第71話 楽しいお出かけ その五
「次はこちらにしましょうか」
自販機オリパデスマッチを終え、やってきました次のお店。場所はエスカレーターを登って二階、その脇にあるカードショップ。
ちなみに選んだ理由はフィーリングが三割、人目を散らすためが七割とのこと。流石に同じフロアでオリパ漁りしてたら、変に注目されかねないので残当である。
「ここのは自販機オリパと、ショーケースオリパですね。……あー、良かった。今日はジャケカですね」
「どういうことです?」
「このお店、ショーケースオリパがちょくちょく変わるんですよ。なので日によっては、お目当てのトレカのオリパがなかったりするんです」
「なるほど」
ラインナップがちょくちょく変わる店なのか。つまりそれぐらい売れているということなので、これはまた期待が持てるというもの。
「じゃあ、今回はショーケースのやつにしますか」
「そうですね。値段は……一万ですか」
「ですねー」
一万円。くじ引き一回で一万円。カードの値段が一万円。かなりの確率でゴミを買うのに一万円。相変わらず馬鹿である。
「一応、当たり枠は販売価格で二〜三万ライン。それに加えて、大当たり枠に十万前後のお化けカードが三枚。さらにラストワン賞で最新弾のBOXですか」
「なお二百口」
分母二百に対して、当たりカードは大当たり含めて十枚ちょい。どう考えても分の悪い賭けである。
「い、いやほら、すでにいくつか買われてますし……」
「当たりカード抜かれてる可能性も大いにあるんですが」
「……」
ふいっと目を逸らす藤宮さん。さあヒリついてきたぞ……!
「ちなみに藤宮さんは買います?」
「……買いましょう。ここで挑戦しなければ男が廃ります」
「おいくら使うつもりですか?」
「……三口で勘弁してくれませんか?」
「いやそこはお好きにどうぞ」
流石に一万円レベルの買い物を強制なんかしないですって。嗾けるにしても額が額。常識的に考えてネタじゃ済まない。
いやマジで。即金で億単位をポンと出せる身の上ではあるが、これでも金銭感覚は一般的なものを持っている自負がある。
三万はちゃんと大金であることも理解しているし、オリパでこの額を使うとなれば身内からキレられてもおかしくないと思っている。
「夜桜さんは何口買う予定ですか?」
「んー、ここは十口ですかねぇ。全買いするのも風情がないですし」
残りが少なかったら、ラストワン賞狙いで全部掻っ攫っても良いのだが。パッと見で百口以上は残ってるしなぁ。
何度も言うが、オリパはギャンブルなのだ。そしてギャンブルとは勝ち負けが存在するから魅力的なのであって、人はそれを浪漫と言うのである。
資金力に物を言わせて、全口買うのはあまりに無粋。当たりカードが欲しいのならシングル買いをすればいいのであって、こういうのは損する可能性があるから楽しいのである。
全口買おうとすればもちろん買える。だがそれはしない。十口という天井を設定した上で、勝つか負けるかの勝負を挑むのである。
「どうしますか? 今回も交互に買っていく形にしますか?」
「そうですねぇ……」
──とはいえだ。いくら天井を設定したとしても、それだけだと面白みに欠けるのも事実である。
「……」
では何故、ただ買うだけだと面白みに欠けるのか。それはひとえに、俺の中で一万円の価値が著しく低いからだ。
一万円が一般的に結構な金額であることは、もちろん承知している。だが同時に、消費に対する個々人の感覚は資産に比例するものだ。
簡単に言ってしまえば、幼児の百円と大人の百円は、同じ金額であっても価値が違う。支払い能力のある大人からすれば端金でも、支払い能力が皆無な子供からすれば大金なのである。
なので俺にとっては、十万のギャンブルもヒリつくようなものではない。さっきの自販機オリパデスマッチのように、もう一捻りほど加えたいというのが正直なところ。
「……よろしければ、なんですけど」
「なんでしょう?」
「互いのオリパを選び合うってのはどうですか?」
「また凄いこと考えますね!?」
パッと思いついた一捻りを提案したら、藤宮さんに滅茶苦茶驚かれた。それはそう。
