ビッグバード君

 しかしこのコンギョハウス、他にも何かないかな?

 まさか水爆だけってわけはないだろ?


「……ところでリュー殿、聞きたいことがあるのだが」


「なんだ?」


「これだけ大規模な施設なら、他にも何かないか?」


「ふむ……そういえば、動くかどうかわからんが、機人、お前が背中に背負っているようなもの、それをかなり大きくしたものが置いてある場所がある」


 飛行ユニットを……? あっ飛行機か!!


「よし、そちらへ行ってみるとしよう」


「こっちだ」


 俺がリューに連れられて行った場所。そこには赤い星が垂直尾翼に書かれた、黒に近いグレーの飛行機が置いてあった。武装は無いから……、輸送機か!


 小ぶりな4発のジェットエンジンの付いた、後退翼の輸送機だ。ポトポトモータースで作っている装甲車なら、余裕で4両は入るんじゃない?


 きっと、このコンギョハウスに、水爆を運んでくるのに使ったんだろうな。


「……輸送機か、これを勝手に使わせてもらっても構わないのか?」


「ああ、元より私のモノではないから、勝手にすると良い」


(なるほど、これはうん-20『クンペン』ですね)


(ハンペン?なにそれ?語感はすごい食い物っぽいけど)


(はあ。クンペンとは、中国の神話生物です。クンとは魚の卵、ペンとは岩のように大きな鳥を指し、クンペンは魚の卵から生まれた巨大な鳥です)


(つまり?)


(ようするに、クンペンとは、取るに足らないお魚が、世界を飛び回るようになったという、無限の飛躍のシンボルなのです)


(はえーすっごい。なんでナビさん、そんなに中国の神話に詳しいの?)

(水爆の解体だって、あっちの最高クラスの軍事機密じゃん)


(――ナビは何でも知っているんです。そうでないと意味がないでしょう?)


(ふーん、そりゃまあそうか。それはそうと、これ動く?)


 クンペン君、ええい名前になじみが無くて覚えにくいな。「ビックバード」君でいいや。


 ビックバード君の状態は、ドワーフ要塞にあった偵察車両なんかに比べても、格段に状態がよさそうに見える。ほとんど新品状態っぽい。


(ええ、見た感じ動きそうですね。貴方が新鮮な燃料を与えれば動くでしょう)


(さすがにこの施設に貯蔵されている燃料は、もう変質してるか?)


(ええ、もう泥みたいになっているでしょう)


 なら仕方がない。バイオ燃料で何とかするか。


 コツコツと作って、ナビさんの指示でビックバード君の燃料タンクに注ぎ入れる。


 飛行機を見るが、いやーさすがに輸送機ともなるとデカイ。


 さすがにこのサイズの飛行機は、俺のクラフトメニューでも作り出せない。

 いや、未来の謎技術だし、実はできるのかな……?

 アップグレードの余地があったりすると嬉しい。


(施設のゲートを開いて、この子を外に出しましょうか。)


 ビックバード君を腹いっぱいにしたところで、ナビさんにビックバードを遠隔操作して外に出してもらう。コンギョハウスのゲートが開くと、密林の中から滑走路が現れた。おおすげえ!まさに秘密基地じゃん!


「……この輸送機なら、ポトポトの皆をイギニスと自由に行き来させられるな」


「私の翼では不服なのか?」


「そういうわけでは無いが……装甲車の納品で、いちいち1台ずつ運ぶわけにもいかないだろう?」


「ああ、それもそうだったな」


 キィーンと耳障りな騒音を立てるビッグバード君。

 今になっておもったが、これポルシュ君に刺激が強すぎやしないだろうか?


 彼が次にどんな変化を起こすか、もはや予想がつかないな。

 いや、それはそれで見てみたいという気もするが。


 俺は夜明けとともに一行のバカンスを切り上げ、一路ポトポトへと戻ることにした。ぶーぶーと文句を垂れるロイとデドリーは、ともにミリアのローキックの餌食になったが、そこはまあいつもの通りだったので割愛しよう。


 確かにこのままポトポトに戻ると、イギニス本土で今、何が起きているのか?その状況がつかめなくなってしまう。


 艦隊の連中は、俺に対しても容赦なく大砲をぶっ放してきたから、イギニスとしてはもう、完全にポトポトに対して敵対するスタンスを取ったと見ていいだろう。


 しかしあそこには、ドMのケムラーとその配下の騎士くらいしか残していないし、彼らは無駄に生命力があるから何とかするだろ。


 気の毒なのはバーストのような現地で雇ったイギニス人だが、流石に面倒見切れない。彼らほどの能力があれば、自分でなんとかするだろうという期待もある。


 我ながらヒデーとは思うが、この輸送機、ビックバード君ですこしやってみたいことがあるのだ。


 そのやりたい事は、これから起こるであろう、イギニスとの戦いを優位に進める秘策でもあるのだ。これにはポトポトにいるエルフの力が必要不可欠だ。


 さて、イギニスが古代竜に苦戦していたのは、そもそも何故だったか?

 それはまだ彼らが、「空」に対して、有効な手立てを持っていないことにある。


 これは対空砲の技術が未熟、というだけではないのだ。


 実は彼らは、ある概念を理解していれば、古代竜に対してもっと効果的にできることがあったのだ。


 その概念とは何か?つまり、世界は地図のような「面」ではなく「立体」であるということだ。


 イギニスの軍隊には、海と陸の概念しかなく、空を加えた、戦術において、立体的な空間の概念がないのだ。だから本質的な意味で、空の攻撃に対応できていない。


 対空砲とは、実は飛行機を狙っていない。飛行機が飛んでいきそうな「空間」を狙っているのだ。


 にもかかわらず、イギニスの艦隊に俺が手も足も出なかったのは何故か?


 それは俺の射程が短すぎたのが原因だ。あのとき、俺はまだ「陸戦」をしていた。「面の戦場」にいたのだ。


 無人機君がいる俺がクッソつよいのは「立体」という、全く別の空間にいるから強いのだ。俺自体はそこまで強くない。悲しいことに。


 俺のやりたい事には、生まれながらにして、特殊部隊兵士として作られたであろう、エルフの力が必要で、恐らく彼らの本当の活用方法へとつながっているはずだ。


 さて、近代兵器無双の準備をさせてもらうとしよう。


 俺は朝日に照らされるビッグバート君の姿に、今後の彼の活躍を思い浮かべた。

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