第4話 開幕ならず
「さて、取り敢えず道を外れて進もう」
空間把握と転移を利用し、人目に付かない方法で街から脱出に成功。
街道を歩く訳にもいかないので――隻腕は凄く目立つ――僕は道を外れて森の中を進んでいく。
「IPはどうしようかな」
現在IPは6ポイント溜まっている。
計算が合わない?
実はあの後、マントを買っている。
追加のポイントは、そこでイキって稼いだものだ。
何故マントを買ったのか?
まあ旅と言えば、マントというイメージがあるから……という理由もあるが、一番の理由は実用性だ。
現在は春なので、昼間は陽気である。
だが夜になると冷え込む。
しばらくは野宿しなければならない――ある程度遠くに離れるまでは、可能な限り人には近づかないようにしたい――身なので、防寒用に厚手の物を購入したという訳だ。
更に、マントには防水加工も施されている物を選んでいるので、雨が降った時なんかは被ればレインコート代わりにもなる。
まさに一石二鳥。
ビバマント!
「取り敢えず見てみるか」
歩きながら雑木林を歩きながらIP交換システムを起動させると、目の前に半透明の青いパネルが現れる。
パネルは僕の動きに合わせて動く仕様だ。
項目は2つで、現在のIPポイント表示にスキルと魔法の選択となっている。
「ふむ……」
魔法とスキルを、一覧で軽く確認してみる。
表示されたのは、1p、3p、5pの3種類だけだ。
偶数ポイントの物はなく、どうやら交換可能な物だけが表示される仕様らしい。
「ポイントを溜めないと、高ポイントの物が分からないのは結構不便だな」
これがゲームなら、大減点もいい所だ。
クレーム待ったなしである。
まあ神様にクレーム入れるとか、怖くて出来ないけど。
入れ方も分からないし。
「にしても、1pは碌な物がないなぁ……」
魔法は1pの物がなかった。
スキルは1pからあるが、何だこりゃって物ばかりだ。
交換は実質3pからと考えていいだろう。
「だいたい鳴き声スキルなんて、いったい何処で使うっていうんだよ」
1pの一覧の中には、鳥や犬、魔物の泣き声を真似るスキルがあった。
それでなくとも微妙だというのに、しかも種類ごとにスキルブックが分かれている。
ハトだったらハトの鳴きまねのスキルブックで1p。
スズメだったらスズメの鳴き真似で、1pといった感じだ。
正にゴミ。
ああ、そうそう。
言うまでもないとは思うけど、この世界には魔物が存在している。
スキルや魔法がある世界なんだから、当たり前だよね。
「魔法は3pで生活系の魔法か……」
ちょっとした火や水を出したり、体の汚れを落としたりする感じの魔法全般が3pだ。
5pは火・水・風・土の基礎攻撃魔法が4種類のみ。
因みに、どういった魔法なのかは、意識した時点で情報が頭の中に流れ込んで来る仕様だ。
スキルも同じ感じ。
だから効果を勘違いして交換する心配はない
「危機察知Lv1……交換するならこれだな」
一覧から、僕は現在最も必要とされるスキルに目星を付ける。
危機察知Lv1は、自身や親しい物への悪意ある存在の接近を察知する感覚スキルだ。
「寝てても気づいて起きれるってのは、でかいよな」
起きている間は、空間把握で周囲を確認できる。
だから日中、魔物に急に襲われる心配なんかは無かった。
けど、寝てる間はそうもいかない。
――僕にとって、しばらく続くであろう野宿生活の最大の懸念は魔物の襲撃だった。
でもこのスキルがあれば、そういった部分もカバーできる。
正に必須級のスキルだ。
しかもそれがたったの5pで手に入るのだから、選ばない理由はないだろう。
「ふ、ぼ……俺に選ばれた栄誉ある最初のスキルは、貴様だ」
格好つけながら、僕は危機察知のスキルブックを交換する。
一々格好をつける様な真似をしたのは、人が居ないところでやってもIPが反応するかのテストを兼ねてだ。
『ピロリン』と音が鳴り、ポイントの加算が知らされる。
「誰もいない所で格好つけても、ちゃんとポイントが入るみたいだ」
これは美味しい。
「ポイント稼ぎに、格好つけまくってみるか」
僕は右手で親指人差し指中指を立てて顔を覆おう。
そして厨二っぽい台詞を口にした。
「我が名はキョウヤ・イスルギ。世界を確変する者!」
……
…………
あれ?
例の音が鳴らないぞ?
IPパネルを呼び出して確認するが、やはりポイントは増えていない。
どうやら、イキリ方が今一だった様だ。
「天よ聞け!我が名はキョウヤ・イスルギ!」
ああ、因みにキョウヤ・イスルギってのは僕が考えた名前ね。
スッゴクいきった名前でしょ?
「森羅万象を捻じ曲げ、万物に福音を齎す存在なり!我を称えよ!!」
……
…………
反応が返ってこない。
「単に格好をつけるだけじゃだめかぁ……」
全く意味のない格好つけでは、駄目な様だ。
どうやら何らかの行動や結果がセットでないと、ポイントは貰えないらしい。
無限イキリポイント編開幕ならず。
残念。
「取り敢えず、スキルを覚えよう」
右手にある、青い本を開く。
すると中から光が溢れ出し、僕の体の中に入って来た。
「ふ、此処から俺の伝説が始まる」
スキルを覚えた確かな実感。
その感激から、ついつい格好つけた言葉が僕の口から漏れ出る。
『ピロリン』
これは合格らしい。
「IP交換システムも、俺を祝福してくれている様だな」
『ピロリン』
今回も行けた。
この調子で、頑張っていキリまくるとしよう。
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