一口が一万円のくじを他人に引かせる。なんという暴挙。なんという挑戦。……だがそれが良い。
「あ、もちろん無理強いはしませんよ? なんだったら、藤宮さんの分はご自身で選んでいただいても良いんで。ただ俺の分だけは選んでくれたらなぁというか」
「いやあの、一万円ですよ!? 流石に責任重大すぎやしませんか!?」
「他人にソシャゲのガチャ引かせるのと大して変わんないですよ。外れても絶対に文句は言いませんし」
「確かにそういう人いますけどね!?」
なお個人的な印象であるが、そういうことする人は当たるまで引くのがデフォの廃課金ユーザーか、ガチャにそこまで興味を持ってないタイプか、自分の運勢を信用していない悲しい人類の三パターンである。
ちなみに俺はこの分類には当てはまらない。今回の場合、たんにお祭り要素をプラスしたかっただけだからね。あえて分類するなら一と二のハイブリッド系亜種。
「まあ、そこまで重大に考えなくて結構ですよ。所詮は十万です」
「大金ですよ?」
「一日でその数百倍は軽く稼げるんで……」
大金は大金なんですけどね。それと同時に端金でもあるのが現実である。国家予算を専用口座扱いしてるのは伊達じゃないのだ。
「他人のお金を部分的に好きにする背徳感、体験したくないですか?」
「それ体験したら駄目なやつですよね?」
「それはそう」
確かによろしくない誘惑だった。これは反省。背徳感が癖になったら犯罪者一直線である。
「……まあ、企画として美味しいのは否定しません」
「あ、意外と乗り気ですね」
「……ぶっちゃけた話、配信界隈の黎明期だと、この手の地獄企画もありふれてましたから。いまも似たようなことやっている人たちもいますし」
「似たようなこと?」
「んー、一例を挙げますと、とあるコラボ動画とかですね。片割れが泣きそうになりながら掘ってた自販機オリパをハイエナしてたり」
「なんかその人ら知ってる気がしますわ」
多分あの辺の人たちだな。チャンネル登録してる。確かカードゲーム系配信者だと、わりと有名な部類の古参だったような。
「ですので、選び合うこと自体は構いません。なんなら、私もそういうノリは大好きです」
「マジすか」
「ただ条件があります」
む。条件か。まあ駄目元だったし、条件付きでオーケーなら破格みたいなもんか。
「その条件とは?」
「やはり金額が金額ですからね。最低限のリスクヘッジと言いますか、ある程度責任を取れる形にしましょう」
「と、言いますと?」
「買うだけ買って、開封はオフコラボの時にというのはどうでしょう? そうすれば経費にできるでしょうし、活動の一環ということにすれば、多少のトラブル対策になります」
「あー……」
そう来たか。いやまあ、確かにそうすればいろいろと安心できるのは間違いない。あとやっぱり、経費計上ができるかもってのはデカイ。俺はともかく、藤宮さんの負担が軽くなるのは望むところである。
「もちろん、他にも理由はあります。単純に企画として美味しいのと、開封の際に大手を振って騒げますからね。……やっぱり外だと、多少の遠慮は必要ですし」
「それは確かに」
そっちのほうがはしゃげると言われたら、エンジョイ勢としてはぐうの音も出ない。オーバーリアクションというのは、観客も当事者も楽しいのである。
「分かりました。ではそういう方向でいきましょうか。ただそれだと多少の懸念点があるので──」
「なるほど。でしたら──」
そんなこんなで、二人で大まかに企画を固めながら、買い物を再開。
結果として、当初の趣旨とは多少変わる形になったが、それはそれでというやつだ。楽しかったらそれが正義なのである。
ーーー
あとがき
盛大に更新遅れました。ごめんなさい。ちょっと私用が立て込んでまして……。
それはそれとして、買い物パートはコレでお終いになります。これ以上となるとちょっと長くなりすぎる気がしたので、サクサクッと切り上げました。
次回からまたVTuber要素を出していけたらなと思ってます。
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