右向くんだよ90度!

 デイツ王は城壁の内側を見る。

 視線の先では、新しく徴兵された兵士たちが訓練をしている。


 守備兵の指揮を任されたデイツ騎士団は、カリスト教の修道騎士であるため、指揮に一部、聖句を用いる。


 これが思った以上に、効率を下げている。例えばこういった具合だ。


「右向くんだよ90度!右向くんだよ90度!右向くんだよ90度!」


 何をしているかわかるだろうか?

 これは左を向け、という意味の指示だ。


 なぜ、右回りでいったん後ろを向かせてから、左を向かせる必要があるのだ?

 まるで意味が解らんぞ。

 何故、「左へ90度」という言葉が聖句に無いのか。理解に苦しむ。 


 デイツ王が頭を抱えたその時、唐突に耳障りな音がした。


<ジャーン!><ジャーン!><ジャーン!>


 これはムンゴルの銅鑼ドラの音か?

 まだ攻撃の指示は出していない。どこかの部隊がヤケクソで突っ込んだか?


 そう思って城壁を上り、上から戦場を眺めてみる。


「げぇっ!機人!」


 どこからともなく兵から声が上がる。

 なるほど、あの砂色をした巨人、あれが機人か!


 機人の前を走る箱、その中にはエルフ達が入っていて、何やら筒状のモノをつき出すと、そこから炎を吐き出し、ムンゴル兵たちを蹴散らしていく。


 凄まじい威力だ。歩兵たちは盾を構えるが、それごと燃やし尽くされていく。

 あれでは鎧や兜、盾による防御など、何の意味もない。


 そしてつぎに弓手が砲台に向かって火矢を放つ。

 それは我らの使う連弩などとは比べ物にならない速さで、ムンゴルの築いた砲台陣地に吸い込まれていく。


 刹那、雷が束になって落ちたのでは?

 そんな轟音と共に土煙を上げて、陣地が吹き飛ぶ。


 ……やばくね?

 神聖オーマ帝国でさえ、まったく歯が立たないムンゴル。

 それを蹂躙する機人と、一体どう戦えというのだ。


 人間をまるでゴミクズの様に蹂躙する機人。外交交渉ができるような相手とは、私にはとても思えない。 


 ……だが、この戦いに横やりを入れたというのは、機人に何か考えがあってのことではなかろうか?


 私はいきり立って矢を射かけようとする守備兵を抑え、ムンゴルを蹂躙する機人の動きを見守った。


★★★


 俺はエルフをトラックに乗せ、川を乗り越え、一気にムンゴル帝国の陣地にカチコミをかけた。

 騎士たちは置いてきた。この戦いにはついていけそうにないからな。


 奇襲の効果はそれなりにあった。あれは連中、完全に勝ったつもりだったな。

 でなければ、火薬の樽を砲台の近くにため込んだりはしない。

 完全に現場猫案件だな。


 あの火薬樽が無かったら、砲兵の始末だけに終わり、砲は破壊できずに再利用されていただろう。

 一番恐ろしいのは無能な味方とは、昔の人はよく言ったもんだ。


 砲兵を護衛していた歩兵は火炎放射器で始末して、俺がミニガンとサブマシンガンで打ち漏らしを仕上げに弾いて行ったら、ばらばらに逃げていった。


 ムンゴルの戦列はズタズタで、いまや包囲は、半分意味をなしていない。


 神聖オーマ帝国とコンタクトするなら、この衝撃が効いていて、正常な判断ができない、いまこの時にやった方が良いと思うんだが……。


 なんて声をかけよう?


 今更、「我は汝らの味方」なんて言えないしなぁ。


 いっそダイレクトに、責任者出てこい!遺物よこせ!

 そうやって連中に合わせた蛮族ムーブしたほうがいいか?


 ひとまずエルフ達には先端医薬品も持たせてあるし、武器もある。

 遺物寄越せムーブを断られたら、そのまま神聖オーマ側にもカチコミかけてもいいな。


 だいぶ俺も、この世界のレベルに落ちてきている気がするが、まあここは、お上品にやったところで誰が褒めてくれるわけでもない。


 ガツンとかまして行こう。

 

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