第032話 真逆すぎる提案

 俺が美玲の後を追ってやってきたのは屋上。


「どうしたんだ?学校で話しかけてくるなんて珍しい。いや、むしろ初めてじゃないか?」

「そんなことはどうでもいいのよ」

「いや、良くないだろ。別にいいんだけどよ。それで何の用なんだ。こんな所に連れ出して」


 俺の質問を素気無く切り捨てる美玲を見て、埒が明かないと思った俺は話を先に進める。


「あんた、あの日はどうしたの?」

「あの日?」


 あの日って言われても何のことかさっぱり分からない。


「陰陽師協会に妖の襲撃があった日よ」

「ああ。美玲に逃げるように指示されたから帰ったけど?」


 もしかして俺のことを覚えているのか?

 別に記憶を消したり、封じたりしたわけじゃないからそれもありえないことじゃない。


 俺は警戒しながら嘘をついて様子を見る。


「そうよね。あんたな訳がないわよね……」


 反応を見る限り彼女は覚えていないらしい。


 何やらウンウンと自分に言い聞かせるように頷いてからブツブツと呟き出した。


「それがどうかしたのか?」

「いえ、なんでもないわ」


 美玲の中で何か解決したらしく、俺の疑問に答えることなく彼女は首を振った。


「そうか。用件はそれだけか?」

「いいえ、もう一つあるわ」


 彼女の疑問が解決したのならそれで終わりかと思ったが、まだ話があるらしい。


「なんだよ」

「あんたこれからも初心者講習受けるつもりよね」

「まぁな。折角だから受けるつもりだ」


 何を聞いてくるかと思えば初心者講習の話か。身構えて損をした。


「どうしてもって言うなら私があんたの専属になってあげてもいいわよ?」

「ん? 専属ってなんだよ」 

「本来初心者講習って言うのは持ち回りで教えるから基本的に同じ講師に教えてもらえると決まっているわけじゃないのよ。だけど、一人の陰陽師がつきっきりで教えるってことも出来るってわけ」

「ほーん」


 なるほどな。でもそれって凄く目立つと思うんだよね。こいつって良いところのお嬢様だし美少女だ。しかも普段男に対してそっけない態度を取っている。


 そんな女の子が一人の男に、しかも元霊力ゼロの落ちこぼれにつきっきりになるってのはいろんな意味で注目の的でしかない。絶対に面倒なことになる。


 俺が目指すのは平穏な陰陽師生活。それに真っ向から喧嘩を売るような真似はしたくない。


「なんか興味無さそうね」

「いや、ちゃんと教えてくれるなら別に誰でも問題ないかな」

「な、何よ!? 私じゃ不満だって言うの?」


 だから出来るだけ無関心に振舞ってみたら美玲が慌て始めた。


「い、いやそういうわけじゃないけど、特別扱いしてもらうのも悪いだろ?」

「優秀なこの私が教えてあげるんだからあんたは感謝して受けとけばいいのよ」


 俺が極力穏便に収めようとするが、偉そうに口走る。


「……」

「……今のは無し……」


 しかし、俺が黙っていたら、今のは自分でもないと思ったらしく、プイっと顔を逸らして頬を赤らめる。


 もしかしたら何か考えがあるのかもしれないな。


「はぁ……分かった分かった。お前が教えてくれるっていうならそれに越したことはないよ。だからそんな顔するな」

「全く……本当は嬉しいくせに素直じゃないわね」


 本当は嫌だけど、断腸の思いで折れてやったらヤレヤレという顔をされた。


 こっちが譲歩したのになんでだ!?


「素直じゃないってのはそっくりそのままお返しするわ」


 俺は呆れつつ妹でも見ているような気持ちで返事をした。


「それじゃあ、講習は毎週土日にやるからちゃんと来るのよ」

「はいはい、分かったよ」


 こうして俺は美玲に専属で陰陽術を教えてもらうことになった。

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