第25話 春川日向は誘いたい。
(急に日向に呼び出されたけど……なんだ、話って。まだ何かあるのか?)
海に行ってから2週間後のある日の朝、俺は日向に呼び出されていつものショッピングモール前へと向かっていた。この場所で待ち合わせしていると、毎回
「────なあ、ちょっとだけで良いからさ!」
「君、本当にしつこいね……」
「どっかであったことあったっけ? 運命じゃん!」
知ってた。ゲーセンの前じゃないのにいるとかあのナンパ男は俺に何か恨みでもあるのか……と思ったが、どうやら今日ナンパされているのは見た限り知り合いじゃなさそうだ。
(はあ、仕方ないか)
正直アイツと関わると100%の確率で面倒なことが起こるから話したくもないんだけど……
「はぁ……お前、やっぱり暇人なの?」
「げっ、なんでお前がここにいるんだよ」
かといって放っておくのも少し良心が痛むし、日向が来るまでにさっさと終わらせてしまおう。
「それはこっちのセリフだ。俺がここに来る度にナンパしてるだろ、お前」
「舐めんな! 俺はお前がいる時だけじゃねえ、毎日ナンパするために朝10時から昼3時まで……」
「思いっきり暇人じゃねえか」
1日5時間ナンパに費やすとかあまりに時間の無駄遣いすぎる。多分見た目も同い年くらいだし貴重な青春が泣き叫んでるぞ。
「別にいいだろうが! 俺は愛に生きる男なんだよ!」
「成功したの見たことないから実質死んでるな」
とりあえずこの世の全ての愛に生きている人に謝ってほしい。見ている限りすごく悪い奴ってわけじゃなさそうなんだけど、なんというか……うん、あれだ。女好きってやつだ。
「そもそも知らない奴に誰彼構わず話しかけるとかどうかと思うぞ? この人だって困ってるし────」
「────あの、爽馬? ボクだよ?」
あまり長話もしたくないし、さっさと話を断ち切ってしまおう。そう思った瞬間、俺が来た後にずっと黙っていた後ろの女の人がどこか聞き覚えのある声で話しかけてきた。
「ボク、って……日向!?」
「もう、気づかないなんてひどくない? 親友が困ってるっていうのにさ」
「お前、2週間で変わりすぎじゃない!?」
「えっ? 日向……って、あの男子って言われてた?」
そう、その声の主は他でもない日向だった。前よりもさらに肌が綺麗になった気がするし、少し伸びた綺麗な茶色の髪をハーフアップでまとめているその姿は何も知らない人から見たら完全に中性的な美少女だ。
「髪も下ろしたし、スキンケアとかも遠慮なく出来るようになったからね! どう、可愛い?」
「ごめん、ちょっと違和感が凄くて……」
「女子にその言い草はどうかと思うよ!?」
「おい待て、ちょっと俺にも説明を……」
男子を装っている時も可愛いなんて言われるほどだったのだから、女子要素に全振りしたらさらに可愛くなるに決まっているんだけど……その、俺の脳が目の前のこの存在を日向として認識していない。
「はぁ、本当に爽馬は……もういい! 行くよ!」
「なんかごめん……じゃ、俺たちは行くから。お前も程々にしとけよ」
「あ……なんだったんだ、こいつら……」
そうして機嫌を悪くしてしまった日向と共に、何も事情が分からないまま呆然としているナンパ男をその場に置いて俺たちはモールの中へと入って行ったのだった。
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「……もう、本当にデリカシーとか学んだほうがいいよ! ボクだってれっきとした女の子なんだから!」
「扱いを変えるなって言ったのはお前だろ」
モールの中を歩くこと数分、俺は日向にこんこんと説教を受け続けていた。海にいた時は死ぬほど弱気だったのに……あの時のしおらしい日向を返してくれ。
「それはそれ、これはこれ! 女子が褒めて欲しがってたら褒める、これ男子のマナーね!」
「お前、結局何が言いたいんだよ……」
「あそこに見えるでしょ、アイスクリーム屋!」
「……ダブルまでな」
なるほど、それが目的か。これ以上駄々をこねられても鬱陶しいので少し出費にはなるがアイスの1つや2つくらい奢ろう。
「ん〜、やっぱり美味しい! 爽馬も食べる? チョコとビターチョコとマシュマロチョコレートだよ!」
「なあ、俺ダブルまでって言ったよな? あとチョコレート多すぎだろ……ほら、790円」
もうどこから突っ込めばいいんだよ。わざわざトリプルにするならもう少しバリエーションを増やしてほしいところだったんだけど……だか買ってしまったものは仕方ないので、俺はトリプルの分の値段を日向に渡す。
「一口食べたい? ねえ、食べたい?」
「じゃあ貰うわ」
「……えっ!?」
美味しそうにアイスを頬張る日向が、手に持っていたそれを意味ありげな笑みを浮かべて差し出してきた。俺も少し食べたかったところだし、くれるというなら貰うことにしよう。
「……うん、普通に美味いな」
「ちょっ……本当に食べちゃった……」
「別にいいだろ、一口くらい」
外は暑かったから、アイスの冷たさが妙に体に染みる。日向はなぜかまだ暑そうにしているけど……その理由を考える前に、俺には聞かなければならないことがあった。
「それで、話って何だ? もしかして何かまたトラブルでも……」
「えっ? ……ああ、それはね。ただ爽馬をビックリさせたかっただけだよ。女の子っぽくなったボクを見せてさ」
「よし帰る、今すぐ帰る」
心配した俺がバカだった。何もないなら、そろそろ夏休み終わりだし耐久配信の準備でも……
「待って、冗談だから! 話すって!」
「で、結局何の話なんだ?」
「……成功したよ、お母さんの説得。ううん、説得でもないか。ごめんねって……自分のままでいいよ、って言ってくれた」
「そっか、それは良かった」
……だからこんなにイメチェンしたのか。それに、やけに今日はハイテンションで上機嫌なのもそれが原因なのかもしれない。
「その後に新しい私物買ったりとか、色んなところ行ったりで2週間くらい取られちゃったんだけど……今日からボクはニュー日向なんだ!」
「一人称はそのまま?」
「これはもう癖だよ。私とか、ウチとかしっくり来ないし」
たしかに日向が私とかウチとか言ってるのを見たら、それこそ話す度に違和感を覚えてしまうかもしれない。むしろこちらとしてはありがたいくらいだ。
「それでさ……まあ、要するに
「何だよ、かしこまって」
すると日向の態度が先ほどとは一変し、急に下を向いてもじもじとしながら小さく何かを呟き始めた。一体、何を……
「だから……その、今日1日遊んでくれない? 初めてのお出かけは……1番お世話になった、爽馬と一緒に行きたかったから」
少しこちらの機嫌を伺うような目つきで、アイスを握っていない方の手で服の裾を掴みながら日向は不安げにそう聞いてくる。
(その程度……いや、そっか。頑張ったんだな)
俺からしたらNOという理由なんてないが、でも、日向からしたら重要なことなのだろう。1番自分の変化を自覚しているのはきっと日向自身だろうし。
「夜9時までには帰るぞ? 家事とかあるし」
「……うん、行こっ!」
だから俺は、
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