第43話 逃げた先
一方、消防小屋の近くまでたどり着いた兵士達も拓也達を探すので必死だった。
「くっそあいつらどこに行きやがった」
「郵便局にはいませんでしたよ」
「馬鹿野郎!郵便局は波上祭で閉まっているんだぞ!」
「じゃあどこに・・・」
「あの消防小屋と市場が怪しいな・・・」
兵士達は消防小屋に向かい、中へ入ったが、中は消防道具だらけで彼らを見つける事ができなかった。
「くそ、さきに逃げやがったな・・・」
兵士の1人が悔しそうにしていた。
「じゃあ・・・あの市場しかないですね」
兵士の1人が傘をたてて女性達が商売をする市場に指を指した。
「ああ、近代国家には相応しくない市場だがな・・・」
兵士達は傍若無人の態度で市場に足を踏み入れると、大きな声で歩き回ったり、走り回ったりしていた。
「伊舎堂盛一と石垣永一、宮平銭はどこだー!」
「琉球独立派は美しき我が国を汚す反日だー!我らが許さんぞー!」
「出てこい!さもなくばたた斬るぞ!」
兵士の1人がサーベルを出した途端、勢い余って市場に売られているカーミを蹴ってしまった。それを見かけた市場の女性の1人がこう言った。
「ぃえーいったーぬーそーが!」
女性は低い声で芭蕉布の裾を捲し上げ、兵士の1人を睨んでこちらの方へやって来た。
「すっすまない」
兵士は慌ててカーミを直すと、この辺りにあの3人がいると説明したが、市場の女性達は彼らが言っているのがあまり通じなかったのか「?」というような表情をしていた。
「くっそこいつら言葉が通じないみたいだな・・・」
「他、探すぞ!」
沖縄警備隊区の兵士達は他の場所を探した。その様子を消防小屋から覗いていた永一は「よし、安全だな。逃げるぞ」と声を掛けて消防小屋から市場に足を踏み入れ、市場にいる人だかりに紛れ込みながら逃げて行った。
松尾山にある県立病院では田仲縁が医者とは名ばかりの事務の仕事をさせられていた。
と言うのも波上祭で何かあったら困るというので、病院だけはいつも通りの業務だった。
「はぁーまた手書きの仕事?医者の業務は無いの?」
慣れない仕事に退屈していた縁は気分転換という事で外に出た。
外に出ると、芭蕉布を来た親子が数人いた。
「あっあの…どうされたんですか?」
縁が驚いた表情で彼らを見ると、目の前にいた夫婦はどうやら日本語が通じないので、隣にいた上の子に何かを話した後、上の子が縁の目の前で話した。
「実は末っ子のこいつが電車を降りるとき、転んだからこっちに来た」
上の子は日本語が話せるのか末っ子の少年を連れていた。少年は「へへ」と照れながら「うりっ」と言って転んだ膝小僧を見せた。縁は少年の傷を見ると、確かに膝小僧は出血していたが、塗り薬を塗れば大丈夫だった。
「あーこれは塗り薬を塗れば大丈夫ですね。あーそれと君の名前は?」
縁が少年の名前を聞くと、少年が「平良・・大和名や良松・・」
少年はなんと「平良良松」だと名乗った。そうこの9歳の少年こそ、後に瀬長亀次郎と並ぶ未来の那覇市長であり、帝国機関が消そうとしている子供である。
縁は少年が良松だと知ると、はっとした。
「りょ・・良松君なの?じゃあ、院内の中へ案内するわね」
縁が慌てて良松一家を病院の中へ案内した。良松一家を病院の中へ案内させた縁はすぐに拓也や沙夜らに連絡をした。
「拓也さん、平良良松さんが県立病院に来ました」
「そうか。今、沖縄警備隊の人間は松尾山ではなく、波上宮周辺にいる!良松一家をそのままここに留まらせてくれ!むやみやたら動くと狙われるぞ」
拓也は走りながら縁にアドバイスをした。
「わかった。なるべくここに留まらせておく」
拓也からの連絡が途絶えると、縁は良松一家に「外は暑いので、しばらくこちらにいた方がいいですよ」と声を掛けた。
「おぃ盛一さんさっき何話してたんだ?」
永一が拓也に声を掛けると、拓也が「いや、何でもない」と話した。
「そっか。面白い人だな」
永一がニコニコ笑うと、ジニーが西本町では数少ない石垣囲いの家を見つけた。
「あぃこんな所に家があるよ。ここに匿ってもらおうかね?」
ジニーはその家に指を指した。
「えーここでも見つかりそうだよ」
「大丈夫やさ」
ジニーは家の門の前で「ごめんください!」と言って門を叩いた。すると、門の中から琉装をした白髪交じりの女性が出て来た。女性は目鼻立ちのはっきりとした綺麗な女性であり、とてもだが、そこまで年寄りに見えなかった。拓也は女性をどこかで見かけたような気がした。
「あの・・・マジルーさんですか?」
拓也は女性に指を指した。そう拓也は10年前の潜入捜査でこの女性に会った事があるのだ。
「ぃぃー我んねーマジルーよーだぁーぃやーや首里ぬ伊舎堂やる?」
マジル―は琉球諸語で話してきたので、拓也はイヤホンで翻訳したのを聞いて答えた。
「ぃぃー我んねー伊舎堂盛一どぉーやしが
拓也が答えると、マジルーは「ああ、そう」という表情をした。
すると、向こうからはっきりとした顔立ちの女性がやって来た。マジル―より若い女性だ。
「あぃあんた達、何ねー?どうしたの?」
女性はマジル―よりも日本語が喋れるようだが、那覇の訛りが強かった。
「あっ、あなたはウミカナーさん?」
拓也はマジル―同様、その女性の顔に見覚えがあった。
「伊舎堂さんねー!久しぶりだねー!覚えてる?」
「ええ、月城さんの奥さんですよね?」
「そうよーあれ、また変な名前付けるからねーんじ?何でここにいる?」
「実は沖縄警備隊から『社会主義的な琉球独立派だ』という疑いをかけられたので、そこから逃げてここに来ましたどうかここで匿ってください。こちらは師範学校2年の石垣永一と女子師範学校2年の宮平ジニー、渡慶次ハマーです」
拓也は3人を紹介した。
「我んねー八重山ぬ石垣永一やいびーん。みーしっちょてぃくみしぇーびり」
「我んねー北谷屋良ぬ宮平ジニー」
「我んねー北谷嘉手納ぬ渡慶次ハマー」
3人はマジル―やウミカナーに挨拶をした。
「あーじゃあ入って!入って」
ウミカナーに促されれると、拓也達は家の中へ入って行った。
家の中に入ると、2階建ての広い家であり、永一とジニー、ハマーは空き部屋に隠れた。拓也はウミカナーに「あの・・・・2階の方へ案内させてもらえませんか?」
と尋ねると、ウミカナーは「いいけど、2階は
拓也はウミカナーと共に急な階段を上って2階の部屋に行くと、2つの部屋が存在していた。
「こっちがやっちーの部屋よー」
ウミカナーに案内されると、拓也は伊波普猷の書斎とされる部屋に入った。そこは窓があり、机と本棚がある部屋だった。特に本棚には無数の本があり、拓也はまるで未来の部屋みたいだなと思った。
(なんとなく・・未来と性格が似ているなと思っていたが、趣味まで似ているとはな・・)
拓也は本棚を見た後、2階から外の様子を見た。沖縄警備隊の恰好をした帝国機関の人間が来ないかどうか確かめた。
すると、こちらの方から兵士が西本町周辺を歩いていた。拓也はそれを見てすぐ、隠れた。と、そんな時、イヤホンから連絡が来た。
「おーい拓也!元気か?康徳だ。今さっき、海音と合流した。明治橋にいる沙夜と古奈美によると、神輿が通ったみたいだ」
なんと康徳から連絡が来ていた。
「康徳かーこんな時に連絡してくるなよ」
「連絡してくるなよってどうしたんだよ?」
「今、沖縄警備隊の人間に追っかけられて隠れているんだ。見つかったらまずいぞ」
「えっ・・そうなのか・・実は拓也に言いたい事があるんだけどよ・・」
「何だ?」
「お前も薄々気付いているかもしれないが、誰かに盗聴されているような気がしないか?」
康徳は急に不穏な事を言い始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます