ぬっふっふ。適当な居酒屋に誘おうと思ってたのは否定しないが、ウタの場合は本当にそれだけだったかのぅ?」
「ちょっ、てんてん!? 変なこと言わないでくれない!?」
ふむふむ。お世辞を言っている様子はないし、どうやら本当に迷惑ではなかったらしい。良かった良かった。……後半についてはノーコメントで。
「あ、ウタちゃんさん用に何か出しましょうか? 流石に打ち上げまで企画用のゲテモノは食べたくないでしょうし。……てんてんさんは率先して確保してますけど」
「だって美味しいんだもんこれ。ウタが食べないなら私にちょうだいよ」
「気に入りすぎでしょ……。山主さん、お気遣いありがとうございます。申し訳ないですけど、お願いします」
「うっす。じゃ、適当に出しますね。……ところでてんてんさん、今ちょっと素っぽいの出ましたけど、何でじゃのじゃ言ってんです?」
「ぬ、しもうたな。いやのー、儂はそこまで器用な方ではなくてな。Vの関係者といる時は、意識的にこっちの口調で通して慣れさせとるのよ。じゃないと配信でスムーズに喋れんのじゃ。あ、もちろん身バレの危険がある場では普通に喋っとるがの」
「はえー」
意識高いと賞賛すべきか、苦労してるなと同情すべきか悩むところではあるが。実際、違和感なく古風っぽい喋れていたのは、こうした日頃の努力の結果なのだろう。
「えーと、ダンジョン産のチーズ、ジャーキーとかで良いですか? それとももう少しガッツリいきます?」
「いえ、それで大丈夫です。なんだかんだ、配信内で食べましたから。軽く摘めれば十分かなって」
「きゃーきゃー叫びながら、ちゃんと食べておったしな」
「そ、そういうてんてんはお代わりまでしてたじゃん!」
「美味かったからの。……特に蜘蛛は最高じゃった」
「えぇ……」
恍惚とした表情を浮かべるてんてんさんに、ウタちゃんさんドン引き。
俺は俺で、まさかここまで彼女が蜘蛛を気に入るとは思わなかったので驚いている。
「意外と言うかなんと言うか……。最初はおっかなビックリって感じでしたよね? 抵抗感とかはないんですか?」
「儂は食に貪欲な日本人じゃぞ? 一度美味いと分かれば、見た目など大した問題ではないわ。ビジュアルだけなら、ホヤとかのがずっと気色悪いしの」
「まるで私が日本人じゃないみたいな言い方」
「あー、そう言うのええから。儂にもチーズとジャーキー寄越さんか」
「こ、この……!」
仲が良いなぁ(遠い目)。いや、本当に仲は良いんだろうけど。それ以上にてんてんさんが食欲に忠実すぎる。
元からこういう人だったのか、それともダンジョン食材がてんてんさんを狂わせてしまったのか。……できれば前者であってほしいところである。
「ウッマ!? このチーズもウッマ!? めっちゃ濃厚! なんかこれだけでご飯食べれそうなんだけど!?」
「また素が出てるよてんてん! てか私のために山主さんが出してくれたんだから、そんなバクバク食べないでよ!!」
「……むぅ。仕方ないのぅ。それじゃあもう一本蜘蛛の脚を貰うとするか」
「えぇ……。もう蟹みたいなノリじゃん」
「実際そんなもんじゃろ。味も超高級タラバガニみたいな感じだったし。……山主殿、ちょっと半分に切ってくれんかの? こう、殻を割る感じで」
「あ、はい。どうぞ」
「うむ。感謝する」
オーダーが飛んできたので、皿を受け取りテーブルナイフを一閃。縦に割って身を食べやすい形にし、てんてんさんにパス。
皿を受け取ったてんてんさんは、素早くフォークで身を掬い、パクリ。そして無言で満面の笑み。
「また随分と幸せそうな……」
「てんてん! 山主さんを便利に使っちゃ駄目だよ! 失礼でしょ!?」
「いやあの、全然大丈夫ですからね? ホストの立場ですし、そもそも打ち上げなんですから無礼講ですよ」
「そうじゃぞウタよ。山主殿はそんな細かいことを気にするような人ではあるまい。『ボタン様』なんて夢女子感満載な呼び方すら、特に気にせず受け入れる人種じゃぞ?」
「ちょっ!? あ、アレは……!! 配信でのノリだから! ちょっとした悪ふざけが通っちゃったせいで、止めるタイミングを逃しただけだから!」
「にしてもボタン様はないじゃろお前……。儂、かなり頑張って呻くの我慢してたからな?」
「てんてん!!」
賑やかである。女三人寄れば姦しいとは言うが、二人でも十分楽しそうに喋るものだ。酒が入ってれば尚更だろう。
「何を叫んどるんだか。シレッと呼び方を戻してる時点で、『アレは流石にない』と内心で思っとる証拠じゃろうに」
「うぐっ。そ、それはそうなんだけど!」
「山主殿はどうじゃ? 背中とか痒くならんかったか?」
「いえ特には。配信者の呼び名なんて玩具みたいなもんですし」
「……うーむ。そこでもうちょいウィットの効いた返しができると、ウタの好感度が上がったんじゃがなぁ」
「てんてん!」
「まあ、すでにカンストしとるようなもんじゃし、大した違いはないか」
「ちょっ、てんてん!? またそう言うことを!」
「んー? 儂は単に、命の恩人だから親愛度などカンストして然るべきだと思って言ったんじゃがのぅ。はてさて、ウタは何と勘違いしているのやら?」
「っ、てんてん!!」
本当に楽しそうである。酒の席特有のはっちゃけ具合が特に。……なお居心地の悪さはプライスレス。男が俺しかいない時点で、超無難か明け透けかの二択になると予想はしていた。
「で、山主殿。実際のところどうなんじゃ?」
「どうとは?」
「しらばっくれるな。儂らがこれだけ匂わせとるんじゃ。そこまでニブチンではなかろう?」
「全部てんてんがぶち撒けてるだけじゃん! 私はめっちゃ巻き込まれてるんだよ!!」
「じゃかあしい。いい歳した大人が焦れったい。奥手が許されるのは学生までじゃぞ。特に山主殿のような優良物件は、ガっといかんと直ぐに横から掻っ攫われるわ」
「うぐっ、いや、それは……そうかもだけど」
まるで俺が誰かにガっといかれる前提で話が進んでいるな。
「こう言うのは当たって砕けろじゃ。山主殿ほどの男性なら、色々と慣れておるじゃろうしな。駄目でも一夜の夢ぐらいは見させてくれるはずじゃ」
「それはもう違うじゃん!? 色んな意味で違うじゃん!?」
まるで俺が経験豊富な遊び人って前提で話が進んでいるな。
「あの、俺別に優良物件ってほどでもないですし、女性経験どころか彼女すらいたことない系男子なんですが」
「何じゃと!?」
「そうなんですか夜桜さん!? ……あっ!?」
食い付きすぎて本名言ったな今。
ーーー
あとがき
馬の出産に立ち会ってたら(LIVEで)遅れました。
なお、オフコラボが終了してるのは仕様です。今までは配信者としての食事シーンを書いてきましたが、裏での食事シーンは出してないなってことでこうなりました。
ちなみ裏なので基本的にはっちゃけてます。あと酒も入ってるので余計にはっちゃけてます。
実際、身内モードの女性たちの明け透け具合ってこのレベルよね。
男が居心地悪くなるレベルで色々喋る。……私はこの人生でそれを学んだ。
それはそうと書籍か電子を買うのじゃ。
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