第036話 勘違いの始まり

「なんで一発で成功してんのよ!! 私だって発動するのに一週間かかったのよ!? それにあの威力は何よ!? あんなの"火球"の威力じゃないわよ!?」


 驚愕のあまり物凄い形相で叫んだ美玲が俺に詰め寄ってきた。


「そんなこと言われても俺が覚醒したのはつい最近だから知るわけないだろ!?」


 俺だって失敗しようと思ったんだけど、無意識に成功させてしまって驚いている。どうしようもないのでしらばっくれるしかない。


「それもそうね……やっぱりあの時の反応は間違いなかったのかしら……」


 俺の言い訳に納得したらしい彼女は、少し俯いて顎に手を当てブツブツ何かを言いながら考え込み始める。


 ふぅ。なんとか誤魔化せたようだ。


「……とりあえず分かったわ。次の術を使ってみましょ。土属性の"石礫"の術を使ってみなさい」

「りょ、了解」


 暫く考えていた美玲だったが、思考の海から戻ってきて俺に指示を出す。俺は戦々恐々としつつも、その言葉を受け入れた。


 俺はこの時忘れていた、自分の属性が何かということを。


「"石礫ストーンバレット"」


―スドドドドドドドォオオオオオオンッ


 別の的に向かって複数の岩を銃弾のように放出するストーンバレットの魔術を撃ち込んだら、的は粉々になってしまった。


「ど、どうだ?」

「……」


 俺は再びビクビクしながら尋ねたら、美玲は無言で視線を落としてまた無言になってしまう。


「……次の術行くわよ」

「あ、はい」


 数十秒ほど経って顔を上げた美玲は、有無を言わさずにまた次の術を俺に使用させる。


「"電撃サンダーボルト"」


―ピシャーンッ


 符が稲光となって的に襲い掛かる。的はこれまでの魔法同様に炭と化してしまった。


「……次」


 ジッとこっちを見てから次の陰陽術を催促する美玲。何も言われないから気が気じゃない。


「"水球ウォーターボール"」


 俺は先ほどまでの流れの通り、その言葉を受けて魔術を発動させる。


―ドンッ


 水の球が飛び出し、的に着弾してへし折る。今まで使った中で一番地味で威力も小さい。そのせいか、今度は特に考えるそぶりも見せることなく、俺に次の指示を出す。


「次」

「"風刃"」


 そして最後に、五大属性の内の残った木属性の陰陽術を発動させた。的は完全に切り刻んで細切れにし、無残な残骸となってしまった。


「これで教えてもらった術は終わりだけど、どうするんだ?」

「……」


 全ての術を見終えた後で美玲に話しかけるが、すでに考え事をしている美玲に俺の言葉は届いていないらしく、なんの返事もなかった。


 美玲は一体何を考えているんだ?


「なぁ――」

「やっぱりあんたが太極属性のなのは間違いなさそうね」


 あまりに長いので、考える美玲に声を掛けようとした途端、彼女は口を開いた。

 

 そこで俺は思い出した。自分が陰陽師協会で講習を受けた際に判定された属性の事を。それが今まで誰一人として存在しない属性であることを。


 聞かれることもなかったので今まで完全に忘れてしまっていた。


 うわぁ……やってしまった……。


 どの属性の魔術も威力に差異はなかったはずだ。つまり彼女はそんな俺の魔術を見て、全ての属性の陰陽術を百%引き出すことが出来る存在だと確信したわけだ。


 気づいていれば他の属性の術の威力を調整したのに……。


 俺は忘れてしまっていたことを後悔した。全世界でただ一人の太極属性であると―実際にはただの魔術適性にも関わらず―そう彼女に認識されてしまったのであった。

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