第37話 裏作業と外部コラボのお知らせ

 VTuberというものは、意外なほどに裏方の作業が多い。企画立案はもちろんのこと、サムネイルを作ったり、スケジュールを作ったり、配信によっては運営さんに利権関係を確認したり。

 さらに人によっては動画編集、歌、ダンス、ボイスのトレーニングなどが挟まったり、公式企画の収録があったりもする。

 白鳥が水面下で必死にバタ足云々とよく喩えられるが、実際に配信画面に映る姿というものは、VTuber活動の中のほんの一コマなのだ。


「んー……」


──まあ、長々と前置きしたけれど。つまるところ、現在進行形で裏方作業に奔走中です、はい。


「えーと、配信スケジュールはコレ。一週間分のサムネも作った。あとは……」


 いやー、一般的な仕事とはまた毛色は違うけど、VTuberはVTuberで面倒ね。やっぱり仕事となると、こういう雑務から逃れることはできないのねー。

 配信内容の特殊性から、わりと適当にやっている俺でさえこれなのだから、マトモなVTuberの方々は本当に大変だと思うよ。いやマジで。


「──ふぅ。やっと終わった。いっそのこと人でも雇うかな?」


 スケジュールとかはマネさんの領分だし、ものによっては部外秘の情報もあるのでアレだけど。サムネとかは一枚いくらで任せてもいい気がする。

 いやね、こういう細かい雑務、本当に好きじゃないんだよ。高校卒業と同時に専業化したから、そういうデスクワーク的な作業とはまったく縁がなくてさ。

 専業に伴うアレコレは、昔に玉木さん経由で信頼できる弁護士やら税理士やらを紹介してもらって以来、ずっとその人たちにぶん投げてるし。

 VTuberでも似た感じでいきたいなぁ。幸いにしてお金には困ってないし、投げられるところはどんどん投げた方がストレスもない。

 チャンネル登録者が爆増したこともあって、今後も忙しくなりそうだし。


「んー、でもアレだな。ただ外注するのもつまらないし、ちょっと捻った感じがいいなぁ」


 切り抜きしてくれてるリスナー……いや、いっそのこと個人勢のライバーさんに頼むか? いわゆるエンジェル的な感じにして。

 人柄もよくて、伸びしろはありそうでもまだ伸びてなくて、バイトとかしながら活動してる個人勢のライバーさんとか普通にいるし。専任契約結ぶ代わりに単価高めに設定するとかして、雇ってみたりとか普通にあり?


「……いや待て。まだ甘い気がする。サムネとかじゃなくて、もっと環境そのものを整える方向にした方が面白いのでは? 中途半端に済ませるより、話のタネになるぐらい突き抜けた方が良いような……」


 どうせお金なんか有り余ってんだし、この際いろいろとはっちゃけて、雑談枠のネタにしてしまえば一石二鳥だろう。ワンチャン無駄に終わったとしても、それはそれで笑い話というやつだ。


「この辺はまたちょっと詰めていくとして。うし、あとは……ん?」


 作業の仕上げに取り掛かったところで、スマホから着信音が。確認してみたらマネさんだった。


「はい、山主です」

『あ、葛西です。ボタンさん、今ってお時間よろしいでしょうか?』

「大丈夫です。なにかありましたか?」

『はい。外部コラボの件で進展がございましたので、その辺りのご連絡を』

「あー、決まりましたか。それは良かったです」


 てことは、ついに外部のライバーさんとコラボできるのか。いやー、デビューしてから長かったような、短かったような。


『本当にお待たせしました。ただでさえボタンさんにはご迷惑を掛けているのに、ライバー活動を制限するような形になってしまい、誠に申し訳ございません』

「いえいえ。会社の名前を背負っている以上、利益を考えるのは当然ですから。全然大丈夫ですので、そんな謝らないでください」


 活動を制限と言っても、別に大したことでもないしね。ただ運営さんにコラボ依頼の選定を手伝ってもらったら、ちょっと時間が掛かっちゃっただけだし。

 自分で言うのもアレだけど、山主ボタンはデンジラスの期待の新人。そんな人物の初の外部コラボなのだから、できれば大成功で収めたいと考えるのが企業というもの。

 数字を意識してコラボ相手、企画内容を選定するのは当たり前。エスカレートして運営側がコラボ相手の勝手に選り好みしはじめたら話は別だけど、そうじゃなければ従うのが普通だろう。

 特に今回の場合、単に最初の一発目を選ばせてくれって話であって、毎度毎度コラボ相手の選定が入るわけではないし。以降はこっちの意志をできる限り尊重してくれるとのこと。……まあ、単にデンジラスのコラボに対する方針がそうってだけだけど。


『それでもやはり、私としては心苦しいものがあります。ボタンさんの目標を考えると、積極的に外部とのコラボはこなしていきたいでしょうし』

「あー。それはそうですね」


 俺の目標。最推しVTuberであるリーマンとコラボし、ダンジョン食材での料理を振る舞うこと。

 当然、この目標はマネさん含めたデンジラス運営も承知している。だってオーディションの時に語ったから。

 あの当時は、『いい目標ですね』と運営の人たちは笑ってくれたんだよね。だってリーマンとコラボできるぐらい伸びるよう努力するという意味になるし、当時はそれを最終目標に設定されるぐらい厳しい状況だった。

 ……それが今や、コラボできるぐらいに伸びるどころか、リーマンの数字を軽く追い越してるんだから、人生とはなんとも数奇なもの。世の中って分からんものよね。


「でもま、前にもちょろっと話しましたが、今はそこまで急いでないので。沙界さんとのコラボは、腰を据えてじっくり進めていくつもりですし」

『コラボしてもらえるだけの信用を稼ぐため、とは言ってましたね。正直な話、ボタンさんらしくないなと思いました。私個人の印象ですが』

「あはは。実際、猪突猛進とはよく言われますよ」


 俺が勢いで生きているのは間違いない。ただ勢いで生きるというのは最短ルートを突き進むという意味で、今回の場合は着実に進むことが最短だと判断したまでのこと。

 もちろん、後先考えなければもっと早く突き進むことも可能だけど、それはビジネスにおける人付き合いという意味ではアウトもアウト。俺は別に自爆特攻をしたいわけじゃない。


「普通のコラボならともかく、俺の目標はですからね。流石に数字だけじゃ足りないですよ。だからコツコツ人脈広げて、信用を稼ぐってだけです」


 特に今の俺は、数字だけ妙に膨れている状態だからね。成績はよくても、ライバーとしての信用は他社の新人の域をでない。……本当だったら、数字と一緒に信用も稼ぐつもりだったんだけど、諸々のアクシデントで数字だけ爆上がりしちゃったからなぁ。頭でっかちみたいなバランスの悪さがある。


『色羽仁さんの一件で、その辺りの信用は十分稼げたと思いますが……』

「いやー、人間的な信用と、コンプラ的な信用はまた別でしょう。現状、身内コラボしかしてない人間ですよ俺は」


 それもライバーとしてはキワモノ中のキワモノだし。なら変に突撃してジリジリ距離を置かれるより、最低限の信用を稼いだ方が最終目標には近い。急がば回れってやつだ。

 あとは普通に企業勢としての義務よね。ライバーなんて横の繋がりを広げてなんぼだし、名を背負わせてもらっている以上は利益を還元しないと。……それにリーマン以外にも推しはいるし、推しじゃなくても知ってるライバーさんとは絡んでみたくもあるし?


「ま、趣味と実益を兼ねて、楽しんでライバー活動に邁進していくだけですよ。なので本当にお気になさらず」

『……分かりました。では、コラボの資料を今お送りしますので、確認の方をよろしくお願いいたします』

「了解です」


 あ、メールきた。えーと、なになに……【ソナタの宮殿〜クセツヨ男子の座談会】とな? あ、此方ソナタが定期的にやってる合同企画かこれ。

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