オッサン、ニューヤークへ行く

 お頭だけが残った白鮪の骨を後ろに引きずって、重マグロ駆逐艦が入港する。

 ここはラメリカ合衆国の海の玄関口の「ニューヤーク」港だ。


「……喜べ皆、ようやく刺身まみれの毎日とはお別れだぞ」

「ふぅ、ようやくお肉とパンがたべれそうですね」


 げっそりしたようすのポルシュ。

 いくらマグロが美味と言っても限界があるよな。


 鮪丼やマグロの刺身を楽しめたのは最初の3日。

 それ以降は食することが義務感になり、やがて呪いになった。

 

 マグロサンド、マグロパスタ、マグロシチュー、マグロ、マグロ。

 古今東西のあらゆる調理法がどれだけ大量にマグロを使うか?

 その一点に集約していた。


 おそろしいことに、重マグロ駆逐艦の冷凍倉庫には未だ大量に残っている。


「ガハハ、白マグロの油と皮、そして肉は捨てるところがねぇ!ラメリカでいい商売が出来そうだ!」


「……まったく、翁はあれだけのマグロ尽くしでよく飽きないな」


「船乗りの資質ってのはそこよ。ようはどれだけマグロに慣れるかって事よ」


 たしかにその通りだと思う。

 普通の人間ではあんな食生活を続けていたらおかしくなるわ。

 いや、目本人の体の構造がすこし違う可能性もあるけど。


 俺はようやくたどり着いた「ニューヤーク」の街並みを見る。


 目本が昭和なら、ラメリカは現代だな。

 空を目指して、いくつもの巨大なビルが立ち並んでいる。

 この街は、ほとんど俺の生きていた時代と変わらない雰囲気に見える。


 議員会館のオバハンや、ポトポトにきたオバハンみたいな、意味不明なゴブリン的思考回路は一体どっから湧いて出てきてるんだろう?


 働いている人たちの中にはちゃんとした考えを持った人たちがいるはずだ、そうじゃないとおかしい、あのオバハン連中にこんなビルが作れるはずはない。


 重マグロ駆逐艦を接舷させ、タラップからラメリカに降り立つ。まず異国の丘に降り立ったのはミリアとデドリー、そして俺だ。


 ロイとポルシュは、駆逐艦の中でやることがあるので、遅れてくるそうだ。


「はー!もうマグロはこりごりですよー!」


「ミリアちゃんの言うとおりね。新鮮な海のお魚はポトポトでは貴重だけど、こうもつづくとね」


 ポトポトの妖怪を、若干真人間にするくらいにはマグロが効いたか。

 いや、なんかおかしいな?


「どうしました、機人様?なにかミリアの顔についてますか?」


(そうか、お魚の食事が続いたことにより、ミリアの頭が――!!)


 その時、機人の頭に電流はしる――!


 そう、機人は生前よくいっていたスーパーの魚売り場、そこで流れていたゆかいな音楽のことを思い出したのだ!


 その曲はあるフレーズを繰り返し繰り返し歌ってていた。


 そう、「サカナをたべると頭が良くなる」というフレーズだ!


(思い返してみれば、ポトポトでは海の幸、とくに魚はほとんど食事に並んでいなかった。つまりエルフ達は食生活からして、意識低い系でバカだったのだ!!)


(ありがとう白マグロ!!おまえのDHAのおかげだ!!)


(いや、機人様、普通はあり得ないんですけどね?まあこの世界だと何でもあり得そうだからもはや気にしないことにしますか)


「ふふ、今日の機人様、ちょっと変です」


「そうね、でもそれもわかる気がするわ。だってこんな素敵な町なんですもの」


 デドリーまで普段使う♡を使わずに、ちょっとエッチな格好をしたお姉さんに収まっている。すごいぜマグロ。定期的にポトポトに送ってもらおうかな?妖怪を真人間にできるなら多少金銭的に無理してもいいぞ、割とマジで。


 目本がほかの国より発達していたのは、マグロを食っていたからか?

 うむ、ありえそうだ。


 俺はそんなことを考えながら、ニューヤークの街を歩く。

 ひとまずどっかの裁判所とかに行って話を聞けばいいのかな?


 ひとまず警察署に行って道をきくか。多分このレベルの文明ならおまわりさんの1人や2人位、必ず街に居るだろ。


 まあその前にどっかで腹こしらえでもさせるか。どうせ役所の仕事ってクッソ時間かかるし、ランチボックスとかお弁当くらいは用意させておきたいよね。


「……これから役所を探すが、そのまえにお前たちに食事と弁当を買っておくか。どうせ役所の仕事というのは無駄に長いと相場が決まっているからな」


「さすが機人様!それは名案ですね!」


 さすがにマグロを食った後のエルフ達に、原材料がそこら辺の草でしかない非常用食品や、中身がアレな「兵士たちの朝食」を摂らせるわけにはいかない。


 いくらマグロに飽きたって言っても、マグロからアレは天国から地獄っていうレベルじゃないからな。飯のグレードを落とすのは即座に反意に繋がる。

 それはもう、ノブヤボだったら即座に反乱よ。


「……おお、あれなんか良いんじゃないか?」


 俺が指さす先には「エンペラーバーガー」という店があった。


 看板を見る感じ、切った丸パンに肉や野菜を挟み込む、ちゃんとしたハンバーガー屋さんみたいだ。よかった、オバハンたちの様子から、ラメリカの食文化がどうなっているかメチャクチャ不安だったのだが、ちゃんとしてそうだ。


 俺はガラス扉を開けて二人を中に入れる。


 おお、ラメリカの内装、90年代の外国って感じで結構いいじゃん。


 ワックスで赤味の強調されたクルミ材のカウンターといい、金属のポールの上に丸いクッションが乗せられたイスといい、典型的なバーガーショップだ。


 ふむ、黒板にチョークで書かれているのがメニューか。

 どれどれ……?


「……形而上学的バーガー?脱構築デリダバーガー?なんだこれは?」


「なんだかよくわからないですね、どういう食べ物なんでしょう?」


「おやいらっしゃい、外国人のお客さんですね」


 メガネをした人のよさそうなおじさんが注文を取りに来た。

 そうだ、せっかくだから聞いてみよう。


「……ああ、メニューの内容がよくわからない。もっとこう、チーズバーガーとかないのか?」


 その一言でおじさんはぎょっとした様子になる。

 そして俺にこう返した。


「シッ、声が大きい!アンタ警察に捕まりたいのか?!チーズバーガーなんて、誰かに聞かれたら、10年は刑務所から出てこれないぞ!」


 はぁ?!なんでチーズバーガーって言っただけで捕まるんだよ?!


「……まてまて、私たちは今日ラメリカに来たばかりでな?」


「そうか、なら君たちにはちゃんと説明することにしよう……」


 「ドンッ」と大きな本をとりだすおじさん。

俺はこの店で、ラメリカがどんだけやべーことになっているのか、バーガーひとつでそれを知ることになる。


★★★

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