エルフとゴブリンと

 ~ラメリカに事故報告書と請求書を送りつけてから数か月後~


 俺の目の前にはまるでタルみたいな体型のオバハンが居て、そいつとさっきから意味不明なやり取りが延々続いている。


 まあこんな感じだ――


「と、いうわけで我がラメリカ合衆国は、ポトポトの機人様を起訴いたしました」


「……はぁ請求書は届きましたよね?」


「裁判が行われますので、出席をお願いします。敗訴した場合はポトポトは全ての生存権をはく奪され、ぺんぺん草ひとつ生えない荒地へと還されます」


「……ところで請求書の件は?」


「邪悪かつ女性蔑視極まるポトポトであっても名目上司法による保護がされるのは税金の無駄使いであり、忸怩たる思いで遺憾の意を表明せざるを得ませんが……」


「……お金返して?」


「男社会であるセカンドレ○プの街ポトポトは安心してホームレスとして飯炊きオ○ホのエルフ達と性的消費され滅ぶのが自然の摂理ですが、我々は近代的で文明的で社会正義のために動きますのであなた達のような――」


「……だからお金返して?」


「名誉男性でしかないエルフ達を議員として参加させるのも、国際社会による批判がたかまり社会正義に反しますので、ポトポトの――」


「……こりゃだめそうだ」


 俺はポトポトに来た「ラメリカ合衆国最強最高至境司法特使」とやらと話をしているが、全く話が見えない。というかいちいちラメリカの役職なげーんだよ!!!


 ハァ……とにかく同じ言語を使っているが、まったく意思の疎通ができない。

 これじゃあ俺がこの世界で初めて出会った「ゴブリン」と何ら変わらんよ。


 ちょっと長めな「ウンバボウンバァァァァ」を聞かされてるだけだ。


 ラメリカは目本よりも文明が発達しているそうだが、倫理観の部分は明らかにマイナスを突破している。話聞く気すらねぇんだもん。


 この世界では、文明の発達度と倫理観は反比例しているのか?


「……では早速、飛行機でそちらに向かうとしよう」


「それはできません!ラメリカでは蛮族が飛行機に乗ることは法律で禁止されています。どうしてもというなら、蛮族らしく泳いでくるか船を使いなさい」


「……もし飛行機で向かったらどうなるんだ」


「ラメリカ空軍と陸軍で総力をもって撃墜します」


「……来いって言ったのはそっちだよな?なんで迎撃する話になってるんだ?」


「蛮族相手に常識を伝えるのは困難を極めますわね。ばんぞくさん、法律ってわかりますか?ほーう-りーつー?」


「……もういい。船で行く」


「ペッ、わかればいいんですよクズが。出席しないと自動的に敗訴ですからね?」


 ねえコイツ埋めていい?


 でもそれはそれで「一時の感情に流されて殺しますかぁ?!この私をォッ?!」とか言われそうで腹立つ。ここは普通に返す。ポトポトは文明的なのだ。


 言いたいことを言うだけ言ったタルオバハンが帰った後、俺は「……はぁぁぁぁ」とおおきなタメ息をついた。


 怒りに身を任せ、ミニガンに火を入れなかったことを誉めてほしい。


「ケッ、塩撒いときますか」といってバッバッっと塩をまくミリアさんは置いておいて、さてどうしたものか。


「……ラメリカの言い分だと、裁判がどうとかだが」


(正直、水爆ぶち込んで、ラメリカをまっさらにして終わらせたいんだけど)


(Cis. 現状得られている情報では、それが最も正解に近い答えだと思います)


(それができたら苦労しないよ。全世界からポトポトが危険だってマークされる。でもこのまま放っておくわけにはないってのがな。発達した文明をもっているのにもかかわらず、めちゃくちゃな考えの連中がいるってだけでも恐怖だわ)


「ッス!あんだけ言われて機人様、ほっとくッスか?」


「……いや、ここはラメリカに赴く、そして連中の誤りを正す」


「キキキ!これまでやって来たとおり、ぶちかましてやるでやんすね!」


「さて、それでルートだが……」


「それなら僕に任せてください!」


「ポルシュか。何か名案があるのか?」


「はい。海路で向かうならば、まず目本へビッグバードで向かい、そこから重マグロ駆逐艦に乗り換えて、ラメリカに向かうのが最もカイロでの移動を短縮できます」


「……なるほど、重マグロ駆逐艦は目本自慢の高速艦だっな?」


「ええ……実は目本の人たちと協力しまして、最大時速49ノット、時速にして90kmを発揮する重マグロ駆逐艦、『ヴィルベルヴィント』が完成しています!」


「……いつの間にそんなことを?!……だが助かる」


「はっ!機人様のおかげで好きにやらせていただいています!」


(駆逐艦で49ノットは規格外ですね。普通30ノットが限界ですが……)


(ハハハ!ナビさんも驚いておるわ!)


(絶対ろくでもないですよそれ……)


「……では早速ラメリカに向かうとしよう。メンバーは、いつもの者に加え、そうだな、クロさんたちも連れて行くとしよう」


「「わーい!」」


 ぴょんぴょん跳ねる25体のモフモフに癒されるね。


 妖怪たちとヌイグルミを合わせるとそれなりの大所帯になるが、まあ船ならなんとかなるでしょ。


 あっ、そうだ。目本を乗り継ぐなら、ニンジャたちに預けたキングチハも持って行こう。こちらとしてはドンパチしに行くわけでは無いが、向こうはどうもその気っぽい。キングチハ、レールガンも含めたフル装備で行こう。


 俺はビッグバードにアレコレと必要そうな物資を乗せると、さっそくポトポトの妖怪たちと目本に旅立った。きっとこれが最後の戦いになる。出し惜しみは不要だ。


 出かける前に、すっかり変りはてたポトポトを眺める。


 人間と見たらブチ転がす気満々だったエルフ達は変わった。

 が、彼らは別にオーマを赦したわけでは無い。


 もう人間たちに興味を無くしているのだ。新しい家族が出来れば、やるべきことは山ほどある。彼らには新しいタスク、今対処すべき現実がある。


 彼らを元に戻さないために、今回は最小限の人数で終わらせるつもりだ。

 これができるのは人でもエルフでもないオッサンだけだ。


 さて、行くとしますか――

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