タイプ7装甲車の初陣

 ケムラーは銃を配り終え、再度工場の外を見た。


 イギニスの暴徒たちがポトポトモータースを取り囲んで、大砲の近くに、弾を運び入れはじめた。もはやいくばくの猶予ゆうよも無い。


「全ての装甲車を出して攻撃する。作戦はわかっているな?」


「ハハッ!」


 出撃する3つの装甲車には、イギニス人の運転手が一人、銃手と車長として、二人の騎士が乗り込んだ。


 私はそのうちの一つに乗り込み、部隊全体の指揮を執ることにした。


「装甲車、前へ!」


 シュッシュッシュと白煙を上げて、装甲車は走り出す。


 蒸気モーターの特性上、装甲車の走りはじめは遅い。


 蒸気機関は動き出して、その出力がピークになるまでが遅いのだ。

 結局のところ、お湯を沸かしているわけだからな。


 ここが一番危険で、ここを大砲に狙われるとまずい。

 なので先手を打って動く。


「ンッンー!動き出しましたか!撃て撃てーですぞ!ンン!」


 暴徒の列から、フリントガンが発射され、白煙が弾ける。


 しかし小銃の鉛玉程度では、この装甲車はびくともしない。


 実際のところフリントガンの精度はそこまでよくない。発射された弾丸のほとんどが地面をえぐる。


 まぐれで当たった弾も、装甲車の鉄板に阻まれて、カンカンと、情けない音をたてるだけだった。


 よし、これならいける。


 大砲がこちらを向くが、気にせず走り続けて、暴徒の側面を目指す。


 ドン!!と発砲する音が聞こえたが、大砲から発射された弾丸は、明後日の方向へ飛んで行って、工場の空き地を掘り返した。


「思った以上に下手くそだな!!!」私は装甲車の車内に鳴り響く、エンジンとギアの音のオーケストラに負けないように声を張り上げた。


「当たり前です!!大砲には!!直接狙う照準器がないんです!!」


 なるほど。考えてみればそうだ。


 大砲が攻撃する相手は、船や城壁、歩兵の戦列だ。

 狙いの速さや精度は特に必要としない。


 この装甲車のような目標は、そもそも想定されていないのか。


 それを知って、がぜん勇気が出てきた。


「射撃位置に着きました!!!」

「食らわしてやれ!!!」


 12発連射可能なパンパン銃で、大砲に対して全車両が攻撃を加える。


 またたく間に、砲手は討ち取られた。

 それでも、砲の操作を引き継ごうとする、勇気あるものがイギニス人の中にもあったが、それも続けて討ち取る。


 激しい銃撃が加えられるのが解ると、もはや砲に近寄ろうとする者はいなかった。


 歩兵の戦列は明らかに動揺し始めた。

 工場の陣地、装甲車、銃をどっちに向けたらいいのか、わからなくなっている。


「よし、教育してやれ!!!!装填!!!再度連射!!!!」


 その実、装甲車の火力はまだ大したものではない。

 一斉射撃の火力としては、20人かそこら並べた歩兵の列の方が強いだろう。


 しかし歩兵にとっては、鉄の板でこちらの弾が防がれ、向こうからは一方的に撃たれるというのは、心理的には圧倒的なプレッシャーになる。


 すでに暴徒たちは腰が引けている。


「もう一連射!!食らわせてやれ!!!」


「アイアイ・サー!」


<PAM!!PAM!!PAM!!PAM!!>


「ば、ばけもの!鉄の化け物だ!!!!ウーン!!」


「機人は鉄の化け物を生み出すんだ!!!に、逃げろー!!!!

「アイイイイイイイ!!!」


 装甲車の威力はすさまじいものだ。


 銃は、隠れるものが無い歩兵には、絶大な威力を発揮する。

 つまり、隠れられると決め手がないのだが……


 だがこの装甲車は、隠れた者の側面に回り込み、隠れたとしても、その意味をなさなくする。反撃は鋼鉄の板で防ぐ。なんという兵器なのだ。


 そして装甲車の平地における機動力は、まさに次世代の騎兵といっていい。


 ――そうか、騎兵……!!!これは、次世代の騎士だ!!!!


 私ことケムラーは、機人様が何を考えているのかようやくわかりかけてきた。


 機人様はどうやら、私たち騎士に、次の時代の戦い方を教えようとしていたのだ!


 何たる……何たる……神算鬼謀しんさんきぼう!!


 やはり機人様は恐ろしいお方だ……。


 我々は、ポトポトの工場を取り囲んだ、イギニスの暴徒共をさんざんに打ち破った後、その暴徒たちの死体をよくよく見てみた。


 すると、この者たちは市民の服をしているが、その靴、上着の下に着ているチュニックはイギニス軍のものだった。階級章すらそのままではないか。


 市民を装って攻撃をしてきたのか……なんとヒレツな!!!


「なだこれ!イギニスの兵隊じゃねーか!」


「ちきしょう!バカにしやがって!!金持ちの飼いイヌどもめ!」


 民を守るための兵であったはず。

 それがイギニス人からも軽蔑されるとは、実に哀れな……。


 どうやら我々は、この国に深い分断を持ち込んでしまったようだ。

 しかしそれは、いつしか表に噴き出すもの。


 そう、オーマのように。


 王と教会は対立していた。イギニス人のように、相争うことになったとしても、それは遅いか早いかの違いでしかない。


 機人様が介入しなければイギニスは、オーマは、より破滅的な内戦に陥っていたかもしれないのだ。


 やはり、あの方は敵方と言えども、その命を重く見ているのではなかろうか?


 なにが蛮族の神か?!これほど慈悲深いものが他にあろうか!いやない!


 私は遠く離れたイギニスの空を見てオーマを想った。


 そしてその目に移りこんだ、巨大な黒い鳥。

 あれは……機人様の使う分霊に似ている。


 きっと、我々の戦いを見ておられたに違いない。

 そして、その戦いに勝った、我々の元に、帰って来られたのだ。


 私は膝をつき、我々を導くにふさわしい、真なる神に祈りを捧げるのだった。


※機人はここまで考えてません。

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