第2話「私は善意に殺された」

四年後。


私は善意に殺された。


一時間仕事をすれば血反吐を吐いて一週間寝込む殿下。


殿下の治療にかかりきりで、王太子妃のマナーやこの国の文字を習う暇もない聖女様。


側室になって四年、私は働き詰めだった。


「ふーー、やっと終わった」


いつものように殿下と聖女様の仕事を変わりにこなした私は、執務室で窓から差し込む朝日を浴びながら背伸びをしていた。


「さすがに二十歳を越えてからの三徹はきついわ〜〜」


私は執務机の上のベルを鳴らしメイドを呼んだ。


早朝にも関わらずメイドは飛んできた。


「及びでございますか、ティアローズ様」


「熱々のコーヒーをブラックで頂戴。

 それとチョコレートもよろしくね」


脳みそをフル稼働したあとは糖分が必要なのだ。


「承知いたしました」


メイドは一度下がるとワゴンにコーヒーとチョコレートを乗せて戻ってきた。


「あらいい香りね?

 コーヒーやチョコレートとは違うようだけど?」


「気持ちの落ち着く効果のあるお香をお持ちいたしました。

 不快ならお下げしますが」


「いいえ、気に入ったわ。

 そのままにしておいて」


「かしこまりました」


「もう下がっていいわ」


メイドは一礼して下がって言った。


「お香があるなら窓は開けない方がいいわね」


朝の新鮮な空気を吸い込みたかったが、もう少しあとからにしよう。


「ひと仕事終えたあとは甘いチョコレートとブラックコーヒーに限るわ〜〜」


口の中に入れたチョコレートが熱々のコーヒーによって溶けていく。


疲れた心と体に染みるわね。


でもほどほどにしないと、次のパーティーのために作らせたドレスが入らなくなったら困るもの。


「えっ……?」


ガシャーーン!


グラリとめまいがし、私の手からカップがスルリと滑り落ち、床に叩きつけられたカップが派手な音を立てた。


足に力が入らず、床に崩れ落ちた。


「なぜかしら……すごく眠い。

 だめよ……シャワーを浴びたら……来週王城で開くパーティーの警備についての最終確認を大臣とする……予定なんだから……隣国の皇太子をお招きするのに……そそうがあったら大……変。

 その後は会議に出席して……孤児院の建設について……話し合わなくちゃ……」


私は目を必死に開けようとしたが、まぶたが重くてとても動かせそうになかった。


早朝の執務室で私は死んだ。


死因は弱っていた体で過度の睡眠薬を接種したことによる睡眠薬中毒。


……それは全て善意だった。


働き詰めの私を心配して殿下が睡眠薬入りのチョコレートを用意し、聖女様がコーヒーに睡眠薬を入れ、陛下が眠り薬入りのお香を差し入れしてくれたのだ。


全ては働きすぎの私を心配してのこと……。


ただそれぞれがバラバラに用意したものを一度に接種したため、長年の疲労と睡眠不足でボロボロだった私の体は耐えられず、永久に眠りにつくことになったのだ。


なぜ私がこんなことを知っているのかというと……。




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