朝飯の時間よー

 ポトポトに帰ってきた俺たちは、目の前の捕虜を見る。


 キルティングされた鎧下に、小さな鎖をつなげて作られたチェインメイルを着ている。肩には体に全くフィットしていない板状の鉄板を、防御の補助として付けていた。胴体には皮鎧、しかし表面には等間隔に鋲が撃たれて、四角い形が盛り上がっている。内張りに鉄板を使っているなあれは。


 そして、布に頭を通す穴をあけて、すっぽりとかぶる貫頭衣、いわゆるサーコートをベルトで留めて着ている。サーコートは赤い布地に白いXの染め抜き。おそらくカリスト教の修道騎士と言った所だろうな。


 正直言ってこの騎士を目の前にして、俺はちょっとテンションが上がっている。ヘルメットこそ被ってないものの、ここまでリアル系に振り切った騎士のキャラクターというのはゲームでもあまり見ないからな。デザイナーの趣味を一切出さない、実用一辺倒。こういうのでいいんだよ、こういうので。


 鎧に装飾をガチャガチャといれたり、金の縁取りを入れたり、ツンツンにとがらせたり、パーツを増やしたりというデザインは俺は好きではない。

 なんか商品性が追加されると、おもちゃっぽくなるからだ。


 その点こいつらはどうよ?まさに泥の中を進んでウォォーと雄たけびを上げる、男くっさい、まったくユーザーに媚びていないデザイン!うむ。これよな。


 まあ、捕虜を取ったのはこいつらを観賞用にしたいから、わざわざポトポトに連れてきたわけではない。尋問のためだ。


 キャンプ地にあったのは投石器だけではない。4つの車輪の上に、縛り付けた丸太を並べた、移動用の巨大な盾、そういったものがあったのだ。

 つまりこいつらは、銃の対策をしてきた。


 とはいえ、丸太程度の対策なら、サブマシンガンはちょっと怪しいにしても、ミニガンの弾やエルフ達の使う弾なら十分貫通可能だ。さほど脅威ではない。

 身を隠されると面倒ではあるが、機動性が劣悪なので側面を取れば無力化される。つまり、これ自体はたいしたことが無い。


 これ本体より、これをつくるに至った、論理的な思考の方が脅威だ。

 カリスト教から読み取れるこいつらはバンバン♪バンゾク♪なのに、なんでこうも、よくわからんところでクオリティが高いのだ。


 こいつらが野生の勘で単に思いついただけかもしれないが、もしカリスト教が、滅んだ世界にあったものなんかをこっそり伝えていていたらどうだ?

 俺が問い詰めたいのはそこだ。


 もし、銃や電子製品の存在が知られているなら、俺が必要とする電子製品の場所、それをカリスト教の聖職者や、神聖オーマ帝国のお偉いさんのこいつらなら、何か知っている可能性だってある。


 尋問の仕方も考えないといけないな。まずは懐柔……か?と言ってもこちらから何を出せばいいのやら?

 そうだな……こいつらは夜の襲撃から逃げ出してきて、いまはもうお昼前だ。腹が減ってるだろうし、飯でも用意するか。


 俺はクラフトメニューを出す。そして気が付いた。

 いまんとこ、草の他に出せるもの無いな、と。


 草生えるわ、いや、冗談ではないが。


 えー、あと今作れる食事って言ったら、材料がアレの「兵士たちの朝食」しかないんだけど……草を食わせて虐待したら口が堅くなるだろうし……。

 うーんここはこれにするかぁ?


 いや、うん、加工食品だしきっと大丈夫。いや不安だ。

 一旦豆腐ハウスの中で「兵士たちの朝食」の中身を確認しよう。指を丸ごととか、目玉がぷかぷか浮いてるスープになってないか、それだけでも見なくては。


 クラフトメニューから作成した「兵士たちの朝食」は缶詰の形をしていた。蓋を開けて中身を確認する。

 ふむ、どこも妙なところは……ない気がする。一緒に作ったスプーンで持ち上げてみる。うん、髪の毛とか爪が混じってるわけでもない。


 色はちょっと赤に寄った茶色。見た感じはぶつ切りにされ、くたくたに煮られた大きめの肉が入ったシチュ―って感じだ。なんていうんだっけこれ?グーラッシュだっけか?

 目玉も指も耳もはいってない。ほんとにただのミートシチューだ。


 ちょっと不安だけど、お出しするとしよう。

 給仕するのが可愛いエルフじゃなくて、全金属性のオッサンでわるいが、騎士たちの目の前に、皿に盛られた「兵士たちの朝食」を出す。


「……」


 こういう時、なんて言って出せばいいかわからないの。


 騎士たちは恐る恐る口に運ぶ。そして次の瞬間に起きたこと、これが俺には全く理解できなかった。

 何故か騎士たちは俺たちに対して土下座のポーズをして、完全服従の意を示した。

 ……はい?

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