第84話 禊配信 その一

 大事にしないための苦肉の策だったとはいえ、自力の爆弾処理はやっぱり燃えた。まあ、残当と言えば残当である。近くに雷火さんもいたし。

 ちなみに雷火さんも燃えた。偶然とは言え不発弾に釣針を引っ掛けてしまったので、ネタ半分お気持ち半分ぐらいの比率で燃えた。なお当の本人は凄い名状し難い表情をしていた模様。


「ということで、禊配信をします。山主ボタンです」

「禊配信に巻き込まれました。釈然としない感情が湧きつつ、若干の納得感を抱いてしまって嫌になってます。雷火ハナビです」


:草

:草

:草

:草

:草

:草


 そんなこんなで、草が生い茂る中での禊配信が企画されることと相成りました。

 なお企画された経緯と致しましては、デンジラスの四期生である我々が揃って燃えたから。それも不発弾処理という反応に困る内容で。

 まあ、正式に専門家が確認したわけではなく、それでいてすでに塵となり判断不能という理由から、刑事的なアレコレにこそなっていないのだが。

 ただそれはそれとして、面倒な騒ぎに発展したことは事実なので、なんかそれっぽいことやっておこうかという流れになったのである。


「まあ、ネット曰く第三次世界大戦の起こしかけた人間が、今更不発弾云々で禊配信ってのもちゃんちゃらおかしい気もしますけど」

「ボタンさん? それはあまりに開き直りすぎですことよ? そんなんだから、そろそろお灸を据えるべきではって先輩たちにこんな枠設定されるんだよ?」

「でもこれ茶番じゃん」

「ボタン!?」


 本音を言ったら雷火さんに怒られた。あとサラッと裏事情も暴露された。

 そうなのだ。今回の禊配信であるが、我らがデンジラスの先輩方が発起人というか、各方面に話を通すために行動していた。

 理由に関してはシンプル。要約すると『お前ちょっと騒ぎ起こしすぎ』とのこと。ごもっともである。

 ただ念押ししておくと、別に先輩方が俺に悪感情を抱いているとかではない。それなら、もっと畏まった場を整えた上でガチ謝罪をさせられている。

 開幕からぶっちゃけてることから分かる通り、コレは禊配信という名のコラボ企画なのである。……こうやってバカ騒ぎの方向に舵を切ることで、アンチやお気持ち民の梯子を外すという裏もあったりするが。


「どうしよう美琴ちゃん。山主君が思ってた以上に飛ばしてる……」

「アイツもう無敵だろ。というか後輩ども。同期でイチャついてないで早く先輩たちにターン回せ」

「イチャついてなんかないんですけど!?」

「巫女乃先輩。それ洒落になんないっす」


:こっちはこっちでフリーダムだなオイ

:草

:巫女様も大概無敵やろ

:草

:草

:イチカちゃんだけやんマトモなの

:これは清楚

:また火種投げ込まれてんの草だわ

:草

:イチカちゃん可哀想


 禊配信で余計な罪状が追加されそうなの、本当に勘弁してほしい。騒ぎを起こしすぎという名目で企画されたのに、発案者サイドが新しい火種を投げ込むってどうなのよ。


「では気を取り直して。本日の司会進行をさせていただきます。デンジラス一期生、天目一花です」

「同じく司会進行を担当します。デンジラス三期生、巫女乃美琴です。今日はよろしくー」

「ということで、本日はこの四人でお送りいたします」

「ちなみに事務所でのオフコラボです。なお男は後輩一人です」

「元々デンジラスは女所帯でしょ」


 そもそも身内の男が俺しかいないんだから、身内でコラボしたらこうなるに決まってるでしょうが。

 あとついでに言っておくと、男性ライバーが俺だけであって、スタッフさんの中には普通に男性もいるわい。


「いやー、本当だったらね。他の面々も呼んで後輩を吊し上げたかったんだけど。生憎と予定が合わなくてねー」

「吊し上げるとか怖いんですけど。俺なんかしました?」

「何もしてないから文句あんのよ。コラボは最初の一回以降さっぱりで、SNSですら表じゃほぼ絡みなし。こんなん全員文句も言いたくなるでしょ」

「あ、そっちなんすね」


 てっきり爆弾処理含めたアレコレを挙げるのかと。いや、名分でしかないのは分かっているけど、それはそれとして文句言われてもおかしくないからさ。

 そしたら予想外の苦情である。まさかコラボを筆頭とした絡みの少なさに文句言われるとは。


「いやー、その、俺って男じゃないですか。一応、配慮みたいな?」

「世界にすら配慮してない奴が何言ってんだ」

「それはそう」


:むしろもっと配慮してもろて

:ユニコーンに配慮してどうすんだ

:そういうの良いからもっとコラボしろ

:確かに山主、ハナビぐらいしか絡みないよな。そのハナビも多いわけではないし

:Vの暗黙の了解より、世界の平穏を重視してほしいんじゃが

:男女云々で気後れする性格でもないだろ

:いや認めるんかい!

:それはそう、じゃねぇのよ

:最近特にはっちゃけるようになったよな


 ぐうの音も出ない正論である。実際、配慮云々は言ってみただけの出任せだったり。

 じゃあ何でコラボしないんだって話になるのだが、そこはもうシンプルにその……忘れてた。


「えっと、アレっすよ」

「どれよ」

「ライバーとして異端の自覚があるんで、コラボの選択肢がちょくちょく頭の中から消える、みたいな?」

「コミュ障じゃねぇか」

「俺がマトモな感性してるとお思いで?」

「開き直るな」


 ゴメンなさい。


「だからこうして、身内での交流の場を用意したのよ。マジで感謝しろ後輩。あと早くフルコース奢れ」

「凄い丁寧に料理コラボ辞退した人が何か言ってる……」

「後輩そこ正座」

「どうして……」


 前にコラボの誘いを出したら、ビジネス文書かってくらいピシッとした内容でお断りしてきたの、そっちじゃないですか。俺は間違ったことは言ってないのに。


「……あ、大人しく正座はするんだ」

「デンジラスの後輩は先輩に逆らえないものなので」

「誤解が広がるから止めようね? あ、コラ! ハナビちゃんも悪ノリして正座しないの!」

「いや、なんか面白そうだったので」


:草

:草

:仲良いなコイツら

:草

:悪ガキしかいねぇ

:イチカちゃんマジでママ

:これはママみが加速する

:楽しそうだなオイ

:何でハナビまで正座してんだよ

:草


 天目先輩にペシりと軽く頭を叩かれる。横の雷火さんも一緒に叩かれた。これは確かに清楚でママだ。


「んじゃ、ぼちぼち本題入るわよ。あ、罪人どもは配信中は正座ね」

「待って美琴先輩! サラッと聞き捨てならないこと言った!」

「仕方ないっすねぇ。あ、足痺れないよう浮いて良いっすか?」

「「「待って?」」」


 なんでせう。ちなみに浮くのは冗談です。





ーーー

あとがき

というわけで新キャラ……嘘です。前から存在だけしてた既出キャラです。いや、そろそろデンジラスのメンバーも出しておこうかなと。


ところで話は変わるのですが、『稀によくある』って表現使いません? たまにコメントでツッコまれるんですけど。

いやもちろん、文法的におかしいのは知ってるんですが。ネットミームでありますよね?

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