第35話 厳しい人


 陰キャでコミュ障の私で、打ち解けることが出来るのだろうか。

 いくらミトラが隣にいるといっても、限界がある。


「リーダーの人、結構うるさいんですの。一度目を付けられると、みんなの前で罵声を浴びせられたり、ひっぱたかれたりそれはもう──」


「難しそうな人か……心配だな」


 目をつけられて、いやがらせとかをされたりしないのだろうか。嫌でも、心配になってしまう。


 おまけに、大人数で戦うということは集団戦になるという所だ。


 今までは、御影さんにミトラ。せいぜい2人で戦っていた。


 けれど、集団戦ということはチームワークも大事だ。経験のない私に、そんなことが出来るのか。


 心配だけど、行くしかない。バスが、集合場所の近くの温泉前にたどり着いた。

 運賃を払って下りて、歩く。


「行きますわ」


「うん、行こう」


 覚悟を決めて、ごくりと息を飲んだ。


 5階建てくらいの、古びた和風な雰囲気の旅館。


 中に入って受付の人へ。


「怪異散策サークルのものです」


「ああ、予約した団体さんね。気賀の間だよ」


 怪異散策サークル。妖怪省とは名乗れないから、偽名を使ったのだろう。

 そしてチェックインを済ませて、赤じゅうたんの道の階段を上って奥の方に、部屋はあった。



「じゃあ、行きますの」


「うん」


 緊張しながら、コクリと頷く。いよいよだ。自然と、強くこぶしを握る。


 古風な気の扉をミトラがノックをしてから開いた。


 畳が敷かれた広々とした部屋。その中に、十数人ともいえる人が真ん中にある机を取り巻くように妖怪省の人がいた。


 全員が、こっちを見てくる。

 ……見られると、緊張するなぁ。


「皆さん、こんにちはですの!」


 ミトラの調子っぱずれのあいさつ。周囲から声が聞こえる。


「ミトラか、どうしたんだその女の子」


「私の連れで、一緒に戦おうって誘った子ですの。皆さん、よろしくお願いいしますわ」


 注目されて、視線が来るのが恥ずかしい。


「愛咲凛音と言います、よろしくお願いいたします」


 ちょっとうつむいて挨拶をして、軽く会釈した。隊員の人達から、ひそひそ声が聞こえだす。


「ミトラちゃん、あんなかわいい子連れてきたのかよ」


「俺、ミトラちゃんもタイプだけどあの子も負けないくらいかわいいと思う」


「確かに、黒髪で清楚そう。スタイルもいいだろ」


「誰か、声かけてこいよ」


 聞こえてるんだよ。イラっとした。

 ミトラは、特に驚いたりはしてない。いつも、こんな感じなのだろうか。


 体育会系ぽい雰囲気みたいな。


「かわいい」


「もう、ここまで来て何やってんのよ、遊びに来たんじゃないわ。気持ちを切り替えなさい!」


 叱責のような言葉がこの場一帯に響き渡る。周囲の人たちが思わず視線をそっちへと向けた。


 この机の上座にいる一人の女の人。きりっとした目つき。金髪で、三つ編みのおさげをしている人物。

 その人がこっちを向いてきて、私とばったり目が合う。

「あれ、あんた新入り?」

「はい、愛咲凛音と申します」

 どこか見下すような視線で、腕を組みながら話しかけてくる。

「愛咲さんね。私がこの作戦の指揮官、菱川よ。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします」

 菱川はスッと右手を出したので、私は動揺しながらも手を差し出し、握手。

「新入りだろうと、仕事は仕事。きっちり役目、果たしてもらうわよ」

 ミトラの言葉通り──厳しそうな人だ。目を付けられないようにしよう。

 そして菱川席へと戻った。周囲に視線を配り、話を始める。

 私はひそひそとミトラに向かって話しかけた。

「ねえねえ、菱川ってまさか──」

「大当たりですわ。彼女は、菱川家の末っ子なのですわ」

 菱川財閥。確か、世界をまたにかける商社から鉛筆、重工業に至るまで数々の産業や商社の総合グループ。江戸時代から続く日本でも有数の大企業。そこのお嬢様だというのだ。


 まさか、そんなお嬢様みたいな人だったなんて。


「お嬢様ながら、その実力も妖怪省でもトップクラスとなっています。その実力を買われて、今回の指揮官役を担っているのですわ」


 実力もトップクラスってことなのか……。

 そして私達は菱川を中心に事前の打ち合わせを行う。


 話によると、ここから西に行ったところに、牛頸ダムという所があるらしい。


 自殺の名所ともいわれているこの場所。この辺りで有名な心霊スポットらしく、以前から幽霊が出ていたのだが、最近になってその頻度が多くなったうえに人を襲うようになってきたらしい。

 おまけに、自殺者が増えてきたのだとか。





 今回は、それの退治なのだと。

 そして、情報班なる人たちが下調べをしたところ、霊は謎の力によって巨大な怪獣のような姿になっていることがわかった。


 なので、いつもよりも人数をかけて、指揮官役も妖怪省の中でもエース格の一人菱川さんを連れて戦いに臨むのだそうだ。


「まず、戦いは夜にするわ。当然ね、相手に奇襲したいもの」


 そして、説明に入る。


「それだけじゃないわ。陣形を組むの。作戦はすでにこっちが考えてあるから。この通りね」


 そこには、牛頸ダム周辺の地形の地図と人の名前。この通りにつけ、とのことだろう。

 私は、ミトラと一緒に前線で戦闘。


 そんな説明が、しばらく続く。場所。強さ。配置など──。時間は、十数分ほど。

「みんな、ちゃんと自分の役割を果たすように、しっかりやりなさい」

「「はい」」

 菱川の言葉に隊員たちが言葉をそろえて返事。


 体育会系の組織みたいに、ほとんどの人が大きな声で、声をそろえて──。

 ちょっと、文系の私には合わない雰囲気かもしれない……。


 ちょっと、そんな空気にキョドキョドとしていると、菱川がそれに気づいて私の方をじっと見る。


「愛咲……さんだったわよね」


「は、はひ」


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