第77話 一昔前の雑誌広告みたいな雑談 その二
「そんじゃ、お宝の準備をするのでちょいとお待ちを」
:また荒れそうな企画を……
:山主の持ってるお宝公開とかマ!?
:ダンジョン探索促進キャンペーンにしても過激がすぎる
:めっちゃ気になる!
:大丈夫? それ世に出して良いやつ?
:霊薬レベルがぽんぽん出てきても俺は驚かない
:〇人が増えるぞ。いやマジで
:火種追加するとか反省の色ナシか?
……ふむ。トーク内容を目にした反応としては、興味やら驚きやらが大半。次点で呆れとかそっち系。そんで眉を顰めているリスナーがちょこちょこってところか。
まあ、この辺りのリアクションは予想の範囲内だ。少数派ではあるが、マイナスの印象を持つ者がいるのも分かる。
実際、これからやろうとしていることはお世辞にも褒められた行為ではない。燻っている火種から目を逸らさせるために、別の場所でボヤ騒ぎを引き起こそうとしているのとなんら変わりはないのだから。
特にアウトなのが、探索者が命懸けの職業であるということだろう。促進キャンペーンなんて茶化しているが、その実態はあの世への片道切符のばら撒き。そりゃ良識のある人間なら嫌悪感の一つも抱くだろう。
「──あ、ちなみに言っておくとね。この配信の結果、探索者の死者が増えたとしても、俺は関知しないんで。その辺りは自己責任でお願いします」
──だからこそ、先んじてその手の感想を『んなもん知らん』と切り捨てる。
「うん。先んじて断言しておこうか。この配信で奮起した、または憧れて探索者になった人たちの内、半数以上が命を落とすでしょう。そして死なかった人のほとんどが、モンスターと現実に打ちのめされ、失意に塗れて再起不能となるか、諦めることになる。ついでに言えば、そうした人々の中には、少なくない数の子供が混じっているだろうね」
:言い方ァ!
:自覚あるんかい!
:シンプルにタチが悪い……
:子供ってあーた……
:誤魔化さないのはエラいと思うけど、世の中正直に話せば良いわけでもないのよ?
:じゃあ止めろや
:何故そこで堂々と宣言した上で突き進めるのか
:自己責任なのは間違ってないけどね
:現実を見えない奴が悪いからね。仕方ないね
:コンプラ意識皆無か?
一切の誤魔化しをせずに、自らの行動を死者を増やす蛮行であると断言する。
結果として批判的なコメントが増えたが、それでも構わない。いや、コレで良いのだ。
今回の配信の目的は世論のガス抜き。そうである以上、ある程度はマイナス寄りの意見を吐き出させる必要がある。
その上で惹き込ませれば良いのだ。そして、それを可能とする自信が俺にはある。……コンプラ云々に関しては、ぐうの音も出ないので見なかったことにしておく。
「はいはいはい。やっぱり命に関わるとなると、皆も熱くなるねぇ。でも敢えて言わせてもらうけど、色んな意味でダンジョンを舐めすぎだよ。ダンジョンが危険に溢れているのは当然だし、その上で命を懸ける価値があの場所には溢れている。──というわけで、はいコレ」
大胆不敵な宣告とともに、用意しておいた代物の一つを、ことりとカメラの前に置く。
映えるようにセットしていた、黒のテーブルクロスの上に置かれたソレ。
その正体は、大きめな卵サイズの宝石。……原石ではなく、カッティングされた宝石である。
「これ、ダンジョン産のアレキサンドライトね。品質は最高級。こっちが証明書。個人情報に引っかかりそうな部分は隠してるけど、ちゃんと国が発行してるガチのやつだよ」
:アレキサンドライト!?
:なんやそのサイズ!?
:アレキサンドライトって何?
:なんカラットやそれ……
:宝石の王様じゃないか
:調べてみたけど、ちょっとエグすぎません……?
:いくらになるんです……?
:何で皆宝石にそんな詳しいの……
:原石ですらそんなサイズそうそうないぞ!?
:ちょっ、素手で触るんじゃない!
:ちょっと色変えてみてほしいです!
ふっ。やはり人は物欲に抗えんのよ。批判的だった空気が、最高級クソデカアレキサンドライト一個で一変するんだから。
ちなみに、何で宝石かと言うと、ある意味で一番分かりやすいからである。ポーションにしろ、その他の不思議アイテムにしろ、凄さを実感するのはやはり使用した瞬間だしね。
言葉で効能を説明するより、なんだんかんだ身近で一目瞭然の宝石とかの方が、こういう時は効果を発揮するのである。……なお、ヤバすぎて表に出せない系のアイテムは除く。
「うん。結構な人が、アレキサンドライトがどんな代物かを理解しているようでなにより。……で、コレってどんな値段すると思う?」
一億? 十億? それとも百億? ──否である。
「正解はほぼ言い値。流石に兆とまではいかないけど、数千億台だったら多分妥当なレベル。この石ころにはそれだけの価値があるって言われた。……まあ、価値と売値が釣り合うかどうかは別だけども」
昔ならともかく、現代で宝石を数千億で買おうって人は、そこまで多くないだろう。だから価値はあるけど、実際に売りに出したら……どうなんのかねぇ。
最高品質ではあるけど、ダンジョン産を天然モノと呼んで良いのかも議論の余地があるし。
だがそれでも、十二桁の金額が交渉に上がるレベルの代物である。俺からすれば綺麗なだけの石ころではあるが、正真正銘のお宝なのは変わらない。
「分かるかな? 無数の死を乗り越えた先には、このレベルのお宝が待ち構えているんだよ。ダーティーな言い方をすれば、大勢の人間の人生すら買えるレベルの代物が、ゴロゴロ手に入るんだ。だから命を懸ける価値がある。リスク度外視で挑む選択肢が湧いて出る」
:数千億……
:大企業の年商レベルやんけ
:そりゃ確かに命を懸ける価値があるわ
:いや死んだらそこで終わりだろ
:人生は金じゃないのよ……? まあ金があれば人生は楽しいけど
:まあぶっちゃけ、外野がとやかく言うのは違うよね
:海外だったら余裕で人氏にが出る金額じゃん
:というか、マジで山主さん資産どうなってんの?
:あの世に金は持っていけないんやで
肯定派と否定派で微妙に割れてるなぁ。否定派の主な反論が、金よりも命ってあたりがなんとも牧歌的だが。
いや、別に悪いとは思ってないけど。命あっての物種なのは確かだし、それについては真理だとも思ってるし。
ただ世の中には、そうじゃない人間がいるというだけだ。あと『金』という分かりやすいものに目が眩んでいるなと。
「勘違いしないでほしいんだけど、金銭なんか結果の一つにすぎないんだよ。得られる物は他にも沢山ある。人より優れた力が手に入る。分かりやすい名声が手に入る。満足感が手に入る。重視するのは人それぞれだけど、艱難辛苦に見合った、いや凌駕するリターンを得られる可能性がある」
これがどれだけ凄いことか、分かる人には分かるだろう。ただの高校生だった俺が、言葉一つで世界を引っ掻き回せるようになったことが、どれだけ有り得ないか。
敢えて詩的に表現すれば『何者にもなれないはずの人間が、特別な一人になれる』のだ。
それには確かな価値がある。有象無象から人々に畏怖される唯一無二に至れるのならば、凡人が命を賭す理由としては十分すぎる。
「なにより重要なのが、これらのすべてが目的に対する副産物になるということ。財を求めるなら、力と名声、あと『ダンジョンとは何ぞや?』という世界の謎に対する解答。求めるものが力ならば、名声ならば、真理ならば。ダンジョンに潜る理由は様々であれど、得られるリターンは莫大」
さあ、ペラを回せ。高らかに謳え。大勢を死地へと誘う蛮行を、富と名声、力と浪漫で虚飾しろ!
「そんなわけでお立ち会い! この配信で示すのは、文字通りの『一攫千金』! 御伽噺に語られる、金銀財宝を御覧じろ!!」
ーーー
あとがき
最近、日曜更新が月曜更新となっておりますね。でも今後も日曜更新と言い張ります。言い張るだけならタダなので。
ちなみ宝石の値段に関しては、カリナンってダイヤを参考に雑に決めました。
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