第73話 ショート動画 その二
良さげな配信を探すために、まずはプライベート用の端末から、Tweeterを開く。そして検索欄に『VTuber 個人勢』と打ち込む。
すると、ズラッと個人勢のVTuberたちの呟きが表示されるので、調べやすくするためにタイムラインを『おすすめ』から『最新』へと切り替える。これで準備は完了。
基本的に、ライバーというのは配信の際に開始ツイートを投稿するものなので、そこから辿っていけば簡単に配信を観にいける。
「んー……」
とはいえ、それでも候補となるVTuberは多い。観る以上は当然面白い内容が望ましいのだが、初見の状態からそれを探し当てるには不可能な程度には、配信中のライバーが大量に見受けられる。
VTuberブーム、いや飽和時代と言っていい現在では、個人勢に限定してなおその数は膨大なのだ。ついでに言うなら、現在時刻が夜の九時、つまるところVTuberたちのゴールデンタイムであることも大きいだろう。
そのため、さらにひと手間。開始ツイートをしているアカウントを確認し、軽くその人のツイートを遡っていく。
これは持論ではあるのだが、配信が面白いライバーはツイートも面白い。いや面白いというか、一貫性があり目に留まるツイートをしていることが多いのだ。
別にネタツイでバズっているとか、そういうわけではない。いや、エンタメ的にはバズる実力があるに越したことはないのだが、それよりも重要なのは活動の芯があるか。そしてそれをちゃんと発信できているかという点である。
VTuber、特に個人勢は厳しい世界だ。黎明期と違い、現在のVTuber業界は大量の同業者が犇めく魔境。そんな中で人を惹きつけるには、導となる明確な芯が必要になる。
趣味でVTuberをやるのではなく、VTuberを通して趣味を、いや自分の好きを発信する。好きを配信活動より一段上に設定しているかどうかで、印象というものは結構違ってくるのである。
まあ、言ってしまえばキャラと強みの話だ。漠然と活動するよりも、何かしら分かりやすい基準があると、それ一つの強みとなり、ついでにキャラが立つというだけのことである。
系統が明確な方が、そのジャンルが好きな人が集まりやすい。それを理解しているかどうかが、普段のツイートに出てくるのだ。
「この人は駄目。……こっちの人は悪くないけど趣味じゃない。んー、難しいですなぁ」
思わず渋い表情になる。分かってはいたことだが、個人勢はかなり玉石混交である。
単純にツイートがつまらない、というか観られている意識がゼロなライバー。エンターテイナーとして最低限の意識はあれど、どうにもパッとしないツイートしかしていないライバー。そしてしっかり目を引くツイートこそしているものの、ジャンルが違いすぎて食指が動かないライバー。
一人のリスナーとして、中々どうしてピンとくるライバーが見当たらない。長々とそれっぽい理由を並べはしたものの、結局のところ好みの問題ではあるので、余計にハードルが高くなる。
「おっ、この人はわりと面白そうな……」
『──ちょっとぉぉぉ!? ここでヘッショとか酷くない!?』
:草
:草
:草
「あ、駄目だコイツ屑だ」
一瞬良さげなライバーを発見したかと思ったが、リンクから配信に飛んで即座に閉じる。
声を聞いた瞬間、直感で理解してしまった。あれは関わるべき人種ではないと。コメント欄を見た感じ、配信上では取り繕っているみたいだが、根っこの部分が許容できないレベルの下衆であると。
「コイツはそれとなくミュートしておくかぁ……」
ツイートの時点では面白そうなライバーだっただけに、なんとも残念である。
別に多少性格に難があっても、ビジネスライクに付き合うだけなら俺とて許容する。が、今の人物はそれに収まらないレベルの地雷であると、自慢の危機察知能力が警鐘を鳴らしているのだ。
ならば距離を取らない選択肢はない。同業者としてはもちろん、一人のリスナーとしても近寄るべきではない。遠巻きに眺めているだけでも、不快な思いをするという確信がある。
「こういうのがあるから、掘るのも地味に大変なんだよなぁ……」
自然と溜め息が漏れる。変に裏事情というか、普通なら見えない部分が見えるようになるせいか、純粋に物事が楽しめなくなるのがなんとも歯痒い。感覚が鋭くなった弊害というやつだ。
例えるならアレ。シリアスアニメの主人公の声優が、同時期に爆笑必至のギャグアニメのメインキャラを演じている時の感覚に近い。
すっごいシリアスなシーンなのに、声のせいでギャグアニメの方がフラッシュバックしてきて、絶妙にストーリーに入れきれない的な。
アニメだったら最終的には割り切れるが、VTuberとなるとそうはいかない。なにせ代わりのライバーは星の数ほどいるので、割り切るよりも足切りした方が圧倒的にコスパが良いのである。
代わりに探す手間が増えるとはいえ、不快な思いをするよりは圧倒的にマシなので、危機察知に引っかかった相手は即座に縁切りという形になるわけだ。
「──っと。そろそろか」
さて、そんな風に手こずっていたら、いつの間にか良い時間になっていた。やはり一朝一夕で新たな推し候補は見つからないか。
ということで、一旦掘り作業を止めて、オーブンの方に移動。じっくり火入れしたボーンマローのチェック。
オーブンから取り出して、アルミホイルを開く。するとそこには、良い感じの焼き目が付いた牛骨が。
「……ふむ」
とりあえず、焼き加減の方は問題なし。表面はしっかり火が入っているし、ところどころ見受けられる焦げ目がまたなんとも素敵である。
さらにカメラを近づければ、ジュージューパチパチと脂が焼け、弾ける音が聞こえてくる。これだけで食欲増進という面では言うことなし。
そして匂いもまた香ばしい、いやこれはジューシーという感想の方が妥当か。ガツンと鼻を殴りつけてくる牛の香り。そこに加わるニンニクとローズマリーのアクセントも最高だ。
「悪くない」
牛骨というのは、元々が出汁を取るために使われる食材。それはつまり、それだけ旨味が詰まっているということであり、それをダイレクトに味わうのがボーンマローという料理である。
物は試しと作ってみたが、中々どうして美味そうではないか。ステーキとかとは系統が違うが、これもまたひと目で美味いと分かるタイプの料理である。
ビジュアルのインパクトは満点。ある意味で映える料理でもあるため、盛り付け次第ではさらに食欲を刺激する一品になることは間違いなし。
ショート動画一発目の料理としては、かなりナイスなチョイスであったと自画自賛したくなるほどだ。
「んじゃ、盛り付けつつ〆の実食かなぁ」
はてさて、お味は一体どんなものやら。
ーーー
あとがき
またまた遅れました。ごめんなさいね。夜中に書いている途中、急激に眠くなって気付いたら日曜終わってたのですよ。
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