決戦の地へ

 神聖オーマ帝国のX字軍は陣払いをしてついに動き始めた。デイツ王は後続の1万の増援を待って、4万の軍勢で機人を打ち倒すつもりだったが、あまりにもX字軍の略奪が目に余る。

 このままでは、機人より先に、貴族共の飼っている盗賊騎士にオーマが喰い尽くされてしまう。


 デイツ王は自身の天幕の前で、まず先行して戦場へと向かう1万を見送った。

 天幕を片付け、兵士たちはぞろぞろと列を作って「ワールツュタット屍の山の地」へと向かう。わが軍は全く勇壮そのものだ。


 軍も3万ともなると一度に動かすことはできない。必要となる補給の負担が重すぎて、オーマを結ぶ交易路に負担がかかり過ぎる。そのため、それぞれの3万を1万づつの集団に分け、デイツ、ヨワネ、トンプルの3つの騎士団の長を司令官として、動かすことにした。補給の重さに加えて、3万全てを動かしている時に、ケーニヒヌベルクのようにまるごと焼かれたらたまらんからな。


 各集団には弓兵、騎兵を均等に割り振り、それぞれが軍として機能するように分けてある。これならば移動中に奇襲を受けたとしても問題はない。


 さて、戦術に関しては今回に関しては我々が用いる最良のものを用いることにするとしよう。100年ぶりの機人の出現とはいえ、我々も100年かけて、武器と戦術を磨いているのだ。負けようはずもない。数だって当時の3倍だ。負ける方が難しいだろう。


 棋譜で陣構えを確認する。我々の陣形の基本は、弓兵が前衛、歩兵が中央、重騎兵が右、軽騎兵が左だ。


 まず弓兵の使う連弩で射かけて、相手の戦力を削る。討てれば最高、手傷を負わせればよし、最悪、盾に矢が刺さるだけでも、その重みで体力を奪われる。


 そして中央の歩兵を前進させて、敵主力と衝突させる。これによって敵の主力を拘束する。

 この間に軽騎兵は敵騎兵の前に出て、その移動を制限するかして、敵騎兵の突撃を抑止する。

 こちらの重騎兵、つまり騎士たちは敵の後背に回り、そこにいるであろう弓兵を蹴散らす。しかるのち、敵主力の背中に襲い掛かり、敵軍の士気に衝撃を与えて、主力を粉砕する。


 神聖オーマ帝国が領土を広げたのは、この弓兵、騎兵、歩兵の三軍をうまく活用したからだ。

 1万の軍を食いつくした機人とはいえ、当時はほぼ歩兵だ。

 それにこれまでに奴が相手をしたのは、冒険者、そして街と砦を一方的に焼いただけだ。

 我々の戦術は知らないはず、ならば十分に勝機はある。街を滅ぼしたという力も、恐らく制限があるか何かですぐには使えないのだろう。


 ならば今が好機だ。


 機人に人間相手の戦術が効くかは正直賭けだ。

 しかし、兵は拙速を尊ぶ。多少不味くても早めに動いた方が良い。

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