第89話 愚痴愚痴タイム その一
「はいどうもお久しぶりです。最近、無理矢理習いごとをさせられる子供の気分を味わっている山主ボタンです」
:草
:草
:草
:草
:草
:草
草一色に染まるコメント欄。最後の配信が十日前の禊配信だったため、近況報告を交えた挨拶をしたわけだが、とりあえず受けたようでなによりである。
ちなみに配信が空いた理由としては、禊配信をきっかけに変更されたスケジュールに対応していたから。
ま、つまるところアレだ。早速とばかりに、各種レッスンを受けさせられていたわけである。
「ということで、今回はレッスンについての愚痴りながら料理していこうと思います。なお、食材につきましては、先日の禊配信にて用意したダンゴムシを使用しております。つまり在庫処分です」
:待って?
:ダンゴムシ!?
:サラッとエグいこと言ってる……
:在庫処分って……
:え、ダンゴムシとか無理なんだけど?
:本当に食えんのそれ!?
:昆虫食を素面でいくのか……
:閲覧注意やんけ
なんかドン引きされているが気にしない。これは俺の釈然としない内心を、どうにかして世間に伝えようという決意の配信なのだ。自爆テロ、死なば諸共とも言う。
「と言っても、視覚的に受け付けない人もいるとは思うので、既に調理の大半は終え、オーブンで焼き上がるのを待つばかりとなっておりますのでご安心ください。……完成品ですら無理という方は、無理せずブラウザバックをお願いします」
まあ、いくら鬱憤晴らしと言っても限度はあるので、最低限の配慮は行っているので安心してほしい。
ちなみにダンゴムシの調理工程としては、脚の付いてる部分の殻を剥がして、味が不明なワタを抜いて、塩胡椒で味付けして、最後に大量のチーズをまぶしてオーブンにぶち込んだ。
味付けとしてはいわゆる欧風。甲虫は甲殻類の仲間らしいし、海老っぽい感じに調理すれば多分イけるだろうという判断だ。
「そんなわけで、今回は料理配信とは名ばかりの雑談枠みたいなもんです。あと二十分ぐらいで焼き上がるので、それまで喋って時間がきたら食レポに移ります。──んで、レッスンの話ですよ」
最低限の説明は済ませた。てことで、これからは鬱憤を吐き出すだけの愚痴タイムである。
「いやもうねぇ、マジでレッスン面倒くさいの……。もちろん前の配信で醜態晒した俺が悪いし、マネさんや講師の人らは全然悪くないんだけどさぁ。単純に社不の俺にゃ合わんのよ」
:珍しく弱音っぽいこと言ってる
:ちゃんと社会不適合者って言え
:社不てあーた
:草
:自覚はあんのね……
:大富豪が社不とかこれもう分かんねぇな
:草
:ただの自称やん
:本物の社会不適合者がバチ切れするぞ
なんか賛否両論っぽい感じコメント欄が賑わってるけど、社会に馴染めてないって時点で社会不適合者なのは間違ってないだろうに。
なんだったら馴染めてない、馴染めないより酷いぞ俺は。そもそも馴染む気がないんだから。
「何て言えば良いんだろうねぇ? 俺さ、自分の意思と関係なく時間を拘束されんのが嫌なのよ。もちろん例外はあるし、必要なら妥協もちゃんとするんだけどね? ……問題なのは、その妥協が必要な時があんまりない点でね」
なにせこちとら、最強クラスの探索者で、億万長者で、国に忖度される立場にいるのだ。
これが一般人なら、自らの不利益を考慮して程々のところで折り合いをつけるのだろうが、俺の場合は不利益なんか知ったことかと我を通せてしまう。
なんなら相手がご機嫌伺いのために妥協することも多々あるのだ。
そんな王様ムーブ……いやダメ人間ムーブを許されてた人間が、いざ社会人っぽいスケジュールを設定されればどうなるか。
「仕方ないことは分かってんのよ。それに普通の社会人なら、舐めんなってキレられることも理解してる。でも『あー!』ってなんの! なんなら『にゃー!』ってなんの! 埋まってるスケジュール見るたびに、学生時代の寝る前みたいな感情が湧いてくんの! 『うわ明日も学校かぁ。サボりてぇ……』って気分になんだよ!」
:草
:これは社不ですわ
:言わんとしてることは分かる
:猫やんけ
:草
:寝る前に翌日の予定で憂鬱になんの分かるわぁ
:朝起きて仕事行きたくねぇよなぁ……
:すげぇ分かる
:猫www
:珍しく山主さんが共感できること言ってる
:なんで早起きしてまでやりたくないことしなきゃなんねぇんだろうなぁ
もうね、ただただシンプルにダルいんだ……。何でこんなことしなきゃならねぇんだって気分になりながら、その時が来るのを待ち構えなきゃならんし。なんなら準備しなきゃなんないから、余計に虚無感が湧いてくるんだ……。
「冒頭で言ったけど、マジで習いごとをやらされる気分でな……。親も講師の人も嫌いじゃないんだけど、それはそれとして『やりたくない』って気持ちがある的な感じよ」
しかも習いごとのジャンルが、いろんな意味で畑違い甚だしいというね。興味もそんなにないし、向いてもいないから余計に苦手意識が積み上がってくんだ。
「レッスンだけで愚痴りすぎだって思うだろ? リスナーも俺の立場になれば分かるよ。演技の講師の人に、渋い顔で『なんか違う』、『高品質な不良品』、『純金製の棒』、『高性能ボイスロイド』、『不気味の谷から出れない演技』なんて言われ続ければな……」
:草
:草
:草
:草
:草
:草
:草
:草
一応言っておくけど、俺だって傷付くんだからな!? 何がキツイって、この発言の大半に悪意がないことだよ! 悪意マシマシの罵倒ならノーダメだが、講師の人めっちゃ申し訳なさそうに言ってたんだよ!
失礼なのは承知の上で、俺を指導するために噛み砕いて表現してんだよ! その結果がこの悲しい例えの数々なんだぞ!
ちなみに講師の人が言いたいことをまとめると、『発声やブレスのタイミングなど、端々の技術はメキメキ上達しているが、演技力は全然伸びないね』となる。
多分、根本的な部分で演技のセンスがない。具体的に言うと感情が乗らない。……なんかバイオレンス方面だけは異様に上手いらしいが。
ーーー
あとがき
また頑張って今日中に書き上げられた……。超特急で仕上げたからちょい短めだけど。それでも年末に上げることに意味があると思います。
それはそうと、書籍の購入報告が続々なされて、大変嬉しく思います。いや、本当にありがとうございます。
まだ買ってないという方も、是非購入していただければなと思います。
それでは皆様、良いお年を ノシ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます