第31話 2016年に起こった事件

 一方、帝国機関の拠点の1つ松尾山にある沖縄警備隊区司令部の官舎に子安夫婦が来ていた。


「井上副本部長、赤嶺祐樹君の行方は?」


 夫妻は祐樹の行方がどうなっているのか肇に聞くと、「こちらの方で探しているが、なかなか見つからなくてな。悪かったな」


「まぁ僕達の本当の子供ではありませんが、心配です」


「そうだな。この時代の沖縄は今と違って田舎だしな。便利なものがあまり無いぞ」


「そうですよね」


「まぁ武彦、とにかくあの子が見つかるまでの辛抱だな」


 肇は武彦の肩を置くと「はい」と答えた。


「しかし井上副本部長、どうして僕らのように子供がいない夫婦に養子を?」

「ふふふそれはだな『近代日本居住計画』を実現させるためだ」


「近代日本居住計画?」


「なっなんでしょうかそれは?」


 武彦と和子はあまりその計画について知らなかった。


「事務員のお前達には知らされていないが、本機関には乳児院や児童養護施設、児童相談所から子供を引き取り、子供がいない構成員の夫婦の養子にして自虐史観が無い戦前の日本に送っていたが、2010年頃からを中心に行っている。沖縄の貧困問題は深刻でな。親が家にいないせいでネグレクトに苦しむ子供達も多いようだ」


「へぇーそうなんですか」


「そうだ。そのせいか赤嶺祐樹を除く、他の子供達は新しい親の元へ行けると聞いた途端、喜んでいる子供が多かった。だから何としても赤嶺祐樹を見つけなければいけない。あの子が逃げたせいで他の子達にも影響を及ぼさないか心配だ」


「確かに言われてみればそうですよね・・・・・私も妻も赤嶺君の無事を祈っています。副本部長、赤嶺君に関する情報があれば教えてください」


 武彦と和子は肇にお辞儀をした。


「わかった。新しい情報が来たら教えてあげるぞ」


「あ、ありがとうございます」


 武彦と和子は肇にお礼を言うと、官舎から去って行った。





 _________



 同じく松尾山にある金城拓也らの潜伏地ではある事をインターネットで調べていた。それは2016年の現代で起こった事故や事件についてだった。未来達が過去にいるいる間に様々な出来事が起こっていた。4月に熊本大地震が発生し、熊本城が崩壊していた。蓮は中学校の修学旅行で見た熊本城が崩壊しているのにとてもショックを受けた。また、沖縄のニュースでは自分達や茂良興一と赤嶺祐樹、香坂亮太の失踪事件や乳児院や児童養護施設にいる子供の集団失踪事件、うるま市の女性が米軍に殺害されるという痛ましい事件も存在していた。


「なんかここにいる間に沖縄では凄い事件が起こっているね」


「児童養護施設や相談所の集団失踪事件と興一さん達の事件って一週間ちょっとしかたっていないし、米軍の事件とは一カ月ぐらいしか変わらないよ」


 未来と蓮は事件の記事をネットで見ながら話し合っていた。


「あーしかも沖縄の児童養護施設や相談所だからと言って職員の事を叩いているやつがいるー拓也さん、本当は違うんでしょ?」


「職員は催眠弾でやられてケガしている奴もいるから誘拐したとされる犯人達に抵抗できなかったんだよ。中には拳銃で撃たれて重症になっている職員もいるからな」


「拳銃って犯人はヤのつく職業の人じゃないの?昔、沖縄でヤのつく人の抗争で警官や高校生が撃たれた事件があったよー」


「それが・・・警察は彼らにも話を聞いたみたいだが、容疑を否認している」


「じゃああの人達は誘拐していないって事?」


「そうだ」


「やっぱり帝国機関の人間が関わっているのかな?」


「香坂亮太の失踪事件と米軍の事件以外はその可能性がある」


「・・・・・・」


 未来と蓮は黙っていた。


「エージェント金城、沖縄にある乳児院や児童養護施設の集団失踪事件の防犯カメラを分析したらスーツ姿の男達がいたけど、彼ら帝国機関の職員じゃないかな?」


 沙夜が自ら分析したという情報によると、どうもスーツ姿の男性達の殆どが帝国機関の職員だと言う。


「なぜそう思った?」


「沖縄警備隊区司令部の官舎に彼らに似た人達がうろついているから」


「そうなのか?」


「うん。でも香坂の件は違うと思う。時空の空間の歪みだと思っている」


 沙夜が自分のタブレットパソコンをいじっていた。


「時空の歪み?」


「そう。たまに私達がタイムマシーンを使用した際に起こる現象だけど、香坂亮太もそれに巻き込まれたかもしれないね」


「そうか…しかし香坂は沖縄総合事務局の職員だからもし、この時代で帝国機関の人間に遭遇したら……」


「確かに…奴らに利用されるかもしれんな…」


 拓也は厳しい目で沙夜のパソコンを見た。


「その前に早く見つけないといけない」


「そうだな…じゃないとまずいからな」


「あのー拓也さん、さっきの乳児院、児童養護施設や相談所で起こった子供の集団失踪事件だけど、失踪しなかった子供達もいるみたい」


 蓮がマウスを動かした。


「いるのか?」


「うん。でも殆どが中学生や高校生だったり、障がいがある子達みたいだよ」


「ん?本当だ『失踪しなかったのは中学生や高校生、身体や精神、知的などに障がいがある子達だった』と書かれているな」


「そう。中学生や高校生も児童養護施設の職員達と同じように催眠弾でやられた人もいるけど、中にはに職員達と共に犯人達に抵抗して子供達を守りきった人もいるよ」


「すごいな…」


「義叔父さん、集団失踪事件とは別の記事だけど、58号線でを見たって言う情報があるらしいよ。年代は1910年代後半から20年代のバスらしく、今では見かけないって。しかもバスには子供が多く乗っていたし、子供がバスに乗る様子も目撃しているから警察は集団失踪事件と関連性があるのではないかと分析しているらしいよ」


「そうか。確かこのバスは『ハーメルン号』と書かれていなかったか?」


「うん。記事にもバスの名前はハーメルン号と書かれていたよ」


「ハーメルン号・・・・・まるで童話『ハーメルンの笛吹男』みたいだな」


「その『ハーメルンの笛吹男』もいろいろな説があるからね。だから本土のメディアでは沖縄で起こった乳児院や児童養護施設の集団失踪事件を『沖縄ハーメルン事件』と呼んでいるんだ。他にも児童養護施設だけではなく、児童相談所で保護対象になっている子供も失踪しているよ」


「本当か?記事を見ると、児童相談所の方も幼稚園児や小学生が失踪しているな」


「うん。なにか帝国機関と関係がありそうだね」


 拓也はネット記事を見て睨んでいた。



 ________________



 沖縄県島尻郡小禄村。今の那覇市小禄にあたる地域はかつては小禄村という那覇とは別の市町村であった。そんな小禄村に訪れたのは鈴木邦義県知事と帝国機関の一員である高良昌吉と松本佑二が訪れていた。


「荻堂君、ここが小禄村なのか?」


 鈴木知事はのどかな風景が広がる村を見た。


「はいそうです。帝国大学の候補としているのは金城の辺りです」


「そうなのか。初めて沖縄に来て思ったのだが、どこを見ても沖縄の海は綺麗だな」

 鈴木知事は沖縄の海を褒めていた。


「ありがとうございます。そのように言われると私も光栄でございます」


 昌吉は知事にお礼をした。


「いいんだよ荻堂君、確か帝国大学の候補地は金城辺りと言っていたな」


「はい」


「私は金城もいいが、あの海がある場所でもいいんじゃないかと思うんだがね」


 鈴木知事は那覇空港がある大嶺集落の方を指さしていた。


「しかしあそこだと海風が多く、建物の劣化が心配なので金城辺りが適切かと」


「そうかあれだな。それだと金城辺りの人が帝国大学の設立を受け入れるかが問題だな」

「はい。我々もそこを問題視しており、集落の人間を説得させる次第です」


「わかった。じゃあ我々もそこへ行くとしよう」


 鈴木知事が歩くと、高良昌吉や松本佑二、その他の県庁の官吏もついって行った。


 一方、那覇港には紋付き袴を着たくせ毛ででっぷりした男と和服を来た女性が到着していた。


「今日は孝太のお見合いだと言うから張り切って来たぞ」


 男は鮫島孝太の事を知っていた。


「あなた早く予約していた『大正館』という旅館へ行きましょ」


「おお、そうだったな。早く急がねば」


 2人は西新町にある旅館『大正館』へ向かった。







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