【照明について】

 寅之介の水槽から飼育水を拝借し、三分の一ほど水が入った礼の水槽。残りを水道水で満たすと、礼はカルキ抜き剤を少し注ぐ。


「水道水は塩素が入ってるから、そのままだと魚には良くないし、バクテリアも死ぬ。だからカルキ抜きを使うんだが、店に行けば色んな商品がある。液体のも固形のもあるから好みで選ぶといい。じゃあ次は照明だな」


 礼は寅之介から受け取った二灯式の蛍光ライトを水槽に乗せ、スイッチを入れる。蛍光管特有の、ピンっという音が鳴ると、水を満たされた水槽が明るくなった。


「上部式フィルターも乗ってるから、水槽の上が埋まっちゃいましたね」


「蓋をする必要が無くていいじゃねえか。さっきのスネークヘッドなんかは特にそうだが、魚ってのは意外に跳ねたり這い出たりで結構脱走するんだぞ」


 寅之介の言うとおり、魚は水面から外へ出る事が少なくない。当然、水中から出た魚は悲しい末路を辿ることになる。


「いつの間にか部屋に入ってきたトンボが水槽に卵産んで、孵ったヤゴに魚を食べられた……なんで事故もあるみたいだよ」


 唯の言う事例はレアケースだが、水槽の上部に隙間は空けないに越した事はない。


「照明は水槽を見やすくする為だけじゃなく、魚に昼と夜を認識させたり、水草に光合成をさせたりと 重要な役割がある」


「うちの部なら、朝来た時にライトを点けて、帰るときに切ればいいけど、ライトの照射時間は別売りのコンセントタイマーで自動的に管理した方がいいね」


「何で?」


「苔が生えるんだ……」


「こけ?」


「そりゃもうガラス面とか流木とか水草の葉っぱにすらびっしり生えちゃう。礼ちゃんも、いずれ解る日が来るよ」


 コケ……それはアクアリスト達がいつの時代も戦い続ける相手である。礼とコケとの戦いの話は、また別の機会に。

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