第179話 異界人・2
この世界の人と異界人との区別がつくのかどうかの疑問は直ぐに解決した。アダラさんによればこの世界での異界人とは黒髪黒目が基準になっていて、どうやら私のような転生ではなく転移して来た人の事を言うそうだ。その点で言えばシャーロットさんも転移してきた異界人なのだが見た目が金髪に青い目だったので最初は異界人だとはわからなかったらしい。
けれど彼女の言動からこの世界の事を知らなさすぎだと判断してエルフの王様に相談が行き、最終的にフラムスティード家での保護が初代当主に伝えられたのだとか。後は日記にある通り、何の気兼ねもなく普通の生活をしていたようだ。
だから私の場合はそれこそ見た目はこの世界の基準に合わせて作られ、しかも転生と言う形だから余計に異界人だとはわからないようになってるって事。
.....自分から前世は異界人でその時の記憶もバッチリ覚えてます!何て申告しない限りバレる事はないって事だよね....ありがたいし告げる予定なんて誰にもないけど.....
「でも、そんなに頻繁に異界人ってこの世界に来るものなんですか?」
「いや?そんな事はない筈だ。少なくともエルフの国にはシャーロット亡くなるまでには現れなかったし、その後も確か2人程だよ。けど人の国は現れたとしても王公貴族達が隠すからね。実際の数はわからないんだよ」
「.....あ~………やりそうですね」
やっぱりほとぼりが覚めるまでは人の国には近付かない方が無難かなぁ.....
「異界人についての書物なんかも書庫にはまだまだあるから興味があるなら読んでみると良いよ」
「はい。ありがとうございます」
ニコニコと笑みを浮かべながらアダラさんがそう言ってくれる。
.....うん、これはかなり小さい子供に向ける笑みだなぁ……小さい子供が一生懸命本を読んでるのが微笑ましいんだろうなぁ.....
その日の夜、晩餐が終わってから再び書庫に向かい、部屋で読む用の何冊かの本を借りた。流石に夜遅くまで書庫に籠るのは体に良くないとアンナさんに言われたからだ。
自分に宛がわれた部屋へと戻るとお風呂の準備をしてくれたアンナさんを躱しながら一人で入ると、すかさず髪を乾かしてくれる至れり尽くせりなアンナさんを鏡越しに見上げながら小さく息を吐く。
「.....慣れませんか?」
そんな私にアンナさんは咎めるでもなく変わらない笑みを浮かべている。
「.....その、全部一人で出来る事だから.....こんな風に誰かに身の回りの世話をして貰う事に慣れてなくて」
昔も今も極々平々凡々な平民ですから!
「.....それはもう慣れて頂くしかありませんからねぇ......」
私の返答に苦笑するしかないアンナさん。そうだよね、うん、ごめんね本当に。
「大丈夫ですよ。お嬢様ぐらいの歳からならすぐに慣れますから」
「....えっと、慣れるような生活はしたくないかなぁ。怠け者になりそうだし、自分の事は自分でしないと」
いずれ自分はこのお屋敷を出る事になるんだし、こんな優雅かお貴族様の生活になれちゃ駄目でしょ。......ってあれ?師匠もこんな生活してたんだろうけど普通に平民の生活に慣れしたしんでたよねぇ.....?
「シリウス様も冒険者になられるまでは王族として生活してましたし、場所が変わればその場にあった生活が出来るようになるものですわ」
私が何を考えていたかわかったのかアンナさんがそう話す。
「.....そうですよね。師匠を思い出したらそうなんじゃないかと思えて来ました」
「ではこの屋敷にいる間はお嬢様も慣れて下さいませね」
満面の笑みで私の髪を乾かしながらきっぱりと告げるアンナさんに私は苦笑するしかなかった。
「....善処しますね」
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