第3話
――私は幸せだ。
いまの、パパとママの子になれてよかった。
手を伸ばせば無条件に抱きしめてくれる。
優しい言葉がもらえて、笑顔がみえる……大人だった頃を忘れてしまうよ。
私はやさしい両親のもとで元気に育ち、五歳になった。
すこし前にベビーベッドは卒業して、ママとパパが作った、ルールも守れるようになったけど。あいかわらず書庫には鍵がかかっていて中に入れないので。もっぱらお昼寝の時間に、光の球で魔力の練習しているくらい。
「天井まで飛ばして、次に壁に…………ふうっ」
たのしいけど少し飽きたかも……いまの時間パパは仕事で、ママはリビングで編み物かな。
――よし、ママのところにいってみよう。
毎日欠かさず光の球をだして、魔力に触れていたからか。
リビングのソファーで編み物をするママの魔力がみえた。
ママは繊細に魔力を調整しなから、編み物してる。
両手を使って、魔力をこうして……あーして……こう、あや……
「……エルバ、そこで何をしているの?」
「!」
――あちゃ、ママにバレた。
少しでも、ママのまねをしょうとすれば、すぐに見つかる。
「……ママ」
「こんな壁ぎわに隠れて、なにをしていたのかしら?」
「あ、あのね、ママに絵本を読んでもらいたくて……きたの」
「絵本? あーあ、お気に入りのクマさんとウサギさんの絵本ね。いらっしゃい、エルバ」
「お、おおっ!」
ママがひょいと人差し指先を動かすと私の体はフワリと浮き、ソファーに座るママの膝の上に乗り。ちかくの本棚からは絵本が飛びだして膝の上にのった。
「これだ、クマさんとウサギさんの絵本。ママ、ママ、はやく読んで、読んで!」
「はい、はい、読むわね。昔々。ススの森には仲良しの、クマさんとウサギさんが住んでいました……」
その、クマさんとウサギさんは些細な事でケンカをするけど、いつの間にか仲良しに戻っている……そんな話だった。
ーー前世の妹はいつも私を見下していた。
仲のよい姉妹なんて夢のまた夢で、ケンカ、言い合い、テレビのリモコンの奪い合い……ひとつもなかった。
『お姉ちゃんは近寄らないで』
『…………』
私は家族の輪にも入れず、部屋でひとり、勉強机に座り勉強していた。
――なぜかわからないけど、妹に嫌われていたなぁ。
ほんとうは――妹と仲良くしたかった。
もう、叶わないけど。
「ママ、ママ。クマさん、ウサギさん、なかよしになった~!」
「そうね、なかよしになったわね」
❀
私が生まれ変わった異世界の時間はゆっくり進む。
特に魔法使いは自由に寝て起き、気が向いたら薬を作り、実験、研究して魔法を使用する。
――ほら、今日もお隣から聞こえてきた。
「ららら~らぁ~」
「あ、きれいな歌声?」
「おとなりのカリーナの歌声ね。彼女の歌声はいつ聞いてもキレイね」
「うん、キレイ、キレイ!」
おとなりに住む魔女のお姉さんは。魔力をふくんだ歌と水魔法を使い、庭に咲いた花と木々に水を撒く。その水と歌声を浴び、花と木々は生き生きと育っている。
「ママ、窓からみてもいい」
「いいわよ。いま、エルバ専用のお立ち台を用意するわね」
お立ち台をママに置いてもらって、窓枠からながめる。歌いながら花に水をまくお姉さんの周りには、魔力の光がキラキラしていた。
「わぁ、キラキラだ!」
(カリーナお姉さんもママと同じで、繊細な魔力をあやつってる)
その反対側の家から薬を作っているのだろうか。
ナナさんの楽しげで、パワフルな魔法詠唱が聞こえてきた。
「ほれっ、そりゃ、とう! 良い腹痛の薬になるのじゃーぞぉ!」
「あらあら、ナナも張り切り出したわね」
この詠唱と歌を聞き、ママはエプロンを付けて袖をまくった。
「エルバ、私達もカリーナと、ナナには負けられないわよ」
「あい!」
ママは指揮者のように、人差し指を振りながら魔法を操り、家の掃除を始める。私もそれをまねて子供用のはたきを握り、お手伝いをする楽しい時間のはじまった。
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