第5話 思想(目黒音夜視点)

 俺と友梨は、どこにでもいる普通の兄妹だと思っている。


 だが、やや過保護な関わり方をしてきたといえば嘘ではない。


 父親が早くに亡くなってしまったこともあり、父親の代わりとして出来ることは、してあげようと思ってきた。

 寂しくならないよう、俺に出来ることはしてあげようという思いがあった。


 しかし、実際はそう思って来たものの、たいして何もしてやれていないし、正直俺が世話をかける必要がないほどに、妹はしっかり者に成長していた。


 不愛想で、落ち着きすぎているという点では少し気になってはいるが、実際家と外では表情を使い分けているようなので、問題はないのだろう。


 あと、こんなことを言ったら、気もち悪いと言われてしまうかもしれないが、俺から見ても、友梨はすごく可愛らしい女の子だと思う。

 テレビに映る女性と大差ないほど、友梨だって可愛いい容姿をしていると。


 だからこそ、たまにとっぴおしのない言動を起こすことがあり、そこは兄としては少し不安になる。


 いくら家の中で、家族だけだからとはいえ、暑いからといって眼の前で着替え始めたりするのは、如何なものだろうか?


 大学生の兄の前で着替えようとする感性は、改善していただきたい。


 もうすぐ、そんな妹の誕生日。


 誕生日は毎年、ありきたりにプレゼントを買って渡す。


 男の兄弟など、大抵がそんなものかもしれない。


 妹だってそれが当たり前だと思い、俺に何かをお願いすることだってない。


 だが、俺としてはせっかくの兄妹。


 今は何かと2人で過ごすことも多いのだから、今年はより特別な気持ちで祝ってやりたいという思いがあった。


 『うわっキモっ』という表情が目に見えてはいるが、俺が社会人になり、友梨も高校を卒業すれば、この先もうそんなに一緒にいることはないのだろうから。


 妹と過ごせる時間は、直実に短くなっている。


 だからこそ思う。


 残り少ない時間で、妹と将来も笑い合える関係になりたいと。

